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バブル時期に粗製乱造された一軒家の床板はダンボール二、三枚程度の厚さしかないらしく、階下を動き回る母親の足音が震動になって伝わってくる。いつもの苛立たしげで、わざと大きく響かせているような、僕への当てつけのような足音だ。
閑静な住宅街であっても、こうしてじっと薄闇の中で耳を澄ませていると、実に色々な音が聞こえて来る。居間に掃除機をかける音、近所の犬が餌鉢から舌で水をすくい上げる音、おばはんたちの立ち話、かすかなテレビのざわめき。これらはもうしばらくすれば学校が終わった小学生の喚き声に掻き消されてしまうだろう。
世の中は今日も確実に回り続けている。誰もが目的を持ち、明日の飯代やローンの支払いやデートの為に動き続けている。僕はただ一人凍り付いた時間の中で、こうして静かに息をしている。何もかもが停止するのを待ちながら。
眠りはいつもブツ切れだ。本来なら昼行性動物である人間は昼間ぐっすり眠れるように出来ていないってどこかで聞いた通り、頻繁に中途半端な覚醒が繰り返される。それでも僕は眠り続けようとした。現実を否定するように。
睡眠欲の在庫を使い果たし、もうどれだけなだめすかしても眠れないという所まで来てなお、しばらくグズグズと布団の上で寝返りを打つ。まあ、起きる頃合いだろう。だけどいざとなるとこの気だるさが名残惜しい。
僕はとうとう目覚める事にした。嫌々ながら、しかしこみ上げる拒絶感にあらがう事も出来ずに。体が真っ直ぐに立ててくれ、このままじゃ溶けて布団に染み込んじまうって悲鳴を上げているんだ。
十時間以上横になっていたが、眠れた時間はせいぜいその三分の一だろう。体は重く、相変わらず頭の中には霧がかかっていて、少しも気が晴れない。
カーテン越しに見える外の世界はすでに真っ暗だ。日が暮れて数時間は経っているだろうか。改めて枕元の時計を見ると、夜十時を指していた。
今まさに墓場から這い出したばかりのゾンビのように布団から出、そして途方に暮れた。まるで自分が幼虫のままである事を忘れて地上に出てしまったセミだよ。起きたから何だって言うんだ。何かやる事があるのか?
鈍い頭痛が頭の奥に居座り、体は泥のような倦怠感に包まれている。電灯を点けると光が強烈に目に染みた。顔面に白熱灯を押し付けられているみたいで、眼球が焼けそうだ。
僕は机に飾ってある初音ミクのフィギアに挨拶をした。




