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三一話 空席

 季節外れの雪が降る中、氷藤が自らを凍らせた。


「別次元に行った私たちが全滅したわ。あなたのお仲間はどういう手を使ったかは知らないけど、やったみたいね」


 神の女は何も読み取れない無表情だった。仲間が死んだ事による喪失感から来るものなのか、それとも何も感じていないのか。


「でも、大丈夫よ。私一人で魅了された全生物を確実に殺すことが出来るわ。だから、抵抗の出来るあなた達さえ居なくなることが、私の勝利よ。どうやら、彼がこの世界に戻っていはいないわ。なら、後は死にかけを始末すれば私の勝ちなのよ!」


 一歩ずつ近寄って行く。その過程で他の神が合体していく。


「これで。これで私が『世界』となるの。崩壊の無い『世界』にね」


 腕を振り上げ、氷藤を壊そうとした。


「僕は君の敵だ」


 次の瞬間。どこからか現れた和服姿の男が女の脳天にプラスドライバーを突き立てた。


「な……んで。おま……えが生……きて?」


 女は倒れながらも男の方を見ていた。


「すごい表情だね。まあ、そんなことはどうでもいいや。僕が生きている理由だよね。分かっているとは思うけど、僕は君の敵だからだよ」

「ば……かな」

「この結末を受け入れるのも君の義務だろ? ……可愛そうだから、最後に一つ教えてあげるよ」


 バグワームは女に耳打ちをする。

 ある事を言われた女は静かに涙を流した。


「私は一体何のために――」

「はい。お疲れ様!」


 手拍子の一瞬で神がノイズに包まれ、消えてしまった。


「今現在。この世界には神が存在しない。でも、世界には神の席に一柱はいないと世界は崩壊してしまう。これから神がランダムに選ばれる!」


 バグワームは天に向かって声を張り上げた。


「違う違う違う違う違う違う違う違う……来た! 僕は神になる資格を得たぞ!」


 ランダムの抽選を過去に干渉し、何度も引くことでとうとうバグワームの元に神へと至る資格が回って来た。


「手始めに現実性が低い世界に現実改変者ギミッカーを送り込んで支配しようか。ハハハハハハ!」


 笑い出したバグワームの元に一人の男が現れた。

 その男は学生服を身にまとい、更に黒い翼がプリントされたマントを羽織っていた。


「やっと見つけた。俺は《黒き翼》のリーダーをやっている。弥黒やぐろという者だ。お前だな、《黒き翼》に所属する現実改変者ギミッカー召喚型サモンの能力を奪った奴は」

「よく辿り着いたね」

「能力『コピー』。骨は折れたが、俺の能力に無理な事はない」


 弥黒と名乗った男はバグワームに人差し指を向けた。


「今からお前に教えてやる。《黒き翼》の信念をな」

「ふーん」

「ムカつく奴は全員殺せ。だ」


 手が銃に変化し、バグワームの脳天を打ち抜いた。しかし、損傷部はノイズになるだけでダメージは無い。


「その程度でリーダーなんて出来るんだね」

「ついでに結構気に入っていた先生を凍らせた事も俺は怒っている」


 言葉を無視し、弥黒はバグワームに接近した。近接戦になると踏んだのかプラスドライバーを既に握っていた。

 弥黒が大きく腕を振り上げた。しかし、それよりも早く鋭利なドライバーが胸を突いた。


「《龍の尾撃(ドラゴンテール)》」


 腕がまるで鞭のように振られた。その威力は人体が出せるレベルをとうに超えており、ただの人間なら一瞬で肉片になる威力が籠っていた。

 更についでと言わんばかりにプラスドライバーが体から弾かれていた。


 必殺の一撃がバグワームの頭に直撃する。


 地面に大きな罅が入り、頭蓋骨を折ったバグワームが倒れ伏した。


「《逆鱗》」


 それでも、弥黒は攻撃の手を緩めることは無かった。倒れているバグワームに馬乗りになり、何度も何度も拳を叩き込んだ。

 一撃でコンクリートを粉砕する威力が人間に向けられたらどうなるかは想像に難くない。


 二メートルほどの穴が掘られた。


「ハアッハアッ。どうだ?」

「すごい威力だね。と褒めてあげるよ」

「駄目か。なら別の方法がある。本当はしたくなかったが。《レジスタンス》と《執行機関》の奴らの協力するしかないか」


 穴の上でバグワームが呑気に立っていたが、弥黒が慌てることはなかった。


「おおっ!」


 バグワームの半身が吹きとんだ。


「ここに来れば、強い奴と戦えるんだよな!」

「西火ちゃん。すごいやる気だね。お姉さんは羨ましいよ」


 ボロボロの服の女と配達員服の女が少し離れた場所から石を飛ばしていた。


「《レジスタンス》の指揮者は戦闘向きじゃねえから一番強いオレが来たぜ」

「この姿では初めましてですね。私は《執行機関》のボスをやらせていただいています」

「すごいね。これで三大組織のほぼトップが揃ったね。なんか、興奮してきたよ!」


 敵が増えたのにも関わらずバグワームの表情は一切変わる事はなかった。


 ――――――


「これで終わりだね」


 三人が倒れていた。


「神に勝てるのは神だけ。なんだよね」


 周りのビルは軒並み崩壊し、戦闘の壮絶さを物語っていた。


「それじゃあ、手始めにこの三人の記憶をいじって別の世界に送ろうかな」


 バグワームが手を広げた。


「どこの世界から滅ぼそうかなーと」

「待て」

「氷藤ちゃん生きていたんだね」


 左手がバグワームの肩に乗っていた。


「消えろ!」

「それは文秋くんの能力じゃあ!?」


 驚愕の表情を浮かべてバグワームが消えて行った。


 ――――――


「アハハハハ! 僕は神だ! 過去だろうと簡単に影響を及ぼせる」


 三人が倒れていた。


「待て」


 声と同時に冷や汗が頬を伝った。


「なんで……?」


 バグワームが消え去った。


 ――――――


 二日前。


「ここまで戻れば」

「待て」


 再び消されていった。


 ――――――


 十年前。


「現実性が薄れる寸前なら……」

「待て」


 消滅した。


 ――――――


 いつ、どこにどうやって戻っても、氷藤に肩を掴まれ消滅させられる。バグワームは無限に近い時間を移動した。氷藤の精神が長い時間で壊れる事を願っていたからでもある。


 しかし、消滅の連鎖が止まる事はなかった。


 小さな繰り返しを何億何兆と続け、数えるのを止めた頃、バグワームの中では数万年が過ぎようとしていた。

 そして、とうとう心が折れた。


「許して下さい! 僕はただ生きたかっただけなんです。ちょっとした欲で皆を危険に晒そうとしたことは謝ります。お願いします。消さないで。この世界で永遠に問題を起こさない様に生活します。許してください」


 泣きながらの謝罪を行った。


「僕は。僕たちはどの世界でも管理者の不徳が原因で発生させられて理不尽に排除されているんだ。ただ安住の地が欲しかっただけなんだ」


 悪い事をした子供が言い訳を並べるかのような口調をしている。


「この世界の神は、本当に怠慢で僕が彼女のカーイスという名前を奪ってもばれなかった。最期に教えてあげたら驚いていたよ。でも、悪いのは彼女の方なんだ」


 一呼吸、置いた後。


「ただ僕は……自由に生きたかっただけなんだ」


 消滅のループが止まった。


 ――――――


 時間は遡り、バグワームが神を殺した後。新たな神が選ばれようとしていた。


「僕はもう、何もいらない。自由になるんだ」


 新たな神に選ばれた者の元に天から光が舞い降りて来た。

 神か選ばれた者以外には見えない光が照らしたのは……。


「氷藤ちゃん。君が次の神だ」


 自らを凍らせていた氷藤の元に光が舞い降りていた。

 その氷藤の隣に文秋が出現した。


「ありがとうございます。神になった氷藤さんが僕を呼んでくれたお陰で次元を超えられました」


 文秋の左手によって氷藤の氷が消滅した。


「……文秋! 敵はどうなった?」

「前の神。カーイスが殺され、新たな神が選ばれました。選ばれたのは氷藤さん。あなたです」

「どういうことだ?」

「つまり、この世界の管理者として頑張って行きましょうという事です」


 突然の情報量に慌てつつも、氷藤は焦りを表に出すことなく対処した。


「私は神になったんだな。それで何をすればいいんだ?」

「何もしなくていいです。今まで通り、好きに生きて下さい」

「好きに?」

「バグワームを完全に支配出来ているので、現実性の問題は気にしなくてもいいです。だって、法則を乱すことも整えられる人材ですから。彼は。協力して貰えば心強いですよ」


 氷藤は一つ疑問に思った。なぜ、こんなに話を進めて来るのか? もっとゆっくりした後でもこの程度の会話は出来るのでは? と。


「そうですよね。本当はもっと氷藤さんの近くにいたかったです。でも、他の世界の神。特に僕たちがいることは世界にとってはあまりいい事とはいえません。だから、僕はこの世界を去ります」

「去る……だと」

「はい。すいません。勝手に決めて」


 文秋が決意して決めた事を咎めるなんてことは氷藤には出来なかった。


 すると、突然。文秋が氷藤に抱きついた。


「ほんの短い期間でしたがありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとう」


 半ば無意識のうちに能力を使い、氷の仮面が創られていた。


「これは?」

「私の過去みたいなものだ。これを文秋に託したい」

「……はい! じゃあ、僕は」


 文秋が氷藤に手渡したのは『記憶』だった。


「僕の元々いた世界の記憶です。世界を管理する上で役に立つと思います」

「ありがとう。活用するよ」


 二人が離れた。


「じゃあ、一生のお別れになりますが『永遠』ではありません。また、会いましょう」

「またな」

「あっ。一つ言い忘れていました。ユミとクロウは僕の眷属として貰っていきます」

「え?」


 締りの悪い別れ方をした。



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