冬がはじまるよ
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう」
「開けていい?」
「うん」
ガサガサ―。
彼女は満面の笑顔でリボンをほどいた。
「わあ、シャツだあ、ありがとう」
「どお? 似合う?」
「とっても」
「ほんとありがとね、シンちゃん」
「でも―」
「ん?」
「どうして半袖と長袖の二枚なの?」
入道雲に蝉しぐれ。
もう、夏も終わるというのに、八月の空は青かった。
彼女と付き合って、もうじき一年が経つ。
水着姿はまだだけど、お化け屋敷での悲鳴やジェットコースターでの絶叫、ゲレンデを眩しくさせるほどのウェア姿はもう経験した。
あっという間の一年だった。
いろんな君に出会った一年だった。
これからの一年も、そんな君に出会いたい。
ハラハラドキドキの君に。
半袖と長袖のシャツはそのためのおまじない。
「冬になったら…、またスキーに行こうね」
「まだ秋も来てないのに、もう冬の話か?」
「だって、冬が好きだから」
「夏は?」
「嫌い。―暑いから」
彼女は海も嫌いだった。
「見るのは好きだけど、入るのはしょっぱいから、いや」
というわけで、ビーチでパラソルはまたお預け。
でも、いつかはきっと。
この一年が早かったように、秋の通り過ぎるのも早いはず。
だからもう冬は目の前。
さあ、冬がはじまるよ。