↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法適性ゼロの私に嫌われたと大誤解した超エリート幼馴染、真実を知ったら猛アプローチが限界突破してます!?  作者: りこも しの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

指輪の秘密


「あっついねぇーー」


「次の休憩まだかなぁ」



青空が広がる絶好の行事日和。

今日は、学校の四年生を対象とした『体力作り』が目的の登山合宿だ。残暑を感じさせる鋭い日差しが、普段机に齧り付いている学生の体力を否応がなしに奪っていく。


ゴツゴツとした岩肌が続く山道を進んでいた時のことである。

私の後ろを歩いていた一人の同級生が足を滑らせる。そして、斜面にあった奇妙な岩の空洞に手を突っ込んでしまった。


その瞬間、地鳴りのような唸り声が辺りに響き渡る。



『グルルル……!』



「……魔獣だ!!!」



歪な影が辺りを覆う。

獰猛な猛禽類のような魔獣が怒り狂ったように翼を広げて現れ、生徒たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。



「全員、魔獣の巣から離れて!シェルターへ避難を!」



駆けつけた教員が、防御用の魔道具を発動した。


まばゆい光が放たれて、魔獣が苦しげに悶え、動きを鈍らせた。しかし、その凶暴な赤い瞳が、吸い寄せられるようにある一点を射抜いた。



ーー私の、指輪だ。



「リリィーー!!」



誰かの叫びと同時に、鋭い爪が猛烈な勢いで空を裂いた。鮮やかな血が舞い、私はその場に崩れ落ちる。



四年間、一度も肌身離さなかった大切な指輪が、視界の端で無残に奪われていく。

右腕から胸にかけて、焼けるような激痛が走る。薄れる意識の底で、いつか授業で習った言葉が脳裏をかすめた。ーー『魔獣は、強い魔力を持つものを好む』。



ねぇ、ハル……指輪のおまじないってもしかして……



◇



当直明けのハルが職場の病院から帰ろうとしたとき、アーノンから電話が掛かってきた。


日中に電話が掛かってくるなんて、珍しいな。


そう考えながら、通話ボタンを押すと、堰を切ったようかのようにアーノンの悲痛な叫びが響いた。



「ハルくん、姉様を助けて……!魔獣に襲われて、大怪我を負ったんだ!」



受話器の向こうの足音や雑音から、彼がパニックになりながら話しているのが伝わってくる。



「すぐに父様の病院に運ばれて、出血は止まったんだけど、意識が戻らなくて……

魔獣による怪我だから、魔法を使わないと治らないって、ハルくんの病院に運ばれることになったんだ…!」


「わかった」



言い終えるか終わらないかのうちに、ハルは部屋を飛び出した。搬送されてくる彼女を迎えるために、長い廊下をひた走る。


救急外来に到着すると同時に、激しいサイレンの音と共に救急車が滑り込んできた。



「こ…この急患っ、俺に診させてください!」



呼吸が整わない中、ストレッチャーを取り囲む医師や看護師たちを押しのけるようにして、ハルが声を上げた。

先輩医師が驚いた顔でハルを止める。



「君は当直明けじゃないか……」


「大丈夫です! 大切な幼馴染なんです。お願いします!」



ハルのただならぬ気迫に押され、先輩医師が渋々道を譲った。


すぐさま全身を視診する。アーノンから聞いた通り止血は済んでいるようだったが、リリィの状態は、目を覆いたくなるほど酷いものだった。

右腕から胸にかけて走る深い傷口は、かろうじて塞がれている。しかし、その周囲の皮膚はどす黒く爛れ、まるで内側から焼かれているかのように痛々しい。



リリィはぴくりとも動かず、深い眠りに落ちたままだった。ただ生きていることだけを示す、弱々しい呼吸がかろうじて聞こえる。



もしかして、斬られたときに、魔獣の毒のようなものを受けたのか……?



そのとき、ハルはリリィの右手に違和感を覚えた。


中指の損傷が著しく激しい。

まるで、はめられていたものを無理やり取られたかのように、皮膚が激しく裂けている。



「……指輪だ」



ハルは息を呑んだ。魔獣の狙いは、彼女がはめていたあの指輪だったのだ。


『おまじない』なんて言って誤魔化さず、ちゃんと魔法のことを話していれば……底なしの罪悪感と後悔が、容赦なくハルの胸を抉る。



「いや、今はそんな場合じゃない……!」



ハルは己の雑念を振り払うように頭を振ると、両手をリリィの傷口にかざした。当直明けの疲労など忘れ、彼はただひたすらに自身の魔力を集中させ、彼女を救うために治療魔法を続けた。



◇



ーー身体が重い。指一本も動かしたくない。


なにかがまだ身体の奥底でくすぶっている。それを、優しくて温かい光が包み込んで、少しずつ私を満たしていく……。



重たい瞼をかろうじて開けると、見慣れない天井があった。


側にいただろう誰かが、バタバタ外へ出ていく気配がした。



心細く感じて、助けを求めるように右手の中指の指輪に手を伸ばす。でも、そこに指輪はなく、おぞましい傷跡が広がっていた。


一筋の涙が頬を伝わる。喉がすごく乾いてカラカラなのに、自分から水分が出てくるのが不思議だった。



「意識が……戻りましたか……っ」



息を切らした懐かしい声がする。

顔を傾けると、王都病院の医師の象徴である銀色のコートに身を包んだハルがいた。



そのまま彼の診察を受ける。この人は本当に幼馴染で、私に告白をしてきたハルなのだろうかと疑ってしまうくらい、無駄のない洗練された動きで、感情を感じさせなかった。



クマが、ひどい……。



一度、ハルの顔が近づいたとき、目の下の大きなクマを見て驚く。


診察を終えるや否や、彼は忙しそうに部屋を出て行ってしまった。



残った看護師から聞いた話では、私は魔獣による怪我で二日間も意識が戻らず、一時は一刻を争う容態だったらしい。幸いにも、他の学生に被害が出ることはなかったと聞いて胸をなでおろした。



その後、大部屋へと移動になった。同室になった他の三人はいずれも、魔獣に襲われて負傷した王都騎士団の男の人たちだった。


看護師が去った後、暇を持て余した彼らは親しげに話しかけてきた。



「ハル先生ってかっこいいよな!リリィちゃんも好きになっちゃった!?」

「ハル先生みたいな高位魔法使いは、大抵、同じような人同士でくっつくもんだよ」

「……でもさ、リリィちゃん、俺たちだって結構カッコいいだろ? 」

「騎士団は魔法が使えるやつが多いけど、俺は腕っぷしだけで騎士団に入ったんだよ。なぁ、俺なんかどう?」



突然のアプローチに戸惑っていると、先程部屋を出て行ったはずの看護師が、どこか慌てた様子で戻ってきた。



「リリィさん、今朝空いた個室へすぐ移動になります。あの方……コホン、ご家族から『大部屋は困る、早急に個室へ』と強いご要望がありましたので」


「え? でも、まだ家族は私が大部屋に移ったことを知らないんじゃ……」


「さあ、どうでしょうね? とにかく、主治医の許可もすぐに降りましたから、行きましょうか」



看護師の含みのある笑みに、真っ先にあの忙しそうに去っていった彼の顔が浮かんだ。



もしかして、ハルが――?



そう思った瞬間、顔が一気に熱くなっていく。私は雑念を振り払うように、荷物をまとめる手を速めた。


看護師さんが荷物を置き、「ゆっくり休んでくださいね」と笑顔で去っていくと、個室は急に静かになった。


大部屋の賑やかさが嘘みたいに、時計の針の音だけがカチカチと響いている。ベッドの縁に腰を下ろした瞬間、張り詰めていた緊張が解けたのか、再びどっと頬に熱が昇ってきた。



自意識過剰かもしれないけれど、ハルが私を心配して、あの男の人たちから遠ざけてくれたのだと思ってもいいのかな。



ーー『ハル先生みたいな高位魔法使いは、大抵、同じような人同士でくっつく』


騎士団の人の言葉が、頭の片隅で冷たい影を落とす。



ーー『……もう、幼馴染のままは限界。ずっと好きだった』


同時に、そう私に告げた彼の言葉を思い出した。



ハルは凄腕の魔法医で、誰からも慕われる素敵な人だ。それに比べて私は、魔法の才能もないただの学生だ。それどころか、あの魔獣に付けられたおぞましい傷跡さえ残っている。



ハルは今も、変わらず私を愛してくれるのだろうか。



彼ならきっと『大丈夫だ』と言ってくれる。そう思っても、自分への自信はすっかり失われていた。



――でも、今度こそ。四年前にはどうしても言えなかった言葉。今改めて胸に満ちていく『大好きだ』というこの想いを、真っ直ぐ彼に伝えたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。