二十話 チート
万能装備は次の戦いになる前に状況を確認しておきたかった。さっきまではその場の勢いに任せて戦っていたが、一度休憩の様なものが挟まれ現在は冷静になっている。
未だに煩い観客に向けて質問をする。
「すいません。私はこの状況が良く分からないのですが、どなたか説明して下さいませんか?」
声が聞こえているかすら怪しかったが、誰かが紙を落とした。万能装備空中で紙を掴み、書かれている事を呼んだ。
「ふむふむ。なるほど。合点承知です」
書かれていた内容には得たかった情報である現在の状況が書かれていたらしい。
すぐさま、第一使途と第二使途を再召喚し、戦闘の準備を整えた。
ただでさえ、煩い観客が更に一段階声を上げた。
音量が上がったのは闘技場の入場口から小学生ほどの見た目をした男の子が現れたからだった。
万能装備はその男の子の方を向いた。
「ここの王であるあなたを倒せば目的の装置は手に入るってことですね」
包帯の巻かれたこん棒に近い大剣を構え、王と対峙する。
「貴様が我が息子を倒した強者か。いいだろう相手になってやる」
「あなたは強いですね。しかし、私に勝つには少々……」
「知っているさ。貴様が出したその生物を同時に倒さない限り、攻撃は当たらないんだろう。ああ、知っているさ……攻略方法はな」
万能装備は王の意味を含んだ言葉に気圧されていた。もし、本当に弱点でも知られていたら、勝ち目がないと確信していたからだ。
王の身体能力は未知数だが、地球人よりも高いことは確定的に明らかであり、万能装備も勿論そのことは知っていた。
試合のゴングの様な物が鳴った。
「まずは、それを倒させて貰う」
王は早速、謎の生き物に向かって走った。やはり、速さは圧倒的であり地球人の目で追うのは相当厳しい素早さだった。
それでも、こんな状況は前の対王子の時もそうだった。身体能力に差があろうとも同時に倒すという事は【時間停止】の現実改変者でない限りは不可能に近い。倒すには弱点を突くしか方法はないが、まず見ただけでは絶対に分からない弱点なのでそれすらありえないと万能装備は信じていた。
誰にも邪魔されずに王は使途の目の前まで到達していた。そして、第一使途の無数の腕の内、十二本を手刀で切り裂いた。
「なっ!?」
万能装備は王の行動に驚きの声を上げた。この状況は万能装備にとっては大変不都合だったからだ。
「この無数の腕の中で一部だけ、祈りをしている様に見たがやはり弱点だったようだな」
倒れたのは攻撃を受けた第一使途ではなく、何も攻撃をされていない第二使途の方だった。そして、時間差で第一使途の方も倒れた。
二つの死体は地面に溶けるように消えて行く。
「嘘です。こんな。こんなことは嘘で……アァァァァァァァ!!!!」
万能装備の白と赤のコートから血が吹きだした。
「力の代償か? 我が息子を倒したというからどんな奴かと思えば、興ざめだな」
王は踵を返して帰ろうとした。
「……まだ。です」
大剣を杖代わりにして、立ち上がろうとしていた。大量出血により目の前の地面が勝手に傾いたように感じながらも、その目は確かに王を捕らえている。
「覚悟や意志など、歴然とした力の差の前では無力に等しい」
「つまらないですね。その体の大きさと言葉の大きさのギャップでしか笑えないですよ」
身体的コンプレックスを交えた皮肉をストレート王に吐きかける。
この挑発は半ば賭けだった。今の万能装備は立っているだけでも、今にも倒れそうなほど体力を消耗している。移動するだけで攻撃する前に倒れてしまうほどの残り体力の中で動くのは悪手。なら、相手から高速で来てもらい、一撃のカウンターを当てる。それしか方法を思いつかなかった。
敵が賭けに乗るのを願う。
「我を愚弄するとは。死にたいらしいな」
青筋を立てている。
この表情は演技ではない。万能装備はそう信じ込んだ。
「一瞬だ。一瞬の後悔をも与えず殺してやる」
万能装備は賭けに勝った。後は相手の猛スピードを利用してカウンターを与えるだけだ。
王がクラウチングスタートの体勢を取った。それとほどんど同時に万能装備も剣を構えた……はずだった。
それは正しく一瞬だった。
例え、音速の三倍であるマッハ三.〇で飛ぶ戦闘機ですら距離に余裕があれば人間の肉眼で微かに捉えられる。仮に地面ぎりぎりを飛んでいて距離に余裕がなくとも、残像や空気の感触を頼りに何かが来たと察知できる。
今まで対峙したグンマ―の動きは早かった。しかし、それでも大体どこにいるかは分かる程の速度しか出していない。
その一瞬はまるで距離という概念そのものを消し去ったかのような人知では理解が到底及ばないスピードだった。
そんな速さになると運動エネルギーは途轍もない大きさに増加している。無防備で受ければ肉片になる事は間違いない。
そんな絶望の中、万能装備を救ったのは今までの経験が培った勘だった。
咄嗟の判断で大剣を盾のように使い防御をしていた。そうすることで必殺だった威力が人間として原型を保って吹っ飛ばされるという結果に変えた。
壁に直撃し、粉塵が舞い上がった。
「我にほんの少しでも勝てると思って舞い上がった罰だ」
生きていたとしても、反撃する力は残っていまいと王は決めつけ粉塵とは逆の方向に体を向けようとする。次の瞬間。青の炎が王を包み込んだ。
炎は未だに晴れていない場所から飛んで来ていた。当然、万能装備による攻撃だった。
「小癪な。我にこんな青炎は効かぬ」
燃えながらも王は粉塵の先を睨んだ。
この煙が晴れた瞬間に再び、攻撃を仕掛ける気だった。今度は確実に首を切り飛ばしてやる。そう王は考えていた。
その殺気は万能装備にも伝わっていた。
「これが晴れた時が私の死ぬ瞬間ですね。氷の女王。いや、先生の為ならここで死ぬのも悪くないかもしれません」
その頬には恐怖からか涙の様なものが流れていたが、気づく者は誰もいなかった。
徐々に死の幕が開き始める。炎を纏った服は既に王の視界に入っている。その証拠に既に体を屈め、クラウチングスタートの形になり狙いを定めていた。
「死ね。勇敢な異星人」
煽られたことで怒っていた王だったが、執念にも近い覚悟を彼女から感じ取り最期に称賛の言葉を送った。足で地面を踏み込み前への推進力に変える。
一つの命が消えかけたその時。
プラスドライバーが三本、高速で王に向かって飛んで来た。
王は体勢を崩しながらも、それらをキャッチし投げ返した。
ドスッドスッドスッ――
それは柔らかい何かに突き刺さった。
「貴様は誰だ!」
最期の言葉まで送り、決闘の終わる直前で邪魔を入れた来た相手に王は純粋な怒りを露わにした。
「女の子のピンチにかっこよく登場するのは僕には無理みたいだったよ」
胴体に三本のプラスドライバーが生えている状態のバグワームが粉塵の中から現れた。
いい所での突然の乱入者に観客はブーイングを始める。
「歓声ありがとう! まずはそんな君たちにプレゼントを上げるよ」
バグワームが刺さっているプラスドライバーに触れる。すると、観客の声が悲鳴に変わった。
「これで誰でも僕と同じファッションだね。テーマは工具箱かな? それにしても体にこんなもの刺さっているはずなのにしぶといね!」
観客の一人ひとりの胴体にバグワームと同じ個所にプラスドライバーが突き刺さった。地球人なら死んでいてもいい傷にも関わらず悲鳴を上げられるほど元気が残っていた。
「貴様ァー!」
王は怒った。その怒りは万能装備に向けていた怒りとは全く違う。憎悪や恨みそんなものが多く含まれていた。
クラウチングスタートの姿勢になる王に対してバグワームは不気味な笑顔を見せた。
「そんな怒ることかなー?」
「いつの間にッ?」
「あれは君にとっては他人だよね。じゃあ、それは怒りでも義憤って訳だ。実に薄っぺらい感情だねえ」
王の後ろにバグワームはいた。
それは足の速さではない。王の己の速さはある一人を除けば最速であると信じている。だからこそ、目の前の人間は瞬間移動に近い何かを使ったと確信できた。
「舐めるな! その程度の能力で我は倒せない」
バグワームは王の脳天にプラスドライバーを突き立てた。
「か、硬い……これが正しい反応かな?」
プラスドライバーは皮膚すら貫通できずに折れ曲がってしまった。
王は蠅を振り払うかのようにバグワームを弾き飛ばす。その衝撃で反対の壁まで吹っ飛ばされた。
「殺してヤル」
バグワームに止めの拳を打ち込む為に王は晴れていない煙の中に入って行った。
一人壁に縋り、取り残された万能装備は逃げるか迷っていた。
「やあ、僕は君の敵だよ」
「僕がちょっと時間を稼ぐから、好きにしてね」
「この分身を作るだけでもかなり勿体ないから、一気に喋るからごめんね」
飛ばされたバグワームが隣に立っている事に驚き、声を出そうとしたが行動をする前に元の場所に戻された。
「あの二人がこんな場所で苦戦するなんて、僕の描いたシナリオには無かったよ」
「心の広い僕は大抵の事は許すけど、得物を掠め取られるのは大っ嫌いなんだ」
「だから、今回は手を貸す。助っ人もこの星にもう連れて来ている。安心して、僕は君にも手を貸すよ」
「僕は君の敵だからね。なら、君の敵は僕の味方さ」
感情論にも近いながらも、その言葉には信じられるだけの価値があった。万能装備は喋れないながらも、大きく頷いた。
「うん。じゃあこうしよう」
「僕たちは君たちの敵だ」
そう言った彼の目には先ほどまでには感じられなかった輝きなるものが映っていた。
「ぶっ殺してヤル」
粉塵の中から王が脱出してきた。
「後方支援を頼むよ」
「分かりました」
バグワームは何処からか出したプラスドライバーを両手に構える。そして、万能装備は緑色のコートに変わった。
王がバグワームに向かって突撃して来た。
「防御します!」
万能装備の声に無言で頷き、狙いを定める。
加速の付いた拳がバグワームの目の前で軌道を変えた。
狙いをしっかり定めていたバグワームはカウンターで王の眼球にプラスドライバーを突き立てる。一番柔らかくてダメージ効率のいい目を狙ったのは悪く無かった。
しかし、相手が悪かった。
「その程度は効かナイ!」
眼球に一点集中の攻撃を加えたにも関わらず、ダメージはあまりなさそうに見える。
「どうすれば」
「大丈夫! 僕たちなら戦える!」
その言葉に根拠は一切ない。しかし、万能装備はその言葉を信じ能力を使い続ける。
今は王の一撃を空気の壁を作り、受け流しているがこれでも体力の消費がバカにならない。更に死にかけである事もあり、今にも意識を失いそうだった。
ジリ貧な戦いでも、二人は確実に王にダメージを与えていた。
「そろそろ。この分身の体の維持が厳しくなって来た」
「私も、もう……」
ダメージをより多く蓄積しているのは二人の方だった。
しかし、王の方も貯まったダメージは無視できるものでは無くなっていた。現に肩で息をしている状態である。
「先に女の方を殺してヤル」
「待て! 僕が相手だろッ!」
バグワームの方を先に殺したかったが、先に死にかけの後方を潰した方がいいと考えた。王はバグワームを無視し、万能装備の方に向かった。
その手には巨大な殺意が秘められ、当たれば今の万能装備は確実に死ぬ。
「止めろ! 殺すならこの僕をやれ!」
声を荒げて静止を求めるが当然王が聞く耳を持つことは無かった。
殺意の手が万能装備に触れた。
「やめろつってんだろうがよォッ!」
万能装備の首が宙を舞った。
「あぁ。そっか、生命は死んでしまうんだ」
バグワームの顔から笑顔が消え、悲壮の声を出した。
「さっき出会ったばかりだけど、彼女とは上手くやっていける気がしたんだ。なのに……」
膝を着き、顔を手で押さえ体をわなわなと震わせる。
「……アハハハハハハハ!! なんだか、楽しくなってきたよ。こんな現実を受け入れてたまるかっていうんだ! 僕はチートだ。望む結果にならない限り、何度でも不正な方法で運命を変えればいい」
突如笑い出した。精神が壊れた事による自暴自棄での笑いではない。
「こんなクソっ垂れたエンドは僕は絶対に認めない」
ノイズが世界を包む。星と言う小さな範囲ではない。
時間。意識。宇宙。この世界そのものをノイズが包んだ。
「僕は君の敵だ」
―――――――――――――――――――
バグを発見しました。世界を復元します。
―――――――――――――――――――
名前 バグワーム
能力 特殊型『バグワーム』
説明 動作の間に『バグ』を挟み、こう。?。!?!???!???!?。
『バグワーム』はバグワームである。




