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お嬢様は拳でドラゴンを倒したい  作者: 月城キナ


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004:追放、そして庶民へ

 その後は家を出るだけ。荷物はない。着の身着のままというやつだ。家族としては色々と持たせてやりたいだろうが、でもそれは出来ない。グレイセント家はこれからが大変だからね。


「バイバイ」


 エレスティーナは門の前で一度だけ屋敷を見上げて貴族の女性式の礼をした。右手を胸にして軽く頭を下げて片膝を折るのだ。後ろ暗いところは何も無い。


 ─私は間違ってない。


 そんな思いを込めての最後の別れの挨拶。これで貴族のエレスティーナは居なくなった。


 その後、エレスティーナは振り返ることもなく王都の中央広場を目指した。


「何はともあれ着替えなきゃね」


 貴族服で街なかを歩いていたら騒動の種にしかならない。


 雪が溶けたばかりの季節で、まだまだ肌寒い早朝を少し過ぎた時間帯。エレスティーナは使用人に聞いた庶民が使うという服屋を探して急ぎ足で街の中を歩いた。視線が突き刺さって痛いがエレスティーナは無力な貴族女性ではないので気にした様子がない。


 そして中央広場の一角に服屋を発見して、さっそく突撃した。


「すみませーん」


 店内に入ったエレスティーナは大声で呼びかける。すると女性店員が目を白黒とさせた。


 貴族服の女性がお供も付けずに一人で来店して大声を出したら、そりゃ驚くだろう。エレスティーナは貴族生活で培ったポーカーフェイスを維持して、ティナは何にも気にしてませんという感じで用件を話した。


「このドレスを売りたいのだけれど良いかしら?」

「え!」

「で、そうね。こっちの男の子用の服が欲しいの」


 男性用ではエレスティーナには大き過ぎるからこその選択。


「は、はい!」


 未だ混乱覚めやらない様子の女性店員がパタパタと動き始める。驚かせてゴメンよぉとエレスティーナは心の中で謝罪をしながら更衣室で着替えていく。


「えっと。こちらが服の代金のお釣りです」

「ありがとう」


 わずかばかりの金銭が手元に入った。だがエレスティーナには貨幣の価値が分からない。大銅貨と小銅貨なのは分かるけど。それがどの程度の価値なのかがわからないのだ。


 そこでエレスティーナは考えた。まず早急にしなければならないことは仕事を探すこと。体を売るのは最後の手段。病気や妊娠が怖いからだ。


 ─仮に売るとしてもそれなりの相手がいい。安売りはしたくない。この身体。高性能で上等だからだ。


「確か、冒険者という何でも屋の仕事があるとか言ってたな」


 何処で聴いたんだったかを考えて小間使いたちの会話の中だったのを思い出す。


「あの時は仕事しろよと思って聞いていたけどな」


 あなた達の仕事の最中の愚痴は私の中で生きているよとエレスティーナは心のなかで拍手を贈った。


 途中で適当な通行人を探した。声をかける対象に選んだのはオバサンだ。


「すみません」

「おや。お嬢ちゃん。どうしたね? 男の子用の服なんて着て?」

「うん。冒険者になりたいんだけど、何処に行けば良いかな?」


 するとオバサン。


「あんた! 冒険者になるのかい! やめときなよぉ。怪我するよ?」

「はぁ……そういうのいいから。何処に行けば良いのかだけ教えて」


 エレスティーナも自分が溜め息ばかり吐いていることにウンザリしている。これではミセス=ウルネリーや父ヴォルフを笑えないではないか。


「はいはい。そうね。こっちの道をまっ直ぐに行った先。ブーツと剣と弓のマークの看板が目印だよ」

「そう。ありがと」

「本当に気をつけなね。冒険者なんて野蛮な連中だよ? お嬢ちゃんなんてペロリと食べられちゃうわよ?」

「それならそれで、お金を取るだけよ」


 そう答えてエレスティーナはバイバイと親切だけどお節介なオバサンと別れた。


 言われた通りに道を進んだ先で、冒険者ギルドの看板を見つけた。


「ここか」


 木製で年季の入った看板だ。仮にも王都という、国でも有数の歴史と豊かさを誇る街のギルドだ。歴史も同じぐらいあって中も豪華で活気があるんだろうな。そんなギルドのドアをエレスティーナは躊躇することなく開いて中へと入った。しかし驚いたことに建物の中は閑散としている。


 ─うっそぉん。人がほとんど居ないじゃん。どういうこと?


 前世で言う所の役場とかそんな感じの印象を受けたエレスティーナ。質実剛健。機能美というか、機能性だけを追求したような場所だ。壁に装飾とかあるけど必要最低限だ。豪華さや華やかさなんて二の次という様相だ。


 でも明かりに関することには拘りを感じる。照明然り、明り取り然り。どれもが機能を最大限に活かそうという配置をしている。


 左奥には受付の人が座るカウンター。右手前には掲示板が並んでいる。おそらく依頼が張り出されているのだろう。ポツポツとガラの悪そうな男たちが立っているのが見える。


 ─やっぱり絡まれるのかな? 可愛い私は先輩冒険者に絡まれたりするのかな?


 ドキドキしながら、それでもエレスティーナは仕事をしなくてはいけないのだ。生活のために。ここで引き返すと言う選択肢はない。


「いざ行かん。荒涼たる世界へ!」


 押忍!


 気合を入れて足を踏み出したのだった。

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