色部とくるみ、それからVtuber
Vtuberで漫画作家の茸谷きの子さんにご出演の許可を頂けました。
本作独自設定でご出演頂いております。
茸谷様の詳細と最新情報はツイッターなどで検索【茸谷きの子】をお願い致します。
色部三郎が請け負ったのは、くるみの訓練と若菜姫討伐のコーディネートだ。
コーディネートと言っても服装ではない。若菜姫の居場所の調査から討伐作戦指揮までの全てである。
報酬は破格の億単位。しかも、経費込みの前金ですら億がつく。
どうやっても必要な手順として、くるみには銃火器の取り扱いと最低限の体力が必要だった。
雷神の術などというものに、最初から頼るつもりも無い。
退魔十家のようなワンオフ特殊能力を色部が嫌っていることも理由の内だが、小娘一人を切り札にするような作戦では目標達成は不可能と考えてのことだ。
相手の妖物が、くるみの雷神の術でしか殺せない相手であればまた違っただろう。しかし、現実にはそんなものが切り札になることは、ほぼない。
なんにしろ、まずは情報がいる。
若菜姫の分身、端末とも呼べる小蜘蛛が必要だった。
生け捕りにさえすれば、全てを調べ上げることも可能だ。
対妖物用の拷問技術で、口を割らせることもできる。
難しい顔でパソコンに向かっている色部は、煙草を手に取った。
ジッポライターで紙巻煙草に火を点け、一口目は大きく吸う。じりりと煙草の先端が灰になるのを見ながら、思考に休憩を挟んだ。
銃火器の訓練と並行して、最初の一か月で情報を集める。人員の手配も並行して行う。
「居場所と生け捕りが問題か」
鳴髪家の長女である鳴髪小夜子がそれを担当することになったのは、聖蓮尼による強制だ。噂の恋人とやらもそれに加わっていると聞いている。
色部は自分自身で手配したことしか信用しないため、それとは別に手段をとっていた。
退魔師の情報網というのは、あまり役に立たない。
証拠に、今まで若菜姫が調伏されたものと皆が放置していた。こんな時の退魔師は何の役にも立たない。
パソコンのモニタには日本で大人気のSNS、ツイッターが表示されている。
色部はDMで依頼していた要件の返信を待っている。
にらめっこしている内、納期時刻ぴったりにメッセージを受信。
【完成原稿を納品します。確認に問題なければアップしますね。ダウンロードリンクURL:******************】
メッセージの相手はVtuberの【茸谷きの子】。
SNSのプロフィールには美少女イラストが表示されている。
彼女は、動画配信サイトで自作漫画の公開などを行っているVtuberである。
イラストをアバターとして動画配信を行う演者で、近年には人気のコンテンツとなっている。それがVtuberだ。
退魔師とは一切無関係の業種だが、どうにも公開している漫画が実際にあった退魔師案件に酷似しており、公安の調査対象ともなっている謎の人物であった。
色部はすぐに返信を行う。
『確認しますので、少しお待ちください』
ダウンロードしたPDFファイルを開くと、漫画の完成原稿である。
漫画の筋としては、カワイイ小蜘蛛の女妖怪を拾った主人公が、いつしか蜘蛛に魅入られて恋人を生贄に捧げてしまうストーリーである。濡れ場ありのR-18だ。
捧げられた恋人は蜘蛛に魂を食われたあげく、存在を乗っ取られて若菜という名前を名乗るところで話は終わる。
色部は漫画に詳しい訳ではないが、ストーリー重視ながら濡れ場も悪くないもので、商業誌でも掲載できるであろうものに見えた。
『これで結構です。後金はすぐに支払いますのでご確認ください。フォロワーから依頼されたもので、実話という設定で公開して下さい。それから、同じような話を知っている人から情報が欲しいということも』
メッセージを打ち込んですぐに、送金手続きを行う。
【送金確認できました。では、作業に取り掛かります】
返信が早い。
色部はこれからインフルエンサーにこの漫画の拡散を依頼する。
インフルエンサーとは簡単に言うとwebの人気者だ。金さえ支払えば、明らかな詐欺商材でも平気で宣伝する者も多い。
エロ漫画の宣伝であったしても、疑問など持たないだろう。
さしずめ、色部はVtuber茸谷きの子の熱狂的なファンといったところか。
大金持ちのイカレたファンなんていうものは、珍しいものではない。
「さて、上手くいけばいいが」
名前と絵姿で認識を歪めてやれば、バケモノは上手く化けられなくなる。
だからこそ、実際に若菜姫がやっている手口を漫画にした。何より、ヤツの名前と絵姿をばら撒くことに意味がある。
インターネットやSNSが無ければできないこれは、現代的な存在を歪める呪であった。
もう一つ、望み薄ではあるが期待していることもある。
人間に化けて成り代わった妖物は、現代社会では全くバレない。
突然性格が変わったところで、妖怪に乗っ取られたなんて誰が信じるというのか。
例え、別人に変わって超自然的な現象であると考えたとしても、そんな馬鹿げたことは誰も口にしない。だが、こういうものを見ると不意に人は怖くなる。そこから疑念を持つだろう。
怪しまれれば、若菜姫への嫌がらせになる。
実を言うと、この作戦は以前に思いついていたが、実験する相手もいなかった。色部としては成果がなくてもよいと思っている。
潤沢に予算がある今なら、どれほど有効かの実験にもなるからだ。
この件はこれでいい。
鳴髪小夜子かそれ以外の筋から情報が入れば、そこから動くことになる。今のところは、調伏された当時の古い文献を当たるくらいしかできない。
本体の居所さえ分かれば、偵察の後に作戦を立てて強襲する。そのための人員とも交渉中だ。
時計を見れば、時刻は夕暮れ。
今朝、出汁の入っていない味噌汁とおにぎりを食べた。
鳴髪くるみが作ったもので、男の一人暮らしみたいな料理である。
それから、水しか口にしていない。
ふと、煙草が切れていることに気づく。
「買い物にでも行くか」
外に出た色部は、繁華街から離れてスーパーに向かう。
昨夜のカレーはそこそこ美味しかった。しかし、二回も買い物にいったというのに、くるみは福神漬とらっきょうを買い忘れている始末。
スーパーに辿りついて、お買い物だ。
炊飯器を買ったこともあり、少しはマシなものを作ろうと色部は思った。
買い物カゴにらっきょうと福神漬を放り込んだ後に、パスタとミートソース缶、ナス、玉ねぎ、卵と顆粒出汁の素、チャーハンの素などを買い込む。
買い物を終えて、事務所に戻ってからナスなどを切っていると、くるみが帰ってきた。
「ただいま。色部さん、なにしてるの?」
「何って、料理だよ。お前の分も作るから安心しろ」
「そうなんだ……。お刺身食べたくて買ってきたんだけど」
「それも食べたらいい」
くるみが出した刺身は、シメサバである。
どうしてこんな渋いものを選ぶのか。
「シメサバ? 何かと間違ったのか」
「違います! シメサバが好きだったらダメだって言いたいの!?」
悪くはないが、金髪で低身長の可愛らしいくるみが食べるには似合わない。
パンケーキやらオムライスでも好んで食べそうな見た目なのに、シメサバとは。
「すまない。そういうつもりは無いよ。人の食い物にケチをつける嫌な言い方だったな。謝罪する」
「そんな真面目に謝られても困るんだけど……」
「いや、重要なことだ。すまなかったな」
なんだコイツ、という顔でくるみは色部を見る。
女には分からないことだと、色部はそれ以上を語らなかった。
とりあえずはナスを切る。
簡単なナスのパスタを作りたい。玉ねぎも買ったので、こちらはオニオンスライスにする。花かつおを買い忘れたが、醤油はある。
「色部さん、あたしも手伝うけど?」
「鍋で水を沸かしてくれ。パスタを茹でる。……ご飯が欲しかったら、炊いてもいいぞ」
「あー、えっと、どうしよっかな。余ったら明日食べたらいいし、炊いちゃお」
そういうことになった。
色部は料理に凝っていた時期があり、素人ながらそこそこ作れる。
ナスとミートソースのパスタはそんなに難しいものでもなく、ご飯が炊ける前に出来上がった。
「ほら、食べていいぞ」
「はーい。いただきます」
くるみはパスタを口に入れて「おいし」と呟いた。
ごく普通の、家庭料理の域を出ないものだが、くるみには非常に美味しく感じられた。
「それならよかった。味の感想は正直に言ってくれていい」
「普通に美味しいよ。色部さん、ひねくれすぎじゃない?」
確かに、色部の言葉は文句があるなら言えという意味にもとれるものだった。
「……そうだな、よく言われたよ。普通に感想が欲しいだけなんだが、誤解させるような言い方だったな。すまない」
「謝らなくていいって。言われたって、別れた彼女とか?」
色部三郎事務所は、元々は相棒と二人でやっていた。
かつての相棒は女だった。
恋愛関係ではなかったが、よく同じことを言われたものだ。今から思えば、家族のような関係であったのかもしれない。
「デリカシーの無いヤツだな。そんなんじゃない、共同経営者だ」
「ふうん、そうなんだ」
くるみはそれ以上を聞かない。
色部は隠している訳でもないのだろうけど、どこかに痛みがあると知れたからだ。触れるべきではない痛みは、くるみにもある。
会話が途切れそうになった時、色部が口を開く。
「しめさば、消費期限はいつまでだ?」
「えっと、明後日まで」
「なら、今日はやめといた方がいいぞ」
「んー。お腹すいてるし、ご飯と一緒に食べるけど」
「食い合わせが最悪だ。もう一品、チャーハンでも作るよ」
オニオンスライスから一部を取ってみじん切りにする。そして、チャーハンを作ることにした。
卵とご飯があれば作れるチャーハンの素を使うことにする。
「色部さん、パスタ冷めちゃうけどいいの?」
「レンジで温める。ご飯が炊けたらすぐ作るよ」
そういうことになった。
手早く作ってみたものの、チャーハンに玉ねぎを入れたのは失敗だった。味が微妙になったが、それはそれで家庭の味。
粉末タイプのチャーハンの素は、簡単ながらそれなりの味になるのが嬉しい。
どこかにホットサンドメーカーを仕舞い込んでいたな、とフライパンを振りながら色部は思い出す。
一度使ったきり、面倒になって片付けたままだ。
チャーハンを二人分作って、皿に盛る。
くるみに押し付けた後、色部は台所に置いていたウイスキーボトルを取り出した。いつ買ったかも分からないサントリーオールド、通称ダルマウイスキー。
「なに、お酒飲むの?」
「ああ、たまにはな」
温め直したパスタとチャーハンを食べながら、ウイスキーを来客用のミネラルウォーターで割る。氷が無いのは残念極まりない。
日曜日の昼みたいな食事になった。
色部は意地でも日曜日は休む。昼まで寝て、七日に一度の自堕落をすることにしている。
「ねえ、お酒、美味しい?」
「酒の味はよく分からん。飲みやすいかそうでないか、それだけだよ」
チャーハンを食べて飲む酒は、そんなに悪くない。オニオンスライスも好きなつまみだ。
洒落た店で飲むより、こっちが落ち着く。
「あたしも、飲んでいい?」
「ダメだ。俺が犯罪者になるだろ」
「大丈夫だよ、女子高生はみんなお酒くらい飲んでるし」
「……。まあいいか。一杯だけだぞ」
コップに少しだけウイスキーを注いでやる。
「水で割らないの?」
「どれだけ不味いか、そのまま飲んで確かめたらいいさ」
くるみは、コップに口をつけておずおずと少しだけ飲んだ。
「うわっ、苦いし。よくこんなもん飲めるわね」
「こんなもん、飲まない方がいいんだよ」
「そうなんだ。早く大人になって、あたしは自由に飲みたいけど」
くるみは小さく笑う。
色部も、十代のころは早く大人になりたかった。
「大人になっても、不自由なことは多いんだ。さ、食べ終わったら自分の分だけでいいから皿は洗えよ」
「うん、そうする」
くるみが先に食事を終えて、色部はもう少し酒を飲んだ。
スマートフォンが震えている。
見やれば、web上にあげられた蜘蛛女のエロ漫画は順当にバズりつつあった。
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