〜大川穹音(おおかわ そらね)との出会い編〜水族館殺人事件 プロローグ
大川 穹音こと穹ちゃんは大学の後輩です。身長148cm、細身、服装はいつも大きめのロリータファッションです。彼女曰く、体型に合うものがなかなか無いらしく、服屋の一番小さいサイズを買ってもぶかぶかになってしまうそうです。
彼女との出会いは二年前の水族館殺人事件の事です。
天気良好の日差し照りつける日。私は翔子とマーリンエッグという水族館へと来ていました。
「今日は誘ってくれてありがとう。水族館なんて久しぶりだから楽しみ」
「私も久しぶりだな〜。小学校の体験遠足以来かな。杏子は? いつ以来」
翔子の足取りは軽快でした。
「私は一昨年以来かな。従兄弟と来たの」
「従兄弟って、まだ小さかったよね。たしか今年で7歳だっけ」
「そうそう。これがまた可愛くってね。その時はマンタに夢中でね、一時間くらいマンタのいる大水槽に張り付いてたわ」
「可愛い」
話しながら歩いておりますと、大きな階段が見えてきまして、そこを登りますとチケット窓口がありました。今日は平日ということもありまして、人はさほど多くはなく、絶好の水族館日和です。
「すみません。大人二人分の入場チケットをお願いします」
窓口の方は20代前半程の女性でした。窓口様はニカッと笑顔を向けた後、対応を続けました。
「畏まりました。大人二人で1000円になります」
財布から500円取り出しまして、青のコイントレーに置きます。
「丁度ですね。こちらチケットです。ごゆっくりお楽しみください」
窓口様は一礼しますと、椅子に腰掛け目を瞑りました。
入り口を抜けるとすぐに、マーリンエッグのマスコットであるカジキ君がお出迎えしてくださいます。
「可愛いねカジキ君。特にこの尖った鋭利な鼻。つい撫でたくなっちゃう」
私は然程可愛いとは思えませんでした。デフォルメされている身体に対して目はギョロッと生々しく、着せられている服は釣人様が着ておられる緑色のライフジャケットといった渋い物。それに鼻の部分も、ふんだんに陰影塗装が施されておりますので、これまた生々しい物となっております。小さなお客様が来られた暁には、皆様号泣なさることでしょう。
「そ、そうね。可愛いわね」
あまり姿を視界に捉えたくありませんので、辺りを見回し時間を潰しておりますと、一人のお客様に目が付きます。その方はとても小柄で、随分大きめのロリータファッション、色白、艷やかな長い黒髪といった、まるで童話から飛び出してきたかのような見た目をしております。
「綺麗」
「何が?」
「へ?」
「何が綺麗なの」
思わず口に出ていた恥ずかしさと同時に、翔子もさすがにカジキ君を綺麗とは認識していなかった事に、安心感を覚えました。
「あそこの女の子。とても、綺麗だなって。お人形みたいじゃない」
少女を指さすと、翔子は線を追いました。
「本当だ、すっごく綺麗。白のゴスロリを着こなせるって羨ましいな」
翔子と共に少女を見つめておりますと、少女と目が合いました。少女は数秒こちらを見た後、睨みを利かせ、小走りで奥の方へと進んでいきました。
「行っちゃった」
「まぁまぁ、そう気を落とすなよ。進んでけばまた会えるって」
「そう、だよね」
翔子は微笑し『何を見に来たか忘れてんじゃないの』と申しました。
「忘れてないよ。魚を見に来たんでしょ」
「そうだよ。さ、早く行こう」
翔子は私の手を取り、水槽へと続く薄暗い下り坂となっている通路を駆けるのでした。




