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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第二章 アニスとシズア、冒険者になる
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2-11. アニスとシズアは絡んでくるのをお断りしたい

アニス達は道なりに南に向かっていた。道と言っても、獣達に毛が生えた程度のものでしかない。街の方からこの道を辿っていっても先にあるのは迷いの森しかなく、通る人など殆どいないのだ。


そんな道を暫く進むと、広い道に突き当たる。街と領都とを結ぶ街道だ。領都は街の南南西の方向だが、街の南には大きな森があり、道はそれを迂回するように作られている。なので、賢者タキの家から南に下ったところの街道は東西に延びている。


その街道に突き当たった交差点から左、つまり東に真っ直ぐ行けば街、右に曲がると道は段々左へと回り込んで領都へと繋がっている。

街を目指していたアニスは、勿論左へと曲がった。


街道と言っても人通りは多くない。街の他には村が点在しているくらいでしかなく、この地域で商いを営む商人が領都との往復に使う程度の需要しかないからだ。

実のところ、街を通り抜けた先を進めば、王都に行けなくもない。ただ、王都に向かう途中には山や森があり、そこでは魔獣の他に山賊も出ると言われていて、そこを通ろうとする猛者は少なかった。領都から王都に向かうには綺麗に整備された道があるので、わざわざ危険で遠回りな道を選ぶ者はいないのだ。


なので、アニス達が街道に入ってから、行き交った馬車は一台だけだった。もっとも、その馬車の御者にはガン見されたが。アニスは視線に気付かない振りをしながら馬車の横を通り過ぎつつ、二輪車に乗っていると目立つのは避けられそうもないなと感じていた。


そんな時、前方に歩いている人の影が見えた。領都から街に歩いて来るとは考えにくいので、この周辺で依頼をこなした冒険者ではないかと思われた。人数は四人。

四人はこちらに背を向けて、街へと歩いている。後ろから近付くにつれ、四人の様子が良く見えるようになり、その背格好から少年達だと判別できた。


「あれ、イラ達じゃない?」


後ろからシズアが話し掛けてくる。イラ達とは、先日、神殿の中庭で出会った神殿学校の生徒たちのことだ。男二人、女二人の四人組。一番背が高かったのは最年長のイラで、長い髪を三つ編みのハーフアップにしていた。


その時と同じ髪型の後ろ姿から、アニスもイラではないかと考えていたところだった。


「うん、そうみたいだね」


そして間もなく、二人はイラ達に追い付いた。


「やあ、イラ。こんにちは。南の森の帰り?」


アニスは二輪車に乗ったまま、イラ達の横をゆっくり走りながら声を掛ける。


「あら、アニス。違うわ、小ダンジョンに行って来たのよ」


小ダンジョンは、この道から少し南の森の方へ入っていったところにある廃墟が入口になっているダンジョンのことだ。


「それって依頼で?イラ達も冒険者になったの?」

「ええ、実戦経験も兼ねて素材収集の依頼を受けて行ってきたのよ。私達もってことは、貴女達も冒険者に?そう言えば、威勢のいい少女の姉妹が冒険者になったってギルドで話題になっていたわね。あれって貴女達のことだったのね」


イラに見詰められて、アニスは目を逸らす。


「いやあ、どうだろうね」


かなり可能性は高いだろうなと思いつつ、実際に自分達でその話を耳にした訳ではないので、確かなことが言えないのは事実。


「ところで、貴女達、何に乗っているの?見たこともない乗り物なのだけど」


イラは目を丸くしてアニス達を、と言うか二輪車を見る。その場でイラが立ち止まってしまったので、仕方なくアニスも二輪車を停めて、片足を地面に突いた。


「これ、二輪車って言うんだ。結構便利なんだよ」

「それは便利でしょうけれど、一体どうやって手に入れたの?」

「えーと」


答えながら、ここでシズアの名前を出すのは不味いと考えたアニス。


「賢者様に教えて貰ったんだ」

「賢者様って、迷いの森の入口に住んでいる?あの方にお会いするのは難しいって聞いたことがあるのだけど、良く会えたわね」

「そうだね。運が良かったんだと思う。それじゃあ、急ぐから今日はこれで。またね」


これ以上話をしているとボロが出そうな気がして、アニスはイラの返事も待たずに二輪車に魔力を注いでその場から逃げ出した。


「アニーったら全部賢者様のせいにしちゃったわね」

「だってシズのことが噂になるのは嫌だったからさぁ」


声のトーンが下がるアニスに、シズアは明るく返す。


「それは分かっているんだけど、賢者様が何て言うかなと思っただけ」

「賢者様が街に来たとか聞いたことがないから、大丈夫じゃない?」

「そうね。それ、悪女っぽい考え方で好きだわ」


いまだにシズアの言う悪女の条件が不明だが、肯定的な言葉だったのでそれ以上の深堀りはしない。


それから暫くして、アニス達は街の西門に到着した。

西門から先、街道は街のメインストリートになっており、それなりの人の目に触れる。アニスは余り多くの人に注目されたくなかったので、街の城壁沿いの道から一本内側の道と交わるところで右に曲がった。街の城壁は円を描くように築かれており、城壁沿いの道も円、一本内側の道も円だ。円弧の形で進む分、少し遠回りだが道なりに進めば工房の前まで行けるし、こちらの道の方が人通りが少ない。


ただ、何となく街の西から南に進む道の周囲は、暗い雰囲気に包まれている感じがした。

これは選ぶ道を間違えたかと考えた時には、もう遅く。アニスは棒やナイフを手にした男達に囲まれていた。


「嬢ちゃん達、良い物に乗っているなぁ。何処で盗んで来たんだぁ?」


アニス達の目の前に立ちふさがった男が声を掛けてきた。


「盗んだんじゃない。これは私達のだ」

「へぇ、威勢が良いねぇ。でも、嘘はいけないよ。お前みたいな身なりの子供が手に入れられるような物じゃないだろう。悪いことは言わないから、そいつはここに置いていけ。お兄さん達が預かって持ち主に返してやるから」


自分の言葉に耳を貸さない相手の態度にアニスはイラっとした。


「だからこれは私達の物だって言ってるよね。あんた達の方が、人の物を取ろうとする強盗じゃないか」


アニスは叫ぶが、相手の心に響いているようには見えなかった。


「まだそんなことを言うんだ。少し痛い目を見ないと分からないのかなぁ」

男はナイフを手に、前へと出て来た。


「シズ」


アニスの呼び掛けと同時に、シズアが力ある言葉を叫ぶ。


「ウィンドシールド」


アニス達の周囲に突風が巻き起こり、その風に目の前の男が弾かれ後ろに転がった。


「ふーん、いっぱしに魔法が使えるんだ。だけど、この程度の威力じゃね」


立ち上がった男は、再びアニス達の方へと歩いてくる。

ただ、周りの男達の動きはなく、今はまだ一斉に飛び掛かって来られることはなさそうだった。


であれば、目の前の男の相手をするだけか。

アニスは仕方がないと溜息を吐くと、右手の人差し指を相手の男に向けた。


「ウォーターショット」

「うおっ」

「ウォーターショット」

「ほげっ」


アニスは水の弾で、最初に相手の腹を、次に胸を撃った。貫通するような威力ではないから死にはすまい。あばらに(ひび)が入ったかも知れないが。


「このぅ、こっちが大人しくしていれば、調子に乗りやがって。俺様を怒らせたらどうなるか、分かっていないようだな」


いや、分かっていないのはアンタだよね、とアニスは考えていた。シズアと密着したこの状態、魔法が際限なく使える自分相手に一対一で勝てる筈がないのに。それに先程、シズアが魔法を発動した時、アニスは密かにウィンドビジョンを発動させており、左右や背後の様子も把握していた。誰か一人でも怪しい動きをしたら、全員まとめて魔法の餌食にするつもりだ。


目の前の男は立ち上がるが、前には出て来ない。その代わりに何かを呟き始めた。


「火魔法か」


赤い魔力が膨れていき、呪文と共に紋様が描かれていく。

アニスは水魔法で防御するか、魔力で相手の紋様を壊すか、どちらにしようかと考える。


が、どちらも実行するには至らなかった。


「トニー、待て」


左手から野太い声が響いたからだ。

その声を聞いたトニーが呪文の詠唱を止めたため、魔法の紋様は未完成のまま消え去った。


「お頭、どうして?」


トニーの視線の先には、筋肉質の体格に厳つい顔をした男が立っていた。


「外が騒がしかったから気になってな。しかし、お前、対峙する相手の力量を正しく見極められるようにならんと、命が幾つあっても足りんぞ」


「いや、お頭、こんな子供如きに」

「だから分かってないと言っているんだ。この状況下で冷静に物事を観察している。お前の魔法だって対処する術があるのだろう。それに周りの連中が動かないのは、そいつからの重圧を感じているからだ。外に出て来た瞬間から儂だってそいつに見られている感じがしたからな。きっと、何かの魔法で周囲の様子を探っているんだ」


なるほど、お頭と呼ばれるだけあって、状況を正しく理解している。


「そして、その上でのウォーターショット。だが水魔法に周囲を探る魔法があるとは聞いたことが無い。つまり、そいつは二属性の魔法使いで、さらには二つの魔法を同時に発動できる奴だ。それに他にも隠し玉があるかも知れん。トニー、お前、それでもそいつに勝てると言えるのか?」


トニーは無言のまま返事をできずにいた。


「流石はゴンゾー、良く分かっておるな」


声がしたのは、アニス達の左後ろの方向からだった。


「サラか」


ゴンゾーが声のした方に目を向ける。


「こいつら、お前の仲間なのか?だとすれば教えておけよ」

「だから教えに来たのだがな。残念ながら、我の方が一歩遅かったようだが。しかし、言っておくが、その二人は仲間という程のものではない。何と言うか、ただの『関係者』かな」


「仲間でも関係者でもどちらでも同じことだ。結局は手出し無用なのだろう?」

「まあ、確かにな。二人共、こ奴らにペンダントを見せてやれ」


サラの言葉に従い、胸元に入れていたペンダントを引き出して、ゴンゾーたちに見えるようにした。


「な?我のとお揃いだろ?」


言いながら、サラも胸元からペンダントを引き出して見せる。サラのペンダントには赤い石が嵌めてあった。


「もういい、分かった。おい、お前ら、死にたくなければサラのと同じペンダントをした娘達には手を出すんじゃないぞ。他の奴らにもそう伝えておけ」

「へい」


その場にいた全員が声を揃えて返事をした。


「ところで、そこの嬢ちゃん達が跨っている乗物は何だ?」

「これは二輪車。賢者様に教えて貰ったんだ」


アニスは、サラが口を開く前に急いで返事をした。サラは何か言いたげな目でアニスを見ていたが、アニスは知らんぷりを決め込んだ。


「なっ、森の賢者も絡んでいるのか。まったく、どこがただの関係者なんだ?まあ、良い。そいつはどうやって動かすんだ?見たところ、動力が無さそうだが」

「後部座席の裏側にある金属板に魔力を籠めれば動くんだよ。こうやって」


アニスは実際にゴンゾー達の前で二輪車を乗り回して見せた。


「ううむ、便利そうな乗り物だな。儂らも欲しいものだが、賢者に言わないといけないのか?」


ゴンゾーがサラに尋ねる。


「賢者様は助言を与えたに過ぎん、欲しいのなら正当な対価を支払って彼女達から買え。ああ見えても、一台10万ガル(約百万円)は下らんぞ」


「えっ、10万ガル?」


二人の会話が聞こえていたアニスが驚く。確かに二輪車を作るのに金は掛かったが、10万ガルなど全然いかない額だったのだ。


「何を驚いておる。それくらいの価値があると言うことだ。考えてもみよ、餌が要らない馬のようなものだ。そう考えれば10万ガルでも十分安かろうて。あと、そいつは試作品だから改良の余地があるだろう。しかも、お前たちの体格に合わせてある。大人の男が乗れるようにするとなると、もっとしっかりした造りにせんとならんから、作るにも金が掛かるぞ」


言われてみれば、もっともな指摘だ。


「分かった。ガザック達とどうできるか相談してみる」

「ああ、そうするが良い。幾らにするか決めたら、ゴンゾーに伝えてやれ」

「うん、ありがとう、サラ」


図らずも二輪車とサラのお蔭でアニス達は新たなお金を得る機会を得たのだった。


アニスがこの場をどこまで掌握しているのか、魔力が見えなくてもゴンゾーには感じ取れたようです。



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(2023/12/30)

後書きが無かったので追記しました。

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