「バグ」
目覚めるとそこは、一面真っ白だ。
おかしなことに、どうやって此処に来たのか思い出せない。
「どこだ此処は…」
─ もー。だから言ったじゃないの!
「クロノス…?此処は何処だ?」
─ はー。自分で来たんじゃないの!記憶のサンクチュアリよ!
「記憶の…サンクチュアリ」
その言葉で、僕の記憶の点と点が線になった。
「そうだ!記憶のサンクチュアリだ!」
─ 思い出した?
「うん。思い出した。前に此処に来た時に違和感だったんだ。」
─ 違和感?
「ほら、此処、ドアがないだろ?」
─ そりゃね、君のような人が来て、初めて私がドアを出せるようになる仕組みの場所だし。
「今、ドアは出せるのか?」
─ …ダメね。出せないわ。一度しか出せないのかしら?
「てことは、もう此処から出られない?」
─ 多分…ね。どこまで行っても真っ白な場所だから。入り口は外からだし…。出口は1つ。そしてその出口も出せないし。
「なら、これならどう?」
「リミット・…」
─ ちょちょちょちょ!何する気よ!此処を破壊するつもり!?その前に自分の腕見てみなさいよ!
僕は腕を見る。その腕に浮かぶ数字が高速で動いてる。全部の数字がだ。restは1のまま。
「なんだこれ?」
─ そもそもタイム・ハッカーが此処にいるのがおかしいって事。わかる?今この状況が既にイレギュラーだって事。
「イレギュラーねぇ…」
思えば、此処に来てからずっとイレギュラーだ。今更何がイレギュラーで何が当たり前とか、わかんないでしょ。
「どっちにしろ、これで出れるかどうか、やってみないとわからないでしょ?それに…このままじゃお前も解放されないでしょ?」
─ そりゃそうだけど…こんなのが最後でいいわけ?
「構わない。」
僕はひとつの賭けに出ていた。その賭けに勝つか、負けるかわからないけど。どっちにしろ、T.Hを使って、戻ったら死ぬんだ。
「お前の言葉を信じているよ」
その言葉が僕の口から零れ落ちた時、気付いた。
─ え?
「僕が最初に此処に来た時に言ったよな?最後には、全て記憶を失って此処にきて、そして全てを知るって。」
─ うん。
「もう、思い出してる。全部」
─ 取り戻した…の?
「どうやらそうらしい。両親の事も昔の彼女の事も思い出した。」
─ 私がクロノスになった時と同じだね。
「僕はまだ、クロノスじゃない。だって、お前が消えていないし、体もちゃんとある。」
─ そうね。私がクロノスになった時には、
もう…意識だけだったもの。
「僕にはまだ、遣り残したことがあるよ。」
「今からそれを取り戻す。」
─ 好きにすればいいわ。
どうなるかわからないけど、怖くなかった。
大事な記憶を失って、生きているより、全て思い出して死ぬ方がいいと思った。これが最後になるかもしれない。
これで死ぬの…かもしれない。
ねぇ…僕が死んだら君に会えるかな?
あの日、引き止めなかったのを、ずっと後悔してたんだ。あの日僕が引き止めてたら、君は死なずに済んだのかな?
交錯する思いを胸に、零れた言葉。
「リミット・ダウン」
白い世界が崩れていく。
僕の体も消えていく。
これが…僕の終わりなのか?
そしたら、君に会えるのか?
ねぇ…。
そして、僕の世界が闇に飲まれた。
光は…来なかった。




