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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第五章 アニスとシズア、初めて旅に出る
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5-16. アニスとシズアはカレーライスを食べる

ランが崖下に空いた穴の前で立ち止まった。


「これは洞窟だね。岩盤に囲まれているて、崩れる心配もなさそうだ。リョウ、今夜はここで休んではどうだ?もう、日も暮れかけてきたし」

「奥に魔獣なんかがいたりしないんだろうな?」

「いないと思うが、念のために見てくるよ。エイミーはアニス達と待ってて貰える?」


ランに目を向けられたエイミーは、にっこり微笑みながら頷いてみせた。


「うん、待つ」

「私は行きたいんだけど」


アニスが控えめに言い出すが、ランは首を横に振る。


「君もここで待っててくれないか?洞窟の中より外の方が危険そうだからな。君が残ってくれれば、エイミーも心強いだろう」

「でも――」


それでも食い下がろうとするアニスに、ランは目を細めながらニヤリと口の端を上げた。


「後輩は先輩の言うことを聞くんじゃなかったのか?」

「うー、分かりました。ラン先輩」


ランを先輩と宣言したのはアニスだ。それを持ち出されては、言い返せない。

実際、ランの言いたいことも分かってはいる。

シズアはまだしも、リョウとカズの二人は、戦力に数えるにはまだ辛い状態なのだ。


そのことをアニスは薄々と感じていたのだが、先程、それが明白になる出来事が起きた。


それは、アニス達が森の中を警戒しながら進んでいた時のこと。

常に風の付与魔法と力の眼で周囲を探知し、警戒していたアニスが前方に魔獣らしき物を見付け、アッシュと共に先に行こうとした。が、そんなアニスをランが止めた。

魔獣とは全員で戦おうと。


どうやら、これまでも春告草は全員で魔獣と戦って来たらしい。そうしないと、いつまで経ってもリョウとカズは経験も実績も積めないからだ。

なるほどと思ったアニスはランの言葉を受け入れ、そのまま全員で揃って先へと進んだ。


そして魔獣と遭遇する。相手はアークライオン。身体に電撃を纏うC級の魔獣。

冒険者達の最前面は、左手に皮の盾、右手に剣を持ったリョウとカズ。その後ろに両手で剣を構えるシズア。そのシズアの後にランとアニスが立ち、最後尾が杖を握ったエイミー。


戦いの最初はリョウとカズが盾を上手く使いながらアークライオンに攻撃を仕掛け、シズアが風魔法を使いながら二人を援護する。

しかし、盾を持った二人は、相手の攻撃は何とか凌げていたものの、中々自分達側から仕掛けることができずにいた。


シズアも前に出ることもあったが、大抵は二人の後ろからウィンドカッターを打ち込んでいた程度。魔法の紋様の見える眼鏡を掛け、十分に魔力を注ぎこんで魔法を発動させていたので、以前よりも威力のある魔法を打てていたが、二人と一緒に戦うのが初めてなことから、位置取りに戸惑っている様子が伺えた。


アニスはランを見習い、シズア達の戦い方を見ていた。アッシュも少し離れたところでアニスの指示を待つ。

暫くの間は、三人対一頭の戦いが続いた。事態が動いたのは、魔獣の前脚の爪の剣を受けたシズアが、衝撃を殺し切れずに後ろに転倒して眼鏡が外れてしまった時。


アニスが「アッシュ!」と叫び、剣を脇に構えながら前に出、剣を振らずにそのまま体当たり。その勢いに踏ん張ろうと力を入れた魔獣の右前脚にアッシュが噛みつく。

そうして魔獣がよろけたところにアニスが身体を回転させて勢いをつけた剣を叩き込み、今度は「シズ!」と叫んだ。

アニスやアッシュとは何度も一緒に戦ってきただけあって、シズアの反応は早い。十分に魔力を籠めたエアブレイドの魔法を叩き込み、アークライオンに止めを刺した。


リョウとカズも善戦した。しかし、アニスが介入した時はまったく動くことができず、経験の浅さを露呈してしまった。

冒険者としては未熟。そのことは二人も自覚している。しかし、めげずに何が悪かったのか、どうすれば良かったのかと話し合い始めた様子を見て、いずれは強くなりそうだとアニスは思った。


ただ、今の時点では当てにできる戦力ではない。シズアも共闘し慣れたアニスがいれば力を発揮できるが、そうでないと今一つ。その一団をエイミーだけでお守するのは荷が重い。

となると、残念ながらアニスもシズアと一緒に洞窟の外で待っているしかない。

そう、それは分かっている。


バウッ。


アッシュがアニスを元気づけるように吠えた。


「ねえ、ラン。アッシュなら連れていける?行きたがってるから」

「ああ、構わない。行こう、アッシュ」


バウッ。


嬉しそうに吠えるアッシュを伴い、ランは洞窟の中へと入っていった。ラン達が奥に進むに連れ、肩の上にあるライトの魔法の光の珠の輝きが薄れていき、遂には見えなくなる。


「それじゃ俺達は夕飯の準備でもしておこうか」


リョウの提案に異を唱える者はいない。

ランは、魔獣はいないだろうと言いながら中に入った。ならば十中八九魔獣はいない。それだけ皆はランの探知能力を信じていた。そうであってもなお洞窟の奥へと確認しに行くのはランの真面目な性格ゆえなのだろうが、それも好ましいものとして皆がランを信頼する所以(ゆえん)になっている。


そして皆はランが戻るまでに夕飯の支度を整えようと動き始めた。

エイミーとシズアが森から拾って来た木の枝で焚火を起こしている脇で、リョウは地面の上で胡坐をかき、収納サックの中をごそごそと漁っていた。


「何してるの?」


横から覗き込みながらアニスが尋ねる。


「ん?折角米が手に入ったから、良い物を作ろうと思ってな。それでこの前手に入れた食材を探してるんだが、あ、あった、これだ」


リョウは収納サックから取り出した物を掲げてみせた。

それはガラスの容器で、中には黄色い粉が収められている。


「これは何の粉?」

「スパイスの粉末を混ぜ合わせたものだ。これでカレーライスを作る」

「カレーライス?」


アニスは首を傾げた。カレーライスは食べたことが無い。

だが、二人の会話を聞き付けたシズアは喜んで飛び上がっていた。


「やった、カレーライスが食べられる。何?リョウが料理するの?もしかして、それってカレー粉?どこで手に入れたの?」


リョウだから料理ができる?それって駄洒落?と、アニスは心の中で考えるが、シズアはそんなことを意識してはいないようだった。


「このミックススパイスは、西の公都レギアからもっと西にある、砂漠の入口の街アルスラムで手に入れた。街の食堂で食べたカレーが絶品でな、そこの店主に頼んで譲って貰った物なんだ」

「リョウ達は王国の西にも行っているのね」

「ああ、一度行ってみたいと思っていたからな。その後ここに向かったんだ」


「そして、隧道の出口で通せんぼされた」

「そう言うこと。さて、他の食材も揃っているから鍋でカレーを作るか。あ、いや、その前に米を浸さないといけないな。そっちの方が時間が掛かる。シズア達は、飯は沢山食べるのか?」


話しながら、リョウは鍋や食材を次々に取り出して地面の上に並べていく。

そしてシズア達がそれほど沢山食べないと聞くと、飯盒(はんごう)を二つ取り出し、米を研いで水に浸し始めた。


リョウは手際よく料理を作っていく。

エイミーは焚火を起こすと、寝床の準備や道具の手入れを始めてしまった。

どうもエルフ達は食には(こだわ)りがないとのことで、料理をするのはいつもリョウらしい。


リョウは、肉や玉ねぎなど一通りの下拵(したごしら)えをしてから、それらを鍋の中で順番に炒めていく。割りと時間を掛けて丁寧に火を通してから水を入れ、煮立って来たところで灰汁(あく)を取り、蓋をして煮込み始める。

それから飯盒の中の米の浸り具合を確認してから、携帯コンロに固形燃料を入れて火を点け、その上に飯盒を置いた。


「ねえ、リョウ。何で魔具コンロじゃなくて、固形燃料を使ってるの?」


アニスが不思議そうに尋ねる。


「魔具コンロは一定時間で止まらないだろう?固形燃料は無くなれば消えるから。これ一つで米を炊くのに丁度良い時間なんだ」

「あー、なるほど、決まった時間で火を消したいんだ」


確かにそういう魔具コンロは見たことが無い。でも、一定時間で止める機能は追加できるのではないかと、アニスは頭の中で考え始めた。

一方、リョウは料理作りを進めていく。


飯盒の水が沸騰(ふっとう)しはじめたのを確認すると、小麦粉とバターを混ぜてカレーのルーを作り始めた。さらにミックススパイスを加えて焦げ付かないようにゆっくり炒めていく。

出来上がったカレーのルーを鍋に入れて、あとはじっくり煮込むだけ。

程なくして飯盒の下の固形燃料が消えた。


リョウは、飯盒を携帯コンロから下ろしてタオルに包んだが、そこでシズアが疑問を差し挟む。


「その飯盒、逆さまにしないの?」


問われたリョウは、キョトンとした表情になる。


「何で逆さにするんだ?」

「え?私は逆さにするって教わった、あ、いえ、そう聞いたことがあるのよ」


シズアが慌てて言い直す。どうやら前世のことらしい。


「先輩、その話、聞いたことがありますよ。親父達が小さい頃は、飯盒をひっくり返すよう教えられていたって」


カズが横から口を挟む。


「そうなのか?だけど、それって俺達の郷里の話だよな?シズアにその話をしたのも同郷の奴なのか?」

「さあ、どうなんでしょう。別の地方でも同じような理由でひっくり返していたのかも知れませんよ」

「そう言うものか?まあ、そうなのかも知れないが」


頭が混乱したのか、リョウは困惑顔でシズアを見る。


「飯盒をひっくり返しても変わらないように思うが、試しに一つひっくり返してみるか?」

「ええ、そうね。私も比べてみたことはないし」


結局、二つある飯盒のうち、一つは逆さにして蒸らすことにした。


そしてランが戻って来てから全員揃ってカレーライスを食べたが、二つの飯盒の米の味には差があると感じた者はいなかった。


「うーん、どうして逆さにするって教わったんだろう?」


シズアはいつまでも首を(ひね)っていたのであった。


飯盒炊爨(はんごうすいさん)、遠足でやったことありますよね。シズアもです。その時は、蒸らしの際は飯盒をひっくり返すと教わったようですが...。


実はひっくり返さないのが普通みたいですね。


ん?このお話はフィクションなので、現実の話は置いておいてくださいませ。

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