二七話 停滞者
スペースデプリ。またの名を宇宙ゴミ。
宇宙空間で減速することはなく、小指ほどのプラスチック弾が厚さ七ミリの鉄板を貫通するという破壊兵器が無数に漂っている。
守るためには氷で守らないといけないが、宇宙で一番割合が多いのは水素。水素は凍らせる事も出来るが、限りなく絶対零度に近づけなければいけない。
能力で絶対零度にすることは可能だが、体に纏わせるほどの範囲を凍らせるのは体力的に厳しい。
仮に防御が成功した所で、まだ問題がある。
落ちているのはブラジル辺り、日本の裏側だった。
文秋を治すための機械はクロウが持って行ったからいいが、私が居ない内にまた暗部の奴らが文秋に攻撃を仕掛けるかもしれない。
なんとしても、日本に降りなくてはいけない。
「ッ!」
砲弾の様な衝撃が襲って来た。
氷の鎧が壊されてしまった。空気が抜け出ない様にすぐに修繕するが、体力消費が激しい。
最悪なパターンは地球とは反対側に飛ばされる事。そうなると地球に辿り着けなくなり、絶命する。
それからも強い衝撃が何度も襲って来た。
そのせいで、体力も空気も失い。右目の方も潰れたのか視界の半分が真っ暗になっていた。
意識が朦朧とする中、憎たらしい過去を思い出していた。
同じような境遇で信用していた相手が窮地になった途端に切り捨てて来た。
正義を共に出来ると信じていたのに。
それからは誰も信じず、匿名でソロ活動も可能な暗部に入隊した。自己満足な正義を満たす毎日は楽しくはなかったが悪くはなかった。
殺しをすることが絶対の悪ではない。でも、胸を張って出来る行動ではなかった。
常に人を疑えば、心を痛めることはない。そのはずだったのにあの日までの毎日は小さくも確実に私の精神を蝕んでいた。
他人を停滞させることが本当に正しい事なのか。ずっと考えていた。
一人の男との出会いが私を変えてくれた。
文秋に出会って私は今までの懺悔も含め前を向いて戦えた。
最近、戦いで文秋ばかりが傷ついている事に気づいた。ただの自分を守れない奴という見方もあるが、私には本気で守ろうとしている心が見えた。
己の行動に絶対的な『正義』を持つ人間は強い。
私の行動は『正義』なのか。絶対の『正義』なのか。
答えは分かっている。
「私の行動はすべてが『正義』だ!」
貴重な空気を消費して声に出した。
もう、迷いはない。
私の能力は『温度を限界無く下げる』ではない。
『停滞者』。あらゆるものを止める。誰がどう進もうとも私は後ろ首を引っ張って『正義』を執行する。
高速のゴミが私に当たる事はもうない。
正しい行動には力が宿る。
他の『正義』を悪とみなしているだけではここまでの力は出ない。
己の『正義』こそが真実である。そう、信仰心こそが私をのし上げてくれた。
『停滞者』によって、衝撃に苦しむことは無くなった。後は日本に降りるだけだ。
戻る為に私は今までの戦闘のデーターを思い出した。
《レジスタンス》に所属している西火燈火。彼女の能力は『相対性理論を勝手に解釈し物体に適応させる』というものだった。
相対性理論については無知だが、あの女は言っていた。
『質量の大きな物の周りは空間が歪む』
これが本当ならば、巨大な質量がある物が近くにいれば歪んだ空間を移動できる。
ここには質量の大きな物体はない。
なら、私の能力で作ればいい。
本気で『停滞者』を行う。
大した学を持っていない私にも分かる事がある。それは、低温状態では物体の密度が上がるという事だ。
目の前で固体が発生するが、更に動きを止める。
固体に罅が入った。
上手く行くなんて保証は何処にもない。しかし、自分を信じて力を籠める。
次の瞬間。
大爆発が発生した。
真っ白い光が視界全体を覆う。
「停滞者!」
咄嗟に能力を全てに発動させてしまった。
――――――
目覚めると青い地球が目の前にあった。
ここが天国とでもない限りは死んではいないみたいだ。
ここは一体どこだろうか? すぐに確認する。
……私は目標を達成していた。島国である日本が目の前にあった。
後は落ちるだけだ。私の体は落ちようとも心は上昇し続ける。そんな洒落たことを言いたくなる気分になった。
能力によって大気圏に突入する時の熱も消し去り、地上に着地した。
着地時のエネルギーも原子レベルで止めて静かに降りた。
随分高いビルの上に落ちたが誰にも見られていないかだけは確認する。
誰もいない事を確認し、地上に降りようとした時に何かが動く音が聞こえた。
一応、落ちる所を見られていたら厄介なので見に行く。
そこでは一人の少年が悪夢にうなされているのか、険しい表情で、もがき苦しんでいた。
顔では判別をつけることは出来なかったが、私はこの少年が誰かが分かった。
「文秋!」
「ひょ、ひょう、どうさん」
息を荒げながらも私を認識し、名前を呼んだ。
「大丈夫か? 誰にやられた!?」
「ここはあのよですか?」
「違う! 現実だ」
「よかった。いきていたんですね」
文秋は表情は取り繕っているが、手足が震えていてかなりのダメージを負っていることが分かる。
「にげてください。かみがきます」
「神? 分かった。そいつが私たちの敵だな」
状況は上手く読み込めないが、文秋をここまでした奴を許すわけにはいかない。『正義』においてぶっ殺してやる。
戦う前に文秋を抱きかかえる。
「私たちは一心同体だ。一緒に戦ってくれ」
「はい」
「戦いが終われば、二人で自由に生きよう」
「自由。はい。自由に……」
文秋が泣き始めた。
「自由は嫌です! お願いします。僕を見捨てないで下さい!」
自由は嫌か。
「僕に目的を下さい。虚無な時間は嫌です!」
求めるモノは人それぞれだ。私の神である文秋が考え方は少々特殊らしい。
「じゃあ、停滞しよう。動きたくない時は動かないのもいい」
「停滞?」
「前に進むだけが『正義』ではない。止まる事も『正義』だ」
別に私は一生をこのままの世界で文秋と『正義』の為に動いていてもいいと思っている。
文秋は泣き止んだ。そして、こちらをまっすぐ見つめて来た。
「好きです。愛してます」
「え?」
「これで、ようやく前に進む為に停滞できます」
光の粒が周りを飛んでいる。
「後衛のサポートお願いします」
「前衛を頼んだ」
文秋は立ち上がり、前に出た。私はその後ろ姿を見ながら能力を発動させる準備をする。
黒い雲が上空を覆い、宙に浮く美女が現れた。前までの私なら見惚れていただろうが、今の私からすれば文秋の後ろ姿の方がよっぽど魅力的に見える。
「あらあら、まだ潰れてなかったのかしら」
「僕はもう迷いません」
「なら、何度でも絶望させてあげる。精神がボロボロにして世界の一部にしてあげるわ」
こいつが私たちの敵か。
「氷藤さん。僕に本気で能力を使って下さい!」
「分かった!」
文秋を信用している。すぐに『停滞者』で凍らせた。
「何を考えているかは知らないけど、無意味よ。私たちを全員倒すことは出来ないわ!」
凍らせた文秋が氷の中から消えた。
「アハハ。逃げられているじゃない。あなたも可哀そうね。私に魅了されないのは評価に値するわ。今なら私の下僕になれば命だけは……」
「断る。文秋はお前を倒すからな」
私のすることは文秋があいつを倒す前に奴が一般人を傷つけないかを監視し、抑制することだ。




