3-3
今頃シャワーを浴びているのだろうか……いや、てっぺんが東京タワーに届くくらい聖書を積んで誓ってもいいって、覗こうなんて思ったりはしてないよ。そんな勇気が僕にあるもんか。
しばらくすると着替えた彼女が戻ってきた。Yシャツに膝まで裾を折り返したジーンズという姿で、乾き切っていない髪を無造作に肩に垂らしている。シャワー後のせいか、かすかに頬が火照っているように見えた。
繁華街で見かける女子高生みたいに、あらゆる化粧を塗りたくって作った顔じゃない。あんな醜悪な落書きをするまでもなく、素のままの彼女は滴り落ちるような潤いに満ちていた。露出している首や手足は僅かに日に焼けて淡い小麦色をしているが、その下はおろしたての牛乳石鹸みたいにつやつやしている。
当時からこんな目で彼女を見てたわけじゃないよ。この話は僕の回想って事で、あの時感じた事を言葉にしてみるとこうだった事さ。当時はただ単純に、そして完全にあの子に心を奪われていた。骨抜きになるってやつだ。
当時の僕が童貞で引きこもりという事を差し引いても、彼女は十分に美少女だったと思う。今なお、出会ったばかりの頃の姿は心に焼き付き、いささかも輝きは失われていない。
僕の視線に気付いているのかどうなのか、彼女は両手に持っていた缶の片方をこっちに差し出した。
「飲む?」
思わず受け取ってしまったが、改めて見てみるとそれはビールだった。ラガーだったかな、今でも飲めないから銘柄はよく覚えていないけど、確かそんなような名前のやつ。手に張り付きそうなくらいギンギンに冷えていた。
「ありがとう」
とにかくぼそぼそと礼を言い、普段飲み慣れているような振る舞いでプルトップを開けた。こんなもの触った事すらないとは思われたくなかったんだ。でも口にした瞬間、あまりの苦さと不快な泡立ちに耐えられず、吐き出した。
「あんた、何て言うの? あたし、津田海里」
「内藤」
「内藤くんはどこから来たの?」
出来の悪い小学生に話しかけるような口調だったが(彼女も自分の方がわずかに年上だと悟っていたのだろう。それに僕は幼く見られる事が多い質だった)、彼女が僕に興味を持ってくれた事は嬉しかった。質問はいつかと同じだったが、今度こそちゃんと相手の耳に届くように、僕は出来る限り大きな声で事の成り行きを語った。




