1.ボトルの外
物事の因果を果てしなく辿っていけば、すべては宇宙の原初に起きた爆発、ビッグバンに辿り付く。
通勤電車で痴漢冤罪の目に遭って人生粉砕されたサラリーマンも、ビルの六階から飛び降りた奴の真下をたまたま歩いていただけって理由で下敷きになって死んだ奴も、そして僕が平日の日中に部屋で寝ているのも、みんなビッグバンが悪いのさ。
あの静止した真っ暗闇の中で神だか仏だかが気まぐれで起こした大爆発は数々の星を産み、地球と多様化した生物の進化を作り出したが、同時に僕のような登校拒否のニート野郎も作り出したって事だ。まったく罪なもんじゃないか、ビッグバンとかってのは。
僕はポテトチップスみたいに平たい布団に身を横たえ、胎児のように丸くなりながら、部屋の一点を見ていた。棚んとこに置いた素焼きの植木鉢が横倒しになり、中の土がこぼれている。土はすでに乾き切り、西部劇映画に出てくる荒野の一部のようだ。
元はあそこに小さなサボテンが植えてあったのだが、今は完全に枯れて縮み上がった干物になっており、半ば土に埋もれている。
あの植木鉢を倒したのが確か去年だ。本を取り出そうとして手を引っかけてこぼし、それっきり放ったらかしにしていた。いや、片付けるつもりはあったんだよ、明日あたり。いや明後日かな。……という具合に先延ばしにし続けた結果、いつの間にか季節は巡り、桜が咲いて散ってそれで今日に至るというわけさ。
僕が今何をしているのかと言うと、眠ろうとしているのだった。普通の人の活動時間に眠り、その逆の時間帯が来たら起きるのが僕の生活だ。
カーテンを締め切った薄暗い部屋には汗と埃の臭いが満ちていて、どれだけエアコンをきかせても少しも換気が行われない。僕の胸に詰まっている、陰鬱とした暗闇と同じくね。
枕元に置いたデジタル時計を手に取り、ボタンを押してバックライトを点灯させる。朝十一時から、もう少しで正午になろうとしている。横になってからもう数時間が経つのに、ほとんど眠れない。緩やかな混濁と曖昧な覚醒を繰り返し、頭の中には朦朧とした霧がかかっている。
体はだるく、睡眠を欲しがっているのだが、頭のどこかが眠る事を拒否していた。毎晩……もとい毎朝繰り返される不眠の症状だ。重苦しい眠りは不快で、苦痛ですらある。
こんな日は、まあこんな日って言ってもほぼ毎日なんだが、決まって現状だとか過去だとかを思い返す。物語の冒頭に回想シーンを入れるのは良くないって何かに書いてあったからここでは控えるが、とにかく頻繁に寝返りを打ちながら、僕は目を閉じたり開いたりしていた。時間が過ぎ去るのを待ちながら。