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『僕の隣りは、君のモノ。』  作者: 優貴(Yukky)


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3/9

プロローグ

――教室には、「当たり前」がいくつかある。

朝のチャイム。

窓から差し込む光。

いつも同じようにうるさいクラスメイトの声。

そして、空いているはずの“隣の席”。

結城 湊は、ぼんやりと窓の外を見ていた。

春の空はやけに明るくて、何かが始まる予感だけがやたらと濃い。

(今日も、いつも通りだ)

そう思っていた。

その時までは。

ガラッ——

教室のドアが開く音。

一瞬だけ、空気が変わった。

「転校生を紹介する」

担任の声に、クラスがざわつく。

その“ざわつき”は、すぐに別のものへと変わっていく。

静かに入ってきた少女。

まるで最初からそこに“いるはずだった”みたいに、違和感がなかった。

「神崎 詩織です。よろしくお願いします」

神崎 詩織

その名前を聞いた瞬間、理由もなく、背筋に小さな違和感が走った。

視線。

声。

立ち方。

どれも普通なのに、どこかだけが決定的におかしい。

「席は……あそこね」

担任が指したのは、窓際の後ろから二番目。

――つまり、結城 湊の隣だった。

彼女は迷わなかった。

まっすぐ歩いてくる。

そして、当然のようにその椅子を見下ろして——

「ここ、いい?」

そう言った。

「……え?」

思わず間抜けな声が出る。

普通なら「よろしくお願いします」とか、「隣いいですか」だろう。

でも彼女は違った。

まるで最初から“決まっていた場所”を確認するみたいに、そこを見ていた。

「この席」

彼女は小さく繰り返す。

そして、ほんの少しだけ笑った。

「私のものにしていい?」

教室が静かになる。

冗談にしては、空気が重い。

でも本気にするには、意味がわからない。

「……どういう意味だよ、それ」

誰かが笑い飛ばすべき場面なのに、誰も笑わなかった。

彼女はその反応を見ていない。

ただ、そこに座っている“隣の存在”だけを見ている。

やがて、ゆっくりと椅子を引く音。

ガタッ。

その瞬間、決まってしまった。

この教室の“隣”は、ただの席じゃなくなる。

彼女が座ると同時に、視線がこちらを向いた。

まっすぐ。逃げ場のない目。

「ねえ」

「な、なに……?」

「今日からここ、私の場所ね」

断定だった。

許可じゃない。確認でもない。

ただの“宣言”。

その言葉を聞いた瞬間、なぜか胸の奥がざわついた。

(なんだよ、それ……)

普通じゃない。

でも、どこかで拒否できない気がした。

彼女はふっと目を細める。

そして、僕のほうを見て——

「隣って、いいよね」

そう言った。

その一言で、世界が少しだけ、ズレた気がした。

まだ誰も気づいていない。

この“隣”が、ただの距離じゃなくなることに。

そして彼女の中で、それが“選択”ではなく“所有”だということに。

――これは、隣から始まる物語。

でもきっと、ただの隣の話じゃ終わらない。

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