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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-17. アニスとシズアは水源を目撃する

「ここを登り切れば、水源が見えるぞ」


ランが坂の上を指差して皆に知らせる。

かなりの遠回りではあったが、やっとここまで来た。結局、連なる二つの山を迂回したことになる。

正直、アニスは坂の向こう側に水があるのは分かるものの、地形のすべてが見えていないので、そらがサリエラ村の横を通る川に繋がっているのかを判別できない。ただ、山二つ分戻れば、確認できるだろうと考えていた。


時間はまだ昼食からそれほど経っていない。が、シズアやリョウ達の表情には疲れの色が見えた。

それもそうだろう。今朝、出発してからは流石に魔獣の数が増えた。前日も近付いて来ない魔獣は放置した結果、戦いになったのは一頭だけだったが、今日は既に三頭と戦っている。

それらすべてについて、前衛はリョウとカズの二人、それをシズアが支援する三人編成を中心として対応していた。


戦いを繰り返したとは言え三回では、リョウとカズの個人の力量はそれほど向上しない。しかし、三人の連携は戦いを追うごとに良くなっていった。

それは、リョウとカズの動きにシズアが慣れたこともあったが、連携強化のためにリョウ達二人がシズアに戦いの指揮を託したのが大きかった。


戦闘経験が少なかったとしても、リョウもカズも魔獣の攻撃を(かわ)(すべ)は身に着けていたし、だからそう簡単には崩れなかった。なので、シズアは自分の都合の良い場所に二人を配置し、自らも剣や魔法で攻撃することで活路を開いていた。

ただ、所詮は急ごしらえの編成、時として誰かが魔獣の思わぬ攻撃で体勢を崩すこともある。


そんな時は、ランやアニスが助けに入って立て直させる。

そうしで三頭の魔獣とも倒してきたが、戦いの中心となっていた三人の身体には疲れが溜まっていた。


まあ、本当に不味(まず)ければ回復魔法を使って疲労を取れば良いのだが、そんな事態にはなっていないし、三人とも弱音を吐かなかったので、ランもアニスも三人の意志を尊重して魔法を掛けずにいる。


でも、ともかく水源にまで来ることができた。

坂を登り切ったところで六人は並んで立ち、その向こうの景色に見入る。


「これはまた随分と大きな湖だな」


リョウが感想を口にするが、それは誰もが思ったことだ。

手前側は迂回して来た二つの山や、さらにその隣の山々が並び、向こう側にはそれより高いテナー山脈の山々がある。それらに挟まれた谷間に水が溜まり、広い湖になっていた。


「ねぇラン先輩。川はあっちの方かな?」

「そうみたいだが、ん?」


ランが眉を(ひそ)める。


「どうかした?」

「何かで川の出口が()き止められているみたいだな」

「だから川に水が流れ込まずに干上がったってこと?」

「そうだと思うが、詳しくは実際にあそこに行ってみないと分からないな」


ならば自分が遠見の魔法で確認してみようか。

そんな考えが一瞬アニスの頭をよぎるが、ランが分からないと言う以上、わざわざ光魔法が使えることを明かしてまで遠見の魔法を使ったとしても得る物は無さそうだと考え直す。


「だったらあそこに行ってみようよ。でも、どうやって行けば良いかな?小舟があれば湖の上を真っ直ぐいけそうだけど」

「いや、それは止めておいた方が良さそうだ。水の中に魔獣がいそうな気がする。それよりも、ほら、ここから少し降りたところから山の斜面沿いに道があるように見えないか」

「うん、あるね。でも、そこから道が始まってるってこと?」


きちんと調べたくなったアニスは、湖の(がわ)に坂を下りていく。そして、ランが指し示した場所に着くと、周囲を注意深く観察し始めた。


「アニー、何を見てるの?」


シズアも坂を下りてきた。


「ん?何か、ここから道みたいなのがあってさぁ」

「あー、そうね。どうしてこんなところに道が?」

「湖沿いに進むために作ったんだと思うけど、どうやって作ったんだろう?魔法かな?シズ、どう思う?」


アニスに問われたシズアは、答えを探そうと地面に腹這いになり、手掛かりを探そうとする。


「ほら、アニー。所々に引き()った跡がある。時間が経っているから少し風化してるけど、雨が降っていなかったお蔭でまだ痕跡が残っているわ」

「あ、本当だ」


シズアの指摘通り、道になっているところの地面に何かで擦った跡がある。


「ねぇラン。これを辿ってみたいんだけど、先に行ってみても良い?」


坂の上に振り向き、伺いを立ててきたアニスに、ランは頷き返した。


「ああ。ただ、そんなことはないと思うが、その道が湖から遠ざかるようなことがあれば、先には進まずに待っていてくれるか。あと、湖に落ちないようにくれぐれも注意して」

「分かった。アッシュ先に行って」


バウッ。


アニスの指示を受けたアッシュは、細い道を駆けていく。


「シズはどうする?」

「私は走る元気はないから、ラン達と行くわ」

「えー、一緒に行こうよ。そだ、二輪車なら良くない?」

「滑り落ちたりしないかな?」

「斜面を削るように筋が付けられているから、そこから外れなければ問題ないって」


シズアを説得しながら、アニスは収納サックから二輪車を取り出した。

それを見たリョウが目を丸くして声を上げる。


「えっ?バイクなんてあるんだ?」

「バイク?」

「二輪車のことよ」


首を傾げるアニスに、シズアが説明する。


「ふーん、二輪車のこと知ってるんだ」

「そうみたいね。だけど――」

「けど?」

「いえ、いいわ。アニー、乗って」

「うん」


シズアはアニスを二輪車に跨るように促すと、自分も後ろに乗り込んだ。

言葉を濁したシズアが何を話そうとしていたのか気になりつつも、アニスは推進板に魔力を籠めて二輪車を前に出す。


二人の乗った二輪車は、森の斜面を横切るように付けられた筋のような道を先へ先へと進んでいった。


「大体同じ高さの所を進んでいるわね。湖の見える位置が変わらないわ。それにしても良い景色。アニーも見たらと言いたけど、それどころではなさそうね」

「うん、ごめん。無理」


流石のアニスも、二輪車の進行方向から目をそらせはしなかった。

シズアが眺めを楽めているのなら、それで良い。

ともかく道から外れないようにと二輪車の運転に集中する。


細い道はどこまでも続く。

道幅は変わることなく、ずっと一定だ。

所々に引き摺った跡が見えるので、ずっと同じようにして道を作ったのだと思える。


そんなことを考えながら二輪車を走らせていると、突然開けた場所に出た。

そこは平らな土地だったが、何か不自然だ。

アニスは二輪車を停めて、辺りを眺める。


こちらの山からテナー山脈の山裾まで、平らな地面で繋がっており、そこには草木が殆ど生えていない。

そして、こちらと向こう側、どちらも山に近いところは幅が広いのだが、中央の方は幅十メートルくらいの通路のようになっている。


地面の左側は湖に面しており、右手には何もない。いや、低い塀のような壁が続いている。

探知魔法で調べても、魔女の力の目で見ても、壁の先には何もなく、絶壁になっているだけだ。


「これは何かな?」


困惑気味のアニスに対して、シズアは至極冷静だった。


「前世の言葉で言えば、ダムね。巨大な(せき)と言えば分かる?」

「堰?これが?」

「そうよ。そこの壁から下を眺めれば、川が見えると思うけど」


アニスはシズアの言葉を確かめるため、壁のところまで行くと、そこから乗り出して下を見た。

確かに谷底は川に見えなくもないが、そこに水は無い。


「何か下は乾いているみたいだけど」


アニスが伝えると、シズアは悩ましげな表情になった。


「普通なら、ここから水が流れ出ている筈なのにね。ねぇ、アニー。箒に乗って、この堰に水門が無いか確認できない?」

「良いよ。シズも一緒に行くよね?アッシュは悪いけど、ここで待ってて」


バウッ。


アッシュの聞き分けの良い返事を聞くと、アニスは箒を取り出し、シズアと一緒に跨る。

箒に魔力を与えて浮かすと、壁を超えて谷側に出てから、堰沿いに下へと降りていく。


「ほら、ここの大きな扉、これが水門よ。でもこの水門は開いているのに水が出ていないわね」

「水門の向こう側のどこかで、何かが詰まっているから水が流れていないってこと?」

「そう考えるのが良さそうね。となると、湖の側を調べることになるけど」


「ねぇ、ここから水門の中に魔法を放って詰りを無くしたらどう?」

「そんなことをしたら、沢山の水が一気に流れ出して下流で洪水になるわよ。詰りを取り除く前に一度この水門を閉じて、水が流れるようにしてから水門を少しずつ開けるべきね」


「水門の開け閉めができるかな?」

「できるとは思うけど、それはラン達が来てからにしない?」

「そだね。その前に、一度谷底まで下りて調べてみようか」

「ええ、そうしましょう」


そして二人は箒に乗ったまま谷底へと降りていったのだった。


勿論、シズアも一人で魔法の箒には乗れるんですが、魔力をどれだけ消費することになるのか分からなかったので、アニスの箒に同乗したのでした。

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