出会い 一
さっき寝たと思ったら、もう朝の気配だ。
昨日はくたくたになるまで雪かきをしたから、体中が痛い。
まだ外は真っ暗だけど、もう起きないと。
布団から腕を出してみたが、あまりの寒さに一度ひっこめた。心の中で“えいっ”と掛け声をかけ、布団をはねのける。いけない、いけない、お房さんを起こしてしまう。
お雪は音を立てないよう、静かに布団から出ると、手探りで廊下を進み台所に向かった。
台所の戸をそっと開けて外に出る。空にはまだ月が出ている。積もった雪に光が反射し、家の中よりも明るい。
冷たいつるべを持って水をくみ上げ、顔を洗う。あまりの冷たさに指がジンジンし、顔も感覚がなくなる。
同時に頭がすっきりして、眠気が吹っ飛ぶ。
“ようし、今日も働くぞ!”と心の中でつぶやく。
台所に戻り、ご飯の支度を始める。コメを砥いでザルに上げておき、その間にかまどに火を焚きつける。
ご飯の支度はお雪の役目だ。
かまどの前にしゃがみ込み、灰をならす、かまどの口に細い焚き付けの枝を組んで、火打石を鳴らす。
“パチッ”と音を鳴らし、小さな明かりが灯る。
研いでおいた米を釜に戻し、水加減を調整する。
こうして、黒田家の朝が始まる。
お雪がかまどの火かげんを調整していると、お房が台所に入ってきた。
「今朝も早いね。お雪。」
「おはようございます。お房さん。」
お房はかまどの火加減を横目で見ながら、みそ汁の支度にとりかかる。
遅れてお春がやってきた。
「お雪、起きるなら私のことも起こしてよ。自分ばっかりいい子ぶって。」
前にもそう言われたから起こしたこともあったけど、“まだ起きるには早すぎる”って文句を言ったくせに。
何かにつけ、お雪に難癖をつけたいのだ。
お春はブツブツ文句を言いながら、朝ごはんの食器の用意を始めた。
食器がきれいに並べられると、つぎはご主人の火鉢の用意がある。これもお春の朝の仕事だ。
ご主人の部屋から火鉢を持ってきて、灰をきれいにならし、新しい炭をいくつか選んで灰の上に組む。
「火種。」
横柄な物言いでお春がお雪に促す。
どうして普通に“火種ちょうだい”って言えないのかしら。いや、いちいち相手にしてはいけないわ。
自分に言い聞かせながら、火箸で小さな炭の火種をかまどから取り出す。
お春がそれを用意した火鉢に入れて、火力の調整をする。
お春は得意げに、それをご主人の部屋へと運んでいく。何にしてもお雪より自分が上だと言いたいのだろう。何も張り合っていないんだけどな。
この家には隠居した黒田家のご主人と奥様、女中のお房さん、お春さん、私の4人が暮らしている。
女中はもう一人通いのお咲さん、全部で4人だ。
ご主人の部屋に朝ごはんを運び、主人の食事中に女中たちも台所で食事を済ませる。
朝ごはんを食べ終える頃に、通いのお咲さんがやってくる。
「おはようございます。今朝もまあ、寒いね。」
手をこすり合わせ、冷え切った手に白い息をかけている。
「夜にまた雪が降ったから、お雪ちゃん、今日も出番だよ。」
お咲さんはそう言って笑った。




