二五話 神の降臨
バグワームと殻曳が爆発によってビルの外に放り出された。
「ねえねえ。どうするの? このままの体勢でこの高さは流石の殻曳くんでもダメージが入るよね」
「重々承知している」
「離したら、僕の能力で助けてあげるよ」
この会話の内に地面まで残り数メートルまで近づいていた。
殻曳はバグワームの下におり、一番衝撃を受ける場所だった。
「断る!」
コンクリートの地面に二人の男が衝突した。
煙が晴れると脳が揺れた事により、殻曳が白目を剥いていた。
「ありゃま。言わんこっちゃない」
バグワームは殻曳を間に挟んでいたが、流れてきた衝撃によって吐血している。
口に貯まった血を地面に吐き捨て、その場を去ろうとした。
「えっ! まだ動けるんだね」
無意識なのか、バグワームの足を掴んでいた。
「本当はもっと戦いたかったけど、僕たちには時間がないんだ」
纏わりついた手を踏みつける。しかし、拘束が弱まることはなく更に握る力は強くなっている。
「ごめん。殻曳くんがその気なら答えないといけないよね」
バグワームの体からノイズが走る。そのノイズは掴んでいる足を通じて殻曳の体に移動した。
そして、無数のプラスドライバーが殻曳の体を貫いた。
「ここで決着を付けろと『世界』が囁いていたんだ。僕はそれに従ったまでさ」
「そう、すべての決着をね」
和服の男がビルから出てきた。
「バグ」
「ワーム」
「すべてを捻じ曲げる」
「害虫」
「これが僕たちの正体だ」
「チートの代価」
「神の怠慢」
「感動への執着」
「暇つぶし」
「新たな人類」
「終わらない終焉」
「成功作」
「失敗作」
「殺す」
「殺さない」
「全部」
「同じ僕」
「無数にある世界から」
「放逐された」
「意図せずして作られた化け物」
道から。垣根から。上空から。地中から。虚空から。男の中から……
和服を着た男たちはぞろぞろ現れた。
「これだけ集まれば、こっちの神も分かるだろうね」
「決着をつける前に一つになろうか」
「うん」
「いいね」
集まった男たちは全員バグワームと全く同じ容姿をしていた。彼らは手を繋ぎ、体にノイズを発生させた。
ノイズの集合が砂嵐を作り、徐々に一点に集まって行く。
砂嵐が収まる前に急に空に真っ黒な雲が掛かり、太陽を隠した。
雲の一部が円形状の穴を開ける。
そこから現れたのは十五対の純白の翼を持った美女だった。
その容姿は遠くにいるはずの地上にいる人々を男女構わずに魅了し、釘付けにしている。
「やっと見つけた。あなたが消滅すれば私が世界になれるわ」
巨大な雷がバグワームたちの砂嵐に落ちた。
「残念。すべて僕の作戦の内さ」
「何っ!」
女の上に移動していたバグワームがプラスドライバーを脳天に複数本突き刺した。
血すら流すことなく翼を持つ美女がガラスのように散った。
「これで。やっと、僕が世界の神に」
「残念ね。私は何人でもいるの」
「だって、私は神だから」
バグワームの脳みそを正面から、心臓を背後から先ほどの美女たちが奪った。
「神の行動は絶対なのよ」
「だから、復活は出来ないわよ」
重要な部位を失ったバグワームが地面に落下する。
「バグが無くなった今。すべては私の思うがまま」
「このまま、生命を全て消して私に作り替えるわ」
「そうすれば、私が世界そのものになれるの」
もう一人増えた。
「手始めにここに雷を落としましょう」
神が一振りするだけで、町全体を滅ぼす雷が落ちる。
死の光が落ちる瞬間。すべての雲が消滅した。
「あなたは犯罪者ですよね」
学生服の少年が左手を空に向けた状態で立っていた。
「人を殺そうとしたしましたのなら立派な犯罪です」
「何? あの子」
「氷藤さんの意志を受け継いであなたを倒します」
文秋の左手が神に向けられた。
何かの危険を察知した三人の神はそれぞれ別の場所に逃げようとした。
しかし、文秋の方が圧倒的に早く。逃げる前に隣まで迫っていた。
「神の攻撃は絶対なのよ」
三体がそれぞれ翼と腕と蹴りを使って攻撃をした。絶対の攻撃を受ければバグワームですら修復不可能なダメージが入る。
『虚無な実体』で攻撃を躱すことは出来ずに攻撃に当たった。
「僕の神は氷藤さんだけです」
まるで鋼鉄。文秋の体は神ですらそう思わせるような硬度を誇っていた。
「こんなの嘘。チートよッ!」
「あなたはこの世界の管理者ですね。なら、躊躇う必要はないですね」
「なんで、そんな事を知ってるの!? それは私よりも上位の……」
三体が文秋の左腕で消された。
「私は神だから、無限にいるのよ」
「確かにあなたは強い。そして、真実も知っているわ」
「でも、あなたは世界の平和を目的としている。なら、これならどう!」
「何!? 一般の人を」
複数の神は文秋では無く、魅了されて動けない人々の方を攻撃し始めた。
「後々、こうするつもりだったから問題はないわ」
文秋は人々を守りながら戦うことが出来ない。なぜなら、攻撃範囲があまりにも限られているからである。
受け継いだ意志を踏みつぶされて怒りに飲み込まれそうになっていた文秋だったが心を抑制した。
怒り、赤髪赤目の状態になれば高速移動で神たちを倒せるかもしれない。しかし、それではいけない理由を記憶を完全に戻した文秋は知っていた。
「止めて下さい! そんな事をしてもあなたの目的は」
「達成できないでしょうね。あなたがいる限りは私は世界になることは出来ないわ」
「なら」
「でも、あなたの心を完全に殺せれば私にも勝機が出来るの」
人々が理不尽な暴力に晒されている。だが、ここで怒りを解放してしまえば相手の思う壺だった。
「ほら、どうするの? 選択しなさい。見殺しか自滅か」
目の前の暴力を止める方法を思いつけなかった。氷藤さんがいればこんな事には。と内心諦めていた。
「フッミー。大丈夫! こっちは任せて」
観衆の中でたった一人だけ神の魅了から自力で目覚めた少女がいた。
「なるべく……こっちは見ないで欲しいな」
視線が逸らされることは無かったが、この時だけは他のしがらみなんてどうでも良かった。
銃を自らの額に当てる。
「覚醒。『ダメージ変化』死」
脳みそを貫通し、榊原は地面に倒れた。次の瞬間。傷口から黒い布が解き放たれた。
布は形を形成し、黒いぼろきれでガイコツの頭以外を隠し大鎌を持っていた。
それを形容するならば、死神。それが榊原の傷口から出てきた。
死神が神を切り裂き殺した。
「死神ね。でも一体だけで私たちを止められると思っているのかしら」
「残念だね。アバズレ女。私が何度も何度も死ねば、数は増やせる。すっごい痛いし、心が疲れるからフッミー以外の為には使えないけどね」
それから、榊原は何度も自殺を重ねた。
弾丸が無くなれば、福式が持っていたナイフで首を切り裂き出血多量で死ぬ。これを三十回以上繰り返した。
「ははははハっ。疲れてきちゃったナっ。とっても痛いシっ。なにかこう悲しいシっ」
地面に倒れ、喋りながらも首にナイフを突き立てている。
文秋はその行為を止めさせたかったが、榊原の覚悟を止めることは出来なかった。
「無駄よ。無駄。死神一体で私を三体倒すのが関の山なのよ。無数にいる私を倒すには足りないわ」
ただ、榊原の自殺を文秋はだたみている訳では無かった。
神は何らかの方法で自らを『召喚』している事に気づき、召喚をしている場所を探していた。
「私はあなたを倒せないわ。けど、あなたは私を倒せない。そして」
「私たちが一億五三九七万二三七九人居ればあなたを倒せる」
目にも止まらぬ速さの神が現れ、文秋を吹っ飛ばした。
「これほどの集合体を出すには時間が非常に掛かるけど問題はないわ」
文秋は近くのビルにめり込んでいた。




