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『僕の隣りは、君のモノ。』  作者: 優貴(Yukky)


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7/9

第4話 「“隣”が壊れる音は、誰にも聞こえない」

放課後の空気は、教室の中だけ少し遅れている。

窓の外では夕方の光がゆっくり傾いているのに、机の上だけはまだ昼の延長みたいに静かだった。

結城 湊は、カバンのファスナーを閉めながら小さく息を吐く。

(……なんか、変な疲れ方してる)

理由はわかっている。

横を見る。

そこには、当然のように待っている少女がいた。

神崎 詩織

「遅い」

「いや、まだ放課後になったばっかだろ」

「一分でも遅い」

「基準が厳しすぎる」

三浦が後ろから笑う。

三浦 凌也「お前らもう夫婦みたいだな」

「は?」

「違うよ」

詩織の即答。

「隣だから」

その一言で、空気が少しだけ止まる。

「なあ、それさ」

湊が歩き出しながら言う。

「“隣だから”って万能ワードじゃないからな」

「万能だよ」

「どこがだよ」

「全部」

当然のように返される。

三浦が吹き出す。

「強すぎるだろその理論」

廊下を歩く。

窓の外には夕焼け。

長く伸びる影が二つ並ぶ。

その距離は、昨日と同じはずなのに、なぜか“固定されている”ように見えた。

「ねえ」

詩織が言う。

「なに」

「今日、少しだけ違う」

「何が」

「隣」

「……は?」

彼女は歩きながら、淡々と言った。

「昨日より、結城くんの歩く速度が0.2秒遅い」

「怖いこと言うな」

「観察してるだけ」

湊は少しだけ顔をしかめる。

「それ、普通やることじゃないからな」

「普通って何?」

「人間が自然にやること」

「私はしてるよ」

即答。

三浦が横でぼそっと言う。

「やっぱあいつ、基準バグってるって」

「聞こえてるぞ」

詩織が振り向く。

三浦が一瞬固まる。

「いや冗談だって冗談」

「そう」

すぐに視線が戻る。

その“興味の薄れ方”が逆に怖い。

校門を出る。

夕方の風が少し冷たい。

人の流れが分かれる。

三浦が手を振る。

「じゃあなー、結城、神崎さん」

「また明日」

軽い別れ。

その瞬間、世界が少し静かになる。

二人になる。

沈黙が一瞬だけ落ちる。

「……なあ」

湊が言う。

「なに」

「お前さ」

「うん」

「なんでそこまで“隣”にこだわるんだ?」

その質問は、初めて少しだけ違う空気を持った。

詩織の足が止まる。

ほんの一瞬。

風だけが通り過ぎる。

「……こだわってるんじゃないよ」

「じゃあ何だよ」

「普通」

「どこがだよ」

彼女はゆっくり歩き出す。

「隣ってね」

静かな声。

「いなくなると、わからなくなる場所なの」

「意味わかんねぇ」

「だから確認してるだけ」

湊は眉をひそめる。

「確認ってレベルじゃないだろ」

「そう?」

「そうだよ」

詩織は少しだけ笑う。

でもその笑いは、楽しさじゃなかった。

「ねえ」

「なに」

「結城くんはさ」

「うん」

「隣、嫌い?」

一瞬。

また同じ質問。

でも、少しだけ意味が違う気がした。

湊は少し黙る。

(嫌いか?)

違和感はある。

変な距離感。

意味不明なルール。

でも——

「……嫌いじゃない」

そう答えてしまった。

その瞬間。

彼女の目が、ほんの少しだけ柔らかくなる。

「よかった」

小さな声。

その“よかった”は、安心というより——

許可を得た音に近かった。

歩き出す。

並んだ影が、夕焼けに伸びる。

「ねえ」

「まだあるのか」

「明日も」

「……わかったって」

「隣、あるよね」

確認。

また確認。

でもそれはもう、ルールじゃなくなっていた。

結城 湊は小さくため息をつく。

「あるよ」

その言葉を聞いた瞬間。

彼女は、ほんの少しだけ歩幅を合わせた。

その夜。

街の明かりが灯る。

誰にも気づかれないまま。

“隣”という距離だけが、少しずつ形を変えていく。

まだ誰も知らない。

それが“優しさ”なのか、“支配”なのか。

ただ一つだけ確かなのは——

もう戻れないほど自然になり始めているということだった。

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