45 ◆彼らの結末
※序盤はルリカ視点です。
◇
「ルリカ、無事だったか!?」
その後、私とニゲラは、なんとかルコウさんと合流した。
足元は血に濡れてしまったが、構っている暇はなかった。。
「はい。酷い目に遭う前に逃げました! ニゲラ君もきてくれましたし!」
「よくやった、ニゲラ! ルリカも強かで良いぞ!」
褒められてニゲラも少し嬉しそうだ。
……強かは褒め言葉で良いんだっけ? まあ、いいか。
「こちらは、外部とも連絡がついた。救助隊も、もうすぐここへ来る。オルレアとツツジも、虫下し薬と殺虫剤を完成させたらしい。前にルリカにもらった〝伝令〟のお札も役に立ったぞ!」
ルコウさんの言葉に、そこに集まっていた男性たちも、歓喜の声を上げていた。
どうやら、避難希望者が集まっているらしい。
「良かった……」
「あ、あの!」
その時、若い男性が焦った様子で声をかけてきた。
なんか、見たことのある顔だ。
「ん? どうした?」
「小屋に寝かせていた男たちが消えました!!」
「消えた? どういうことだ? 怪我人たちもか?」
「そちらは無事です。消えたのは、婿取山の主の端末が合わずに意識がなかった男たちの方です!」
「ああ、そちらか。何か心当たりは?」
「恐らく、婿取山の主によって、転送系の魂術でどこかに……」
「どういった方々なんです?」
「ああ、体内で爆破蟲が異常増殖し、腹が膨れた奴らだ。意識がないから、自分では動けないはずなんだが……」
「──あ。そ、それなら、多分……」
私は、先ほど起きた出来事を、ルコウさんたちに話した。
「……そんな、ウメキまで?」
うめき? ああ、どこかで見たことがあると思ったら、この人、イソトマ様のご友人の一人だ。
確か名前は、南風トキオ。もう一人は、夜長ウメキだったかな?
中学、高校と、イソトマ様と一緒になって、私を馬鹿にしてきた奴らだ。
今となっては、どうでも良いが。
「──なるほどね。消えた男たちは、婿取山の主に、逃走の隙を作るための道具として利用されたか。応援が来たら、一応、捜索しよう。だが、期待はするな」
「はい……」
「婿取山の主はどうする?」
「さすがに、私たちだけで倒せるとは思っていない。ひとまず、囚われていた男たちの保護が先だ。婿取山の主は応援が来てから、仕留めよう」
「了解した」
『ルコウ』
「おお、ワタゲも無事だな」
陽動していたらしいワタゲさんも、中型犬サイズになって戻ってきた。
『地下から、婿取山の主の気配がする』
どうやら、婿取山の主は地下に逃げたらしい。
「なら、逃げられないように包囲する必要があるな」
◇
その後、対策局から応援が来て、囚われた男性たちは保護された。
私は先ほど使った〝神異停止〟の札を改良し、男性たちの体内にいる爆破蟲を停止させた。それによって、婿取山の主に気づかれることなく、男性たちを結界の外へ避難させることができた。
怪我や病気などで動けない人たちも、無事保護されたようだ。
私とニゲラも、病院に連行されたため、その後の話は人伝で知ることになるのだった──。
◆◇◆
「くそ、酷い目にあった……」
しばらくして意識を取り戻したイソトマは、一部が瓦礫と化した〝迷い家〟の集落を歩いていた。
幸い、擦り傷などの軽傷は負っていたが、大きな怪我はなかった。
気が付けば火事の痕跡はなく、人の気配がしない。婿取山の主の気配も薄くなっていた。
(あの火事は、〝偽火〟だったか。しかし、皆どこへ行ったんだ?)
そして、血や肉片で溢れた場所に出た。
まるで、複数の人間の体が、内側から爆発したような惨状だった。
「一体何があったんだ?」
イソトマは、あまりの匂いに、鼻と口を押さえる。
さっさと立ち去ろうとしたとき、あるものが目に留まった。
「この着物……まさか、ムベか?」
血と肉片の海に、見覚えのある黒い着物が落ちていた。
黒は、迷い家でムベだけに着用を許された色だった。
(侵入者に殺されたのか?)
しかし、イソトマに止めを刺さなかったところを見ると、そうとは思えなかった。
とりあえず、イソトマは黙祷を捧げると、婿取山の主の気配を追った。
(気配はあるのに、薄い。どこにいるんだ?)
そのわずかな気配を追うと、婿取山の主の屋敷に戻ってきた。
そして彼女の寝所に向かうと、床の間の壁が開いていた。
「こんなところに、階段が?」
婿取山の主の気配はその奥からしていた。
イソトマは意を決して、その階段を降りた。
◇
階段は、地下深くまで続いていた。
壁には等間隔に明かりが灯されており、視界に問題はない。
階段を下りきった先の突き当たりには、屋代となった禍津祠があった。
屋代の周りにも、松明が灯っている。
(〝迷い家〟内には無いと思っていたが、こんなところにあったのか……)
その屋代の前で、婿取山の主は蹲っていた。
「主様、大丈夫ですか? ──なっ!?」
イソトマが婿取山の主を抱き起こすと、その体はミイラのように干からびていた。
「これは、一体……」
『イソトマか……?』
耳障りな声が、頭の上から降ってきた。
「ぬ、主様?」
『そうだ。妾が、本体だ』
見上げれば、この地下空間を圧迫するような、超巨大な地虫がいた。
頭部には人間の顔がついており、その口から人間の言葉を発しているようだ。顔の大きさは人間とほぼ同じだが、巨大な本体と比べればかなり小さい。どうやら、その顔が彼女の〝人体の部位〟らしい。
よく見ればそれは、イソトマがよく知っている、婿取山の主の顔だった。
核の目玉は、見当たらなかったので、体内にあるのかもしれない。
「で、では、こちらは?」
『外部と接触するための、妾の端末の一つだ』
「彼女も、端末……」
イソトマは、端末である彼女と過ごした日々を思い出し、少し気分が悪くなった。
『イソトマ、其方──うぐっ!?』
その時、婿取山の主の本体が、苦しみだした。
『ご、おおおおおおおっ!?』
(な、何が起きている!?)
『まったく、わたしを無理矢理取り込むなんて、無茶をするから、こんなことになるのよ。他の神異ならまだしもね〜』
婿取山の主のものとは違う、女性の声が地下空間に響く。
『ぐっ、ヒサメ、か……!? がああっ!!』
婿取山の主の本体の腹が裂け、赤黒い血が吹き出した。
「──っ!」
イソトマは、その血を浴びながら、ソレを呆然と見続けることしかできない。
そして、婿取山の主の本体の腹から、全身を血に濡らした、十代半ばほどの少女が現れた。
「フウ〜、ヒサメちゃんふっかーつ!」
『〜〜〜〜っ』
腹が裂かれた婿取山の主の本体は、すでに瀕死の状態だった。
裂けた腹から、弱点の目玉も覗いている。
「あんたのことは、『空蝕会』からの追放が決まったわ──って、うわ!? 人間がいるし!?」
ヒサメはイソトマの存在に気づく。
「あ……」
「どうする? コイツを助けたいって言うなら、あんたも殺すけど?」
「オレは……コイツを助けたいとは思わない」
『な──っ!?』
「そう。それじゃあ、さようなら」
ヒサメは、婿取山の主の本体に近づくと、弱点の目玉を足で踏み潰した。婿取山の主の本体は、黒い煙になって消えた。
イソトマも、体内から爆破蟲が消えたことを感じた。
「さて、後は屋代ね〜」
屋代の中を覗くと、掛け軸のようなものに爆蟲妃主と書かれていた。
それが、婿取山の主の真名らしい。
「これだけ魂力を溜め込んでるのに破棄するのは、少しもったいないわね……あ、そうだ!」
ヒサメが、イソトマを見る。
「え?」
「君、神異に転化してみない?」
「は?」
「君のことは、爆蟲妃主の中から見ていたから知っているよ。地上は退異師が囲んでいるし、君は捕まったらただじゃ済まないんじゃない?」
「それ、は……」
(〝迷い家〟に侵入したのは、対策局の奴らだったか……)
確かに、彼女の言葉にも一理あった。
(チコリを手にかけたのは、オレだ……)
このまま捕まっても、もう二度と玄冬院家には戻れないし、ルリカと結婚することはできないだろう。
(だったら──)
イソトマの答えは決まっていた。




