五
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共鳴の後暫くの間、コナ村への林道を歩き続けていたシエラとクラウドだったが、
「疲れた……」
魔物に襲撃されたのも相成って疲労が溜まっていた。
「そろそろ、陽も落ちてきたか」
橙色に染まる空を見上げながら、クラウドは少しだけ歩調を緩める。
「どうする。ここで一旦休むか?」
「……うん」
おそらく、クラウドなりに気を使ってくれたのだろう。シエラはその好意に甘える事にした。近くの木に腰を下ろすと、体中が重くなるのを感じる。少しだけ目を閉じると、睡魔が襲ってきた。眠らないように、懸命に意識を持ち直す。魔物との戦闘で余計な時間と体力を使ってしまった為、限界だった。
「おい、大丈夫か?」
眠りかけたシエラに、クラウドが声をかける。その声にはっとして意識を戻すが、「……寝たい」と、つい口から本音を漏らしてしまう。
するとクラウドは溜め息を吐き乱雑に頭を掻きつつも、シエラに手を差し伸べてきた。
「コナ村まで、あと少しだ。頑張れ」
ほぼ初対面の相手のクラウドにすら、ここまで気を使わせてしまった事に、シエラの意識が段々と明瞭になる。
「……分かった」
シエラが立ち上がると同時に、何か大きな音が聞こえてきた。
「……?」
音源は今まで歩いてきた道のほうからの様で、シエラもクラウドもじっと目を凝らした。すると、商人の馬車と想われるものが走ってくる。
「乗せてもらうか」
クラウドの意見に、シエラは大きく頷いた。
「あぁ、快適〜」
商人の馬車に乗せて貰う事に成功した二人は、すぐにコナ村に着く事が出来た。今はもう陽も完全に沈み、コナ村の宿の一部屋で寛いでいる。
少しだけ湿った自分の茶色い髪に触れながら、シエラはゆっくりと瞼を下ろした。クラウドとの共鳴により、より一層、宝玉の存在を感じるのだ。
そして、今日逢ったばかりのクラウドとは、意外にも普通に接することで出来た事に、胸を撫で下ろす。そこまで人付き合いが得意なほうではないので、些か心配だったのだ。口調は冷たいところもあるが、悪い人間ではない。それにシエラの魔力に対して特に何も言って来ることもなければ、魔法学校に居たときのようなあからさまな態度もとってこない。その事が何よりも救いだ。
「……お母さん」
ほっとしたせいもあるのか、気づけばシエラはぽつりと呟いていた。今朝別れたばかりだと言うのに、あまりにも密度の濃い一日に、もう寂しさを感じる。
すると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。慌ててベッドから飛び起き、扉をあけると、そこにはクラウドが立っていた。
「どうしたの?」
シエラが首を傾げると、クラウドは少しだけ顔を曇らせる。
「これからの事なんだが……」
どうやら、それを話し合いたいらしく、シエラはクラウドを部屋に入れる。すると、入室を簡単に許可してもらえると想っていなかったのか、少しだけ驚いた顔をされた。それが妙におかしくて、シエラは小さく笑った。
部屋に入ったクラウドは、何処か肩身が狭そうだった。シエラは苦笑いを浮かべる。流石にこうも意識されると逆にこっちが悪いみたいに思えてくるのだ。
部屋には丁度テーブルと椅子があったので、そこに座って話をすることにした。シエラがクラウドに座るよう促すと、彼は少しぎこちない動きで腰を下ろす。
「それで……?」
シエラが切り出すと、クラウドはおもむろに口を開いた。
「これからなんだが、俺はディアナのフランズに向かおうと想ってる」
フランズというのは、ディアナ王国の首都の名前だ。ここからはまだ何十日と距離がある。
「分かった。じゃぁ、それでいいよ」
シエラの二つ返事に、クラウドは沈黙する。
「……お前、自分の考えってモンはねぇのか?」
呆れた様に言われ、少々癇に障ったが、無いのは事実なので反論はしない。
「まぁ、いい……」
一つ咳払いをすると、クラウドは話を再開した。
「フランズへは最短ルートで行こうと想っている。あとで地図を確認しておけよ」
「うん」
眠さから少し投げやりに返事をしてしまう。すると、クラウドは怪訝そうにこちらを見ている。眠いのがバレたのかと心配したが、どうやらそうではなかったらしい。
「……今日の魔物の事は、気にするなよ」
クラウドはシエラが魔物の件で気落ちしているのではないかと、心配してくれているのだ。シエラはそれに甘える事にし、疑問を口に出す。
「……ねぇ、クラウド。一つ、聞いてもいい?」
そう言うと、クラウドは真っ直ぐにシエラに視線を向けてきた。
「召還鏡って、ナルダンの人は皆持ってるの?」
あんな恐怖体験はもう二度とごめんだが、あの魔物と召喚された魔物の事を忘れるわけにはいかない。シエラがクラウドを真っ直ぐに見つめ返すと、クラウドは「あぁ」と観念したように話しを始めた。
「ナルダンは、マヨクワードゥに近いこともあって、他国よりかは頻繁に魔物が現れるんだ」
「そう、なの?」
「あぁ。魔物は不法入国をしては街を荒らそうとする」
そう言われ、遭遇した魔物を思い出す。あんな怖い思いをナルダンの人々はしているのかと想うと、寒気がした。
「見かねたナルダンの政府は、召還鏡を優秀な魔術師どもに作らせた。魔力を注げば誰でも使える特別な術式を施してな」
なるほど。技術は環境が生むこともあるが、これは苦肉の策ともいえるだろう。しかしあれだけ高度な魔法を誰でも出来るようにするには、相当な技術や知識が必要だ。
「お前の想像通り、結構な高等魔術だからな。変に術式を変えたりなんかすると、使用者も魔物も死ぬ可能性があるんだ」
やはり。魔法を使うのに魔力が必要なように、何かを行うには代償がいる。
「……でも、そんな事する人いるの?」
危険を回避する為の道具を、わざわざ危険なものにする必要はないだろう。
「魔物を疎んじる奴らは、大勢いる」
その言葉に、シエラは胸の奥が苦しくなった。今まで知らなかったとはいえ、今日関わったからには見過ごすわけにはいかない問題だ。自分には関係ない、と割り切る自分も勿論いる。けれど虐げられる苦しみを知っているからこそ、同情してしまうのだ。たとえそれが人外の存在であろうと、醜悪な容貌で人間を怨んでいようと。
「……話してくれて、ありがと」
シエラがぽつりと零すと、クラウドは予想外だったのか目を大きく見開いた。そして「いや、すまなかった」と軽く頭を下げると、クラウドは部屋を出て行く。
シエラは不思議な気持ちでその背中を見送った。
次の日の朝、シエラはカーテンの隙間から漏れる光で目を覚ました。
「……ん」
ゆっくりと起き上がると、大きく伸びをし欠伸を漏らす。昨日は疲れていた為、よく眠ることが出来た。部屋を出ると、既にクラウドは支度を終えた様子で、気だるげに壁に凭れている。
「おはよう」
シエラが階段を下りると、クラウドはゆっくりと壁から身体を離し、口を開く。
「行くぞ。飯は歩きながら食う」
そう言うと、さっさと宿から出て行ってしまい、シエラは返事をする隙も与えられず、慌ててクラウドの背を追った。
「……ちょ、クラウド!!」
走って彼の背が近づいたかと想うと、急激に顔全体に痛みを感じた。
「ったー!!」
ヨロヨロとシエラは数歩後退り、鼻を押さえる。
「なんで止まん……」
「静かにしろ」
反発しようとしたシエラだったが、クラウドの威圧的な語気に、思わず口を噤む。そして、クラウドの視線の先には一人の少年が立っている。
「おはようございます」
オレンジ色の髪は朝陽を浴びてキラキラと輝いている。大きな二重の垂れ目と、頭にちょこんと乗せた黒のシルクハットが印象的だ。赤のりぼんに、こげ茶のカーディガンと黒っぽい茶色のマントを羽織っている。そして、ぺこりと下げた頭を上げる少年は、とても愛らしかった。
「え、女の子!?」
そのあまりにも可愛らしさに、シエラはその顔を見て思わず声を上げる。すると、彼――彼女?――はシエラに向かって微笑む。
「いいえ、僕は男ですよ」
その微笑は同性も異性も関係無しに、ただ可愛い、と想うような笑顔だった。シエラがぼぉーっと少年を見つめていると、クラウドが怪訝そうに少年を見た。
「お前、何者だ?」
シエラはクラウドの言葉の意味が分からず、視線を彷徨わせると、ふと、あることに気づく。クラウドの足元一帯の地面が削れているのだ。そして、それは丁度左右に直角に折れ伸びているている。
「僕……? 僕はウエーバー=ジャシュウオ、と申します」
ウエーバーと名乗った少年は律儀に一礼し、そして二人を試すような瞳で見つめた。
「あなた方は、適合者ですよね?」
にっこりと微笑んだウエーバー少年に、二人は警戒するように構えた。すると、彼はきょとんとして首を傾げる。
「何を警戒しているんです? 僕はディアナの適合者ですよ」
「んなこと信じられるかよ。大体、お前からは血の匂いがする……」
クラウドが剣に手をかけると、ウエーバーは困った風に溜め息を吐く。そして目を細めると殺気を放つ。
「それは、お互い様でしょう。何なら、試してみますか? 僕が本物かどうか」
「ハッ、上等だ。やってやるよ」
「ちょっとクラウド!? 何考えて……」
「うるせぇ、黙ってろ」
こんな早朝から喧嘩とは迷惑にもほどがある。そう言いたかったけれど、二人が放つ殺気の凄まじさに気圧されて動けない。
「……行くぜ」
地面を蹴ったかと想うと、風のような速さでクラウドはウエーバーに迫っていた。避ける素振りのないウエーバーに、シエラは息を呑む。
――避けて……!!
そう想った瞬間、聞こえてきたのは金属のぶつかる高い音だった。
「魔法陣か……」
クラウドが更に剣に力を込める。しかしウエーバーの両手から出現している魔法陣を突き破ることは出来ない。
「僕のは攻撃型に近いですがね」
微笑むウエーバーからは想像できないほど、彼の魔法陣はクラウドに効いているらしく、クラウドはジリジリと後退している。
――魔法陣は、防御型術式じゃないの?
シエラはウエーバーの魔法陣に目を見開いた。
魔法陣は主に防御として使われるか、召喚魔法に使われる事が多い。魔法には大まかに四つの種類があり、術式魔法、召喚魔法、空間魔法、契約魔法。その中でも、術式魔法は攻撃型と防御型に分かれている。
「……凄い」
魔法学校の成績上位者でも、ここまで出来るだろうか。レベルの違いに、シエラは呆気にとられた。
「こんなもんっ!!」
力技で、クラウドは魔法陣を弾き飛ばすとウエーバーに向かって駆け出す。
「我が敵を燃やし尽くせ――フレイム・アロー!」
ウエーバーが呪文を詠唱すると、無数の炎の矢が出現しクラウド目掛けて、飛んでいく。
「普通、こんなに出現しねぇだろ!!」
そう言いながら、クラウドは次々と矢を切り落とす。
「本当にコレ低級魔法かっ!?」
薙ぎ払いながら、ウエーバーに近づこうと矢を斬るが、中々近づくことが出来ない。
「ふふ、どんどん行きますよ……ッ!!」
軽やかな口調でウエーバーは更に炎の矢を増やした。
「そうかよ。じゃぁ、こっちも行くぜ」
クラウドの剣が僅かに光ると、ウエーバーは何かを感じ取ったように炎の矢を動かす。しかし、クラウドは既に動き始めており、そのスピードは先ほどよりも遙かに早い。するとウエーバーは楽しそうに笑った。そしてクラウドの剣に矢をぶつけ、動きを封じながら口を開く。
「そうですよね。あの程度で終わりなら、殺すところでした」
「強がるなよっ!!」
クラウドがウエーバーの腕に剣を振り下ろすが、ウエーバーはそれを魔法陣で受け止めた。
「ブレス・フレイム」
ふーっと息を噴出すと、炎がクラウドの顔面で燃え盛る。口から出された空気が炎に変わったのだ。間一髪でクラウドが避けると、ウエーバーはもう次の攻撃に移ろうとしている。
凄いというレベルの戦いではない。シエラは陰に隠れ二人を見つめる。まだお互いに本気は出していない様だが、それでも一般人との実力の差は分かるだろう。
「チッ。これじゃ埒があかねぇ」
クラウドは後ろに下がり、数度片手で持ったまま素振りをする。ウエーバーはクラウドが下がった事により、攻撃の準備を止め、クラウドの次の攻撃に備えて魔法陣を出現させた。
「ったく。本当は嫌いなんだが……そうも言ってられねぇみたいだな」
「出し惜しみはしない方がいいですよ」
ウエーバーは両手に魔法陣を翳し、くるくると回転させている。その様子を見たクラウドは剣を握りなおす。
「……切り刻め、薙ぎ払え。――」
詠唱の最後の部分は、剣から発生した電流により聞き取ることが出来なかった。しかし、そんな事にも構っていられない程、その電流は凄まじい。剣に雷がそのまま纏っているとでも言うのだろうか。それほどに凄まじく、ウエーバーも大きく目を見開いている。
「これで、どうだっ!?」
ドガァアン。
クラウドが一振りしただけで、それは雷の奔流となりウエーバーを襲う。間一髪でウエーバーは避けたものの、そこは地面が深く抉れており焦げている。
「それは……魔道具の一種ですか?」
クラウドは恐らく魔法を使ったのだ。
普通の剣を魔法で強化しても、剣が魔力に耐え切れずに壊れてしまう。しかし、クラウドの剣は壊れるどころか、斬撃の威力を上げている。こんな事が出来るのは魔道具の剣。それも特別なものの筈だ。
「そんな呑気に話してる場合じゃないだろっ!!」
「っ!!」
クラウドは一瞬にしてウエーバーの間合いへと入る。その動きはシエラの瞳で捉えられるものではなかった。
「くっ!! っ!」
必死に魔法陣で防いではいるが、流石のウエーバーもクラウドの動きを捉えることが出来ない。それほどまでにクラウドの動きは速いのだ。
しかしウエーバーは笑った。まるで強い相手と戦えている事が嬉しいとでも言うように。そして彼は更に魔力を放出させる。
「嬉しいですよっ。あなたみたいな相手を待ってました!」
「あ!? 何言ってんだよ!!」
「こんな好敵手……いいえ、仲間と会えるなんて!!」
勿論、二人は会話しているが戦いながらだ。互角以上の凄まじい戦いを繰り広げながらも、やはりウエーバーは楽しそうにしている。
「……何なの、あの二人」
シエラは物陰で見つめながら、自分の身体が震えている事に気づく。それは恐怖心からではなく、あの二人が同じ適合者である事をたのもしく想い、そして目の前で繰り広げられる戦いに興奮しているからだ。しかし、よくよく冷静に考えてみれば今は朝だ。
――村の人にとっちゃ、迷惑だよね……。
しかし、シエラには止める術が無い。そもそも魔力はあるが魔法が苦手で下手なのだから、あの二人を止めに入っても危険なだけ。
「困ったなぁ……」
普段から授業も真面目に受けていなかったので、ここぞという時に知識が無い。うんうんと唸っているうちに、二人は更に戦いを激化させており、入る隙が益々なくなる。
その時、突然戦いの物音が止む。驚いたシエラが視線を戻すと、そこには白銀の長髪を靡かせた女性が立っていた。
「――これ以上の無益な戦いは認められません」
静かな声音に、クラウドもウエーバーも、シエラですら何も言えず、一体何が起きたのか分からない。クラウドとウエーバーに至っては、動けないようだ。
「……てめぇ、誰だ?」
「私はルダロッタの神々の使いに御座います」
「神々の……?」
目の前の、穏やかに三人を見つめる女性は一礼すると、シエラに近づき、その肩に手を置いた。
「ロべルティーナの適合者様が、戦いの中断を望んでいたため、あなた方二人の動きを止めさせて頂きました」
にっこりと微笑むと、女性は口元で掌を返しそこにふっと息を吹きかける。すると、今まで動けずに固まっていた二人の身体に自由が戻った。
「……二人とも、村の迷惑も考えてあげたら?」
シエラがぼそっと呟くと、二人はバツの悪そうな顔で押し黙る。そして女性は三人を見つめ、一つ咳払いをしてから口を開いた。
「あの、宜しいでしょうか?」
この空気が気まずかったのか、女性は眉を顰めている。シエラはぱっと顔を上げ、こくりと頷く。
「恐らく聞いているとは想うのですが……このルダロッタへの道のりは適合者全員で共に来て頂きます」
「伝承にもあった、適合者たちの旅ですね」
ウエーバーの言葉に女性はこくりと頷き、すっと右手で円を描く。すると、そこには青白い光で出来た地図が現れた。
「ルダロッタはロディーラの最北西に位置します。国の位置、皆様の行路を考えると……」
地図がどんどん拡大されディアナの首都であるフランズの場所が表示される。
「ここで集合するのが一番宜しいかと」
「……俺たちは元々、フランズを目指していた」
クラウドの言葉に、シエラは昨日の事を思い出す。女性はクラウドの言葉に微笑み、そしてウエーバーに視線を移した。
「ディアナの適合者様。ディアナ国内の事は一番分かっている筈です。宜しくお願いいたします」
「えぇ、分かりました。きちんと全員揃えてみせますよ」
一礼した女性はウエーバーの言葉を聞き、満足そうに頷いた。しかし、クラウドは眉間に皺を寄せている。
――ていうか、この子本当に適合者だったんだ。
八割ほどは信じていたが、どうしても残りの二割疑念が残っていた。
「おい。しかし……なんで適合者は共に旅をしなければならないんだ?」
確かにそうだ。クラウドの疑問にシエラも最もだと想った。封印については謎だらけな為、二千年前と同じ通りにする事が無難とされている。だからあまりそこは疑問に想わなかったのだ。
「聖玉の封印には絆が必要との事。その為に共に旅をし、試練を受けるのです」
「なるほど……」
シエラとウエーバーが感心して頷くと、クラウドは無言で呆れたような視線を二人に向ける。
「つまり、今のように争いが頻発してはお役目は果たせない、という事です」
「っ!!」
付け足された一言に、クラウドとウエーバーは顔を引きつらせ、小さく謝罪の言葉を述べた。
「運がよければ、道中出会えるやも知れません」
「そうですね。わざわざありがとうございます」
ウエーバーと女性はお互いに深々と頭を下げている。 その光景を見ながら、シエラは大人だなぁ、と呑気に想っていた。
「あぁ、それと――」
「?」
女性がシエラに手を出すように言ってきたので、差し出すと、そこには白銀の毛を持ち、尾が二つに分かれている狐がいた。
「役に立つでしょう。名をイヴと申します」
「可愛いっ」
今は寝ているらしく、その双眸は閉じられているが、きっと愛くるしい瞳があるのだと予想し、シエラは口元が綻ぶ。
「では……私はこれで。また逢いましょう」
そういうと、女性は一瞬にして風と共に消えてしまっていた。辺りが急に静かになると、クラウドが頭を掻きながら口を開く。
「……まぁ、なんだ」
「改めて、これから宜しくお願いします」
「……おいこら待て、それ俺の台詞だろ」
「よろしくねっ」
クラウドは台詞をとられ、眉間に皺を刻む。その様子を見ながら、シエラはくすくすと笑う。
「きゅーん」
「あ、起きた! やっぱ可愛い〜」
深く大きな蒼い瞳。シエラはイヴの頭を撫でながら、改めて二人を見る。
何かが起こる予感を抱きながら――。




