君、戦闘班には興味ないか?
「いや、これ……つまり、霖也くんが回収したってことで合ってるよね? 何なの。いったい何があったの!?」
「はい。運がよかったです」
実際は運というより、たまたま俺のほうにちょうど使える情報があっただけだが。
「……3級神器が二つ……。間違いありません。先ほど閉じ込められていた災害から回収されたものですね」
「わ、うわ! わあああっ!! すごい! 霖也くん、どうやったの……!! ……え、ちょっと待って」
二人の先任がぐっと距離を詰めてきたそのとき、さっきとは少し違う沈黙が降りた。
俺を見た二人の先任の顔が青ざめた。
「い、今これ、神器どころじゃないんだけど!? 二人とも服どうしたの!? 血? これ、血じゃない!?」
「出血が……かなりあったようですが。これは……」
(あ)
そうだ。
そうだったな。
そこでようやく、今の自分がどんな有様なのかに気づいた。
死んで生き返るたびに身体は自動的に修復されたが、その過程で破れ、血にまみれた服まで魔法のように元通りにはならなかった。
つまり、今の俺と結城は、ハロウィンの仮装でもして飛び出してきたみたいな格好をしている、ということだ。
しかも、4月に。
「見た目ほど深刻ではありません。落ちた先が等活地獄だったので。少し怪我はしましたが、今はもう治っています」
「え? ……あ、だからか! どうりで! 私たちはなんか氷だらけのところに落ちたんだよ。変なやつらと戦ってたんだけど、急に外に弾き出されちゃって!」
「氷だらけのところではなく、八寒地獄です。天道さん」
「そうでした。まあ、とにかくそれです! うう、勝てたのに!」
よくはわからないが、先任たちもそれなりにダイナミックな時間を過ごしてきたらしい。
その間、神器を確認していた柳が、どこか妙な表情で口を開いた。
「初めての災害進入でこれだけの成果となると、これは……」
「ん? 3班? そこでみんな何してるんだ?」
「……!」
「呼び出しが来たから協会からすぐ出てきたんだが、まさかもう終わって出てきた……。ええっ!? 何だ、みんなその格好は!? どこか怪我したのか!?」
「……宇野隊長!」
そしてその瞬間、5人の戦闘班隊員が現場に到着した。
「い、いや。何だこれは。お前ら何してる! 早く医療班に連絡しろ!」
「は、はい!!」
[超常戦闘ガンマチーム/隊長 宇野勝哉]
俺たちの状態を確認した彼が慌てて指示を飛ばすや否や、残りの隊員たちが一斉に動き始める。
その騒ぎの真ん中で、どっと力が抜けるのを感じながら目を閉じた。
(やっと)
初めての超常災害進入が、無事に終わった。
◇
ほどなくして医療班が到着し、気を失った結城は担架に乗せられて運ばれていった。
その後聞いた話によると、低等級の災害でも、誰かが進入したあとに通路が閉じる場合が時々あるということ。
進入と退出のどちらか一方だけが塞がったり、運が悪ければ完全に閉鎖されてしまったり。パターンは完全に予測不可能だ。
必ずしも危険等級1級、2級でなくても、こういう危険要素はいくらでも存在するということだろう。
結果的に、あの中に閉じ込められているあいだ、現実で経過した時間はわずか10分。
そして……。
「それは本当か? いや、今日入ったばかりの新人が神器を二つ回収したって?」
「……はい。そうです。詳しい報告は後ほど――」
「い、いや、方法は!? 攻略法はどうやって見つけたんだ!?」
「……はい。順を追って説明します……」
俺は医療班から簡単な応急処置を受けたあと、すぐに隊長を含むガンマチームの隊員たちに囲まれ、質問攻めに遭っていた。
(……まさか、ここまで事が大きくなるとは思わなかったんだが)
ガンマチームの宇野隊長は、どこか人懐っこい近所のおじさんを思わせる、がっしりとした体格の中年男性だった。
結局、今回も『主人公』との接触は失敗したらしいが、ともかく周囲を見れば、この状況にもだいたい納得はいった。
今の俺は、勤務1日目の新人。
3級災害、それも神器が二つもある災害を、先任もいないまま、同じ新人一人を連れて無事にクリア。
これが普通の状況ではないだろうということくらい、簡単にわかる。
だから俺は表情を整え、とても説得力のある声で話を続けた。
「解脱に至ることが攻略の鍵になると判断して、できる限り平常心を保とうと努めました。もちろん、災害内部の環境や神器の効果もあって簡単ではありませんでしたが、必ずここを出るという覚悟で集中していたら、どうにかなったようです」
「解脱……? つまり、第六天魔王の神器だということだけを見抜いて、災害の中でそこまで平常心を保ったというのか……?」
「それ以外には方法がなさそうでした。幸い、一緒にいた結城さんも私の判断を信じて、平常心を保とうと努力してくれましたし」
「おお……!」
口から出た言葉の八割は嘘だったが、どうせ向こうに確かめる方法はなかった。
そこへ、自分たちのほうでは何もしていないという天道の証言まで加わり、結果的に今回の神器回収は俺と結城の実績として認められた。
悪くない成果だった。
もちろん、たった一つ。
「君、戦闘班には興味ないか? ん? 状況判断能力が並じゃないぞ! きっと戦闘班でもうまくやれる! 戦闘班! 戦闘班には君みたいな人材が必要なんだ!」
「大丈夫です」
「しかも、昨日試験会場で有名になったあの33番も君だったんだろ? 君は人を助ける仕事をするべきだ。どう見ても超常戦闘班向きの人材だぞ! 君には才能があるって! 優秀なんだよ!」
「いえ、大丈夫ですって」
……数分前からしつこく俺を説得しようとしてくる宇野勝哉に捕まっていることを除けば。
「うーん……ああ、本当に惜しいなあ。神器さえ持てば、かなり化ける人材なんだけどなあ。ああ……。戦闘班の仕事も思ってるよりずっと面白いんだけどなあ……。うーん……」
「……」
宇野がわざと聞こえるようにぶつぶつ言っていたが、あれだけ図体のでかい中年男が哀れっぽく振る舞ったところで、別にかわいそうには見えなかった。
俺はただ、ここを無事に出て労災申請をしたいだけだ。
そしてその報酬で、残りの勤務期間8年を消してしまうことしか考えてないしな。
「ああ、自己紹介が遅れたな。俺はガンマチームの宇野勝哉だ。気軽に宇野隊長って呼んでくれ」
「はい。宇野隊長。柏葉霖也です」
短く握手を交わしたあと、俺は周囲を見回した。
(誰も彼も、ぱっと見ただけで徹底的に鍛え込まれた身体だな)
生まれつきの体格のせいで、一見すると小柄に見える者もいたが、歩き方や立ち姿を見ればそうではないことがわかる。
文字どおり、戦闘だけを目的に鍛え上げられた実戦向きの筋肉。
少し畏敬の念すら覚えるほどだ。
……まあ、そうだな。
それと、もう一つ。
――カシャッ! カシャッ!
「……」
さっきからずっと気になっていたんだが……。
「有能? 誰が? あっち、見ない顔だけど新人?」
「あっちの戦闘班、ガンマチームだね。ああ~、残念。私、シータチームのほうが好きなのに~」
「ここにあった災害を閉じに来たみたいだね。写真撮って、写真!」
――カシャッ! カシャッ!
(これが戦闘班なのか、街ロケに来た芸能人なのか区別がつかないな)
いつの間にか周囲には人だかりができていたが、ほかの隊員たちはみんなこの状況に慣れているらしく、気にも留めていない様子だった。
幸い、協会の車が到着したのはそれから間もなく。
俺たちはガンマチームと現場管理班に短く挨拶を済ませ、いつの間にか眠り込んでいた柳を拾って、ようやく車に乗り込めた。
「はあ……」
「霖也くん、だいぶお疲れだね~。やっぱり仕事は楽じゃないでしょ? でも元気出さなきゃ。これから、これより大変な仕事もまだまだあるよ?」
「……はい」
助手席に座って窓の外を眺めると、ガンマチームの車の周りには、まだ大勢の人が群がっていた。
(この世界で神器をどう活用しているのかは、もう大体わかったな)
神格の力は人間の信仰と崇拝によって強まる。
そして、彼らの残滓である神器も同じだ。
(つまり、戦闘班にスポットライトを集中させ、大衆の憧れの対象にすることで神器の能力を引き上げる……か)
神器は契約者に力を分け与え、その契約者が崇拝を集めるほど神器の力も強くなる。
そういう観点から見れば、かなり合理的で効率的な仕組みということだろう。
「今日は現場派遣でもあるし、せっかく大きい案件も一つ片付いたんだから! 本部に戻る必要はないし、このまま上がっていいよ」
「はい」
「……」
後部座席に放り込まれた柳は、身じろぎ一つせず目を閉じたまま、車の動きに合わせて身体だけがかすかに揺さぶられていた。
天道に短く頷いたあと、俺は窓ガラスに頭を預けたまま、外を流れていく景色を眺めた。
災害の中だけで活動するこちらとは違って、劇的な瞬間に現れて市民を救う、典型的な英雄ポジション。
そして、その『英雄』の活躍のためには、結局誰かが先に命を懸けて災害へ入り、内部を把握しなければならない。
なら、神器回収班はいつだって、それだけのリスクを背負わなければならないということだろう。
協会が命の値段としてそれだけの金を払う理由がわかるな。
(とにかく、おかげで少し休む時間はできたか)
そこまで考えて、俺は疲れた目を閉じた。
余裕もできたし、このまま戻ってあれこれ点検できるだろう。
……と。
【〈EP3〉
必須要素:身体の欠損なき主人公の生存
進行期間:2020.04.10~2020.04.11(※派生宇宙内部時間基準)】
そのときの俺は、そんなことを考えていた。
◇
【速報】今日の新宿、現地で見てた奴いる?
1:名無しの一般人
回収3班だったよな?
誰?あの黒髪?




