11-42. アニスは洞穴の中で仲間と合流したい
何にしても先ずはラウラ達の居場所を確かめよう。
アニスは自分の周りで時空活性化、即ちゾーンを発動させた。
異空間への渡り方については、前日にウルから教わっている。
あの時の練習課題、「生身の身体で時空活性化の紋様を使い、ネレスの洞穴に転移する」には、鍵となる要素が二つ含まれていた。
一つは身体の半偽体化、もう一つが異空間への渡り方だ。
半偽体化は魔女の力を必要なだけ使えるようにするため。
然し、偽体化の割合が高いほど一度に使える魔女の力が増えるかと言えば、実はそうでもない。
ウルによれば、何をしようとするのかにより身体の中での魔女の力の流れが異なるとのこと。
それでアニスがどうしたかと言えば、時空活性化を使って異空間同士を接続したり切断するのに支障が無い程度に半偽体化した。
説明が具体的で細かいのは、時空活性化も用途により必要となる力の量が変化するからだ。
ただ単に時空活性化を発動させるだけなら、或いはウルがやってみせたように四人に分かれる位なら、生身のままでも問題ない。
異空間同士を接続したり切断する、所謂異空間接続操作に大量の魔女の力が必要であり、アニスはそれに特化した半偽体化を行なった。
目的に特化した事により半偽体化した部分は非常に限定的で、偽体化の割合は半分どころか半分の半分にも満たない。
でも、何割何分偽体化と言うのも面倒なので、半偽体化と呼ぶ。
兎もあれ、アニスが時空活性化を使ってやりたいことは、その半偽体化のお陰で生身でも問題なく出来るようになった。
アニスは右手を前に出し、ラウラの居る空間を呼び出す。
その方法は、以前、シズアを見付け出した時と同じだ。
ラウラに会いたいと強く念じて、異空間を引き寄せる。
だが、異空間接続はしない。
異空間接続しても、勿論別の異空間に渡れるが、そうすると渡った後に異空間の接続の解除が必要となるし、必要な魔女の力も大きくなる。
今のアニスならそれでも実行は可能だが、より簡単で必要とする魔女の力も少ない方法が別にあるのだ。
アニスは引き寄せた異空間に、覗き窓を開けるようにと念じる。
覗き窓は穴ではない。
穴を繋げれば、こちらの空間とあちらの空間の間で行き来ができる。
覗き窓では行き来はできず、覗き見するだけ。
アニスが引き寄せた異空間に覗き窓が開き、向こうの様子が目に入って来た。
ラウラがいる。
トニーも一緒だ。
「アニスとシズアは何処にいるんだろうな」
ラウラがトニーと話している。
「風の探索魔法の範囲内には居なさそうだね」
二人は洞穴の中に居た。
ウルは時空竜ネレスと同じ異空間だと言っていたが、ネレスの居る洞穴とは別の洞穴のようだ。
アニスが最初に発見し、ラウラが転移罠に掛かった洞穴とも違う。
鑑定眼の他に風属性を得意とするトニーが風の探索魔法で周囲の様子を探り、周囲の様子を確かめていた。
「うむ。アニス達は居ないのかも知れないが、この洞穴の奥の方を調べてみたいな。デリアの言っていた『贈り物』があるかも知れない」
「ラウの御心のままに。今度は金塊があっても直ぐに拾わないようにね。僕がその下も含めて鑑定するから」
「あぁ、十分に心得ているよ」
ラウラは自分で光の球を出して、洞穴の中を歩き始めた。
トニーはラウラの後ろから付いていく。
アニスは二人を追い掛けず、異空間の覗き窓に手を当てて風の探索魔法を発動させた。
普通の魔法は覗き窓を越えられない。が、魔女の力を使った魔法ならば覗き窓の向こう側でも発動させられる。
それもまたウルから教わったことだが、それは兎も角として、アニスはラウラ達の前後の空間の様子を確かめた。
ラウラ達の進んでいるのとは逆方向に進むと、程なく洞穴の外に出る。
ラウラ達の前方は、奥の方まで洞穴が続いており、途中で幾つか分岐もあった。
デリアの「贈り物」は、洞穴の外ではなく中にあると判断したのだろう。
それは多分合っているとアニスは思った。
では、洞穴の中の何処か。
アニスは覗き窓を動かして、ラウラ達よりも先へと移動させていく。
洞穴は内部で幾つかに分岐し、更にもっと多くの転移の魔石が設置されている。
それらの転移の魔石がすべて罠なのか、覗き窓越しでは判断できず、加えて「贈り物」らしき物は見付かっていない。
異空間の外から調べられるのはこの程度が限界らしいと判断し、アニスは認識阻害を発動した上でラウラ達から一番遠くにある転移の魔石の前に転移陣を展開し、そこへ転移した。
異空間の覗き窓は、異空間同士を繋げる物ではない。
なので、時空活性化の解除と共に消えてしまう。
しかし、展開した転移陣は時空活性化を解除しても維持される。
いや、「維持できる」と言うべきか。
覗き窓越しに転移陣を展開するだけなら、どの魔女でもできる。
でも、時空活性化を解除しても転移陣を維持できるのは、時空認識ができる魔女だけだとウルは言っていた。
ウルは細かい事まで良く確かめている。
そもそも、時空認識できなければ異空間の覗き窓を開くこともできないのだ。
覗き窓を開けない魔女に、窓越しの転移が可能かを態々確かめて貰おうとするのは、物好きの範疇に入りそうに思える。
尤も、アニスも人の事を言えた義理ではない。
だからウルに少し親近感を覚えたりした。
さて、ラウラ達のいる洞穴へ転移したアニスは、地面の上で四つん這いになり、慎重に転移の魔石を確かめる。
魔石の存在は、鑑定眼でも魔力眼でも見えていた。
ラウラが引っ掛かった転移罠とは違い、金などで隠されていないからだ。
先端が地面から顔を出すように埋められている魔石の中に、転移魔法の紋様が刻まれている。
これは罠のような特定条件で発動する物ではなく、普通に魔力を与えて発動させる物のようだ。
だから、多分、罠ではない。
まぁ、例えこれが罠であったとしてもアニス相手では無意味だ。
アニスはデリアの贈り物を欲しいとも思っていないし、何処に転移されようとも此処に戻って来る事ができる。
なのでアニスは悩む事なく、転移の魔石に魔力を注いで発動させた。
それで転移した先も、また洞穴。
その規模は、ラウラ達のいた洞穴と同程度のようだ。
アニスは手っ取り早く調べて仕舞おうと箒を取り出して跨り、洞穴の中を箒で飛び回る。
結果、この洞穴には外への出口が無い事、アニスが転移してきた転移の魔石以外に、何箇所か転移の魔石が設置されていると分かった。
「うーん、どーしよっかなー」
物は試しと適当に一つの転移の魔石を使って転移した先は、更に別の洞穴だった。
もしかすると、これは迷路なのかも知れない。
それが正しければ、迷路の先に贈り物がある気がする。
その場合、地図が必要だ。
ここまでの調査で、洞穴の中に魔獣の気配は感じられなかったし、手分けした方が地図の作成は早く出来る。
良い具合にラウラ達から離れているし、デリアによって此処に飛ばされた事にして、地図を作りながらラウラ達の方へ向かおう。
そう決めたアニスは、紙とペンとを取り出すと、今居る洞穴の地図を描いてから元来た転移の魔石を使い、一つ前の洞穴へと戻る。
そして、その洞穴の地図も描くと、ラウラ達の居る洞穴へと転移。
今度は箒ではなく、二輪車に跨りラウラ達の方へと走らせた。
勿論、認識阻害は解除しているので、ラウラ達もアニスの存在に気付いている筈だ。
二輪車の前方に複数の光の球を展開し、派手に明るくしているので、近付いているのがアニスであるとも分かるだろう。
「おーい」
アニスの期待通り、ラウラ達は二輪車に乗って近付くアニスに手を振ってくれた。
「やっほー」
アニスも手を振って応じる。
ラウラ達の手前で二輪車を止めたアニスの所に、ラウラとトニーが笑顔でやってきた。
「アニス、無事だろうとは思っていたが、会えて良かった」
「私もだよ」
「シズアは一緒ではないのか?」
アニスは首を横に振った。
「別の場所に飛ばされたみたいで、まだ見付けられてない」
「そうか、それは心配だな。所でアニス、お前、この洞穴にどうやって来たんだ?トニーと私しかいないと思ったんだが?」
「洞穴の中に仕掛けてある転移の魔石を使ったんだよ」
そこでアニスはこれまでの事と、自分の推測とを二人に説明する。
「転移の魔石を使った迷路か。成程、そう考えれば洞穴の中に転移の魔石が幾つも設置されている事も納得できるな」
「それで手分けして地図を作ろうと思うんだけど?」
「そうだな」
と、ラウラは腕組みをして考える様子を見せた。
「これが迷路なら、目印を付けながら一定の規則を元に前へ進むのが良くないか?それで転移した先の洞穴の中を手分けして調べつつ、その先に転移する時は同じ規則を守って進む。洞穴に目印を付けておいて、同じ洞穴に戻ってしまったら、まだ使っていない転移の魔石を選んで同じ事を繰り返す。そうすれば迷路の出口に辿り着けそうに思うのだが、どう思う?」
「何となく分かった。迷路の壁に右手を付けて前に進むのと同じ事をやるんだね?」
「そうだ。右手の法則だな。それを転移の魔石のある迷路に当て嵌めてやってみようと言う事だ」
「おけ、それで行こ」
きっと、そこまで難しい迷路ではないだろうし、であれば解き方を議論するより、動いた方が早い。
三人は、転移の魔石の選び方を決めると、その法則に従い、最初に使うべき転移の魔石の方へと移動を開始した。
その魔石はラウラ達が通って来た中にあったため、ラウラとトニーが先を進み、アニスがその後ろから付いていく。
二人の後ろ姿を見ながら、そう言えば悪戯をしてみようかと考えていた事を思い出すアニス。
先程は空間の覗き窓越しに魔法で悪戯する事を考えていたが、完全無詠唱であればアニスの仕業とは分かりようも無いので、今此処で悪戯しても同じかも知れない。
試しにと、ラウラの頭の上に初級魔法の水の魔法の紋様を描いて、少しの水をラウラの頭の上に落としてみる。
「ん?」
ラウラは頭に手を当て、その手が濡れたのを見ると、頭上を見てからアニスに視線を向けた。
「アニス。私に何か用か?」
「へ?どーして私?」
「洞穴の天井は濡れていないだろう?であれば魔法と考えるのが自然だが、魔法でこんな細かい芸当ができるのはお前しかいないからな」
「うー」
やっぱり覗き窓越しにやれば良かったか。
いや、それでもアニスがやったと思われる可能性もあり、その場合、誤魔化すのが面倒になるよなぁと思うアニスだった。
アニスの悪戯は可愛い物です。
ところで、10章で出鱈目だと言われていた能力について、アニスとして少しは理解が進んだようですね。




