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プロローグ
「甘音」
私を呼ぶ声がする。
冷たいようで優しい、不思議な温度の声。
その声に導かれるように、振り向いた。
そこには、スーツをしっかりと着た、長身の女性がいる。
彼女を見ると、いつも安心する。
私は、少し目尻を下げた。
「やっと、ここまでたどり着いた」
彼女の声を聞いて、なぜか視界がぼやけた。
そうだ。やっと。
やっと、ここまで――。
彼女は、静かに窓に近づいた。
私も、彼女につられて下を見下ろした。
どこか無機質な、光を帯びたこの街を。
この街でなければ、きっとここまで来られなかっただろう。
私は今でも、あの頃を思い出す。
何もできなかった、あの頃を――。




