「極光」
一面真っ白だ…
何だっけ…
何処だっけ…
あぁそうか…。僕はアイツ等と朝まで飲んでて…それで酔い潰れて…。そうか、それで此処に…。でも此処は何処だ…?
横たわる体を起こし、まだぼんやりとした頭で辺りを見渡す。
真っ白なんだ。
何もない。
壁もない。
「夢…?」
夢にしては、体の感触はリアルだ。つねってみる。
─ 痛い。
「え?」
─ 痛いんですけど!
「ええぇー!?」
おいまじか、僕の腕が喋ってる。そうかついに「世界初!喋れる腕!」やっと出たか!これ待ちに待ってたんだよぉ~~! そうそう、これがあると腕が喋るんだよね~。
腕が喋る?
「なんですとーーーー!!」
まてまて、腕は喋らない。喋らない。喋るわけがないし、そもそも僕の腕はそんな喋るような腕じゃないですし。何かの間違いですし。
─ 混乱してるとこ申し訳ないんだけど。
─ あなたドア開けたよね?
「ドア?そりゃドアぐらい開けるでしょ。ていうかみんな開けるでしょ。生きて普通に生活してたら何千何万回色んなドア開けるでしょ!」
─ 違うよ。あの新宿のドアだよ。
「しんずくのどあ…?」
何を言ってるのかさっぱりわからない。そして腕が喋ってる腕が喋ってる僕の腕が喋ってる。大体、ドアって何?新宿のドアって何だし。
─ そっか。思い出せないか。
思い出すも何も、まず、此処がどこかわからない。どうしてどうやって此処に来たのかも覚えてない。そもそも自分で来たのかどうかすら定かでない。こんな何もない真っ白な場所、自分でこれる訳もない。
そうか。これは誘拐だ。きっとこの腕の中に小人がいて、その小人が僕を誘拐したんだ。
何の為にーーーー!!
ていうか、僕、別にお金持ちじゃないですし。上京半年、中野の1K一人暮らし、彼女いませんし、逆さにして叩いても埃は出れど身代金だせるような感じでもないですし。
ていうか、まず小人がいるわけねーーー。
落ち着け。落ち着け。
こういう時こそ深呼吸だ。
僕は大きく呼吸する。落ち着け心臓。ちゃんと息が入ってくる。鼓動も感じる。
これは夢じゃない。
冷静に、話してみよう。
「僕はどうやってここに…?」
─ だから君が自分でドアを開けたんだよ。
「自分…で?…どこの?」
─ 新宿の公衆トイレのドア。
「新宿の公衆トイレ…」
─ 覚えてないの?
「覚えてない…」
─ 私を呼んだのよ。
「君は誰…」
─ 私はクロノス。時間の神。
「時間の…神…?」
あーーーー何かもう僕の腕が変だよ!腕が神とか言っちゃってるし、ていうか、何で神が腕の中にいるんだよ!
─ 君が私を呼んだんだよ。だから。
「だから…?」
─ 君に能力をあげた。
「能力?」
─ タイム・ハッキング。
「たいむはっきんぐ?」
─ 君はこれから少しだけ時間を自由に使えるの。時を移動する事もできる。
なんとまぁ。神の次は時間を自由に…ねぇ。
何かもう、全部ぶっ飛びすぎてて理解できない。大体時間を自由に使えるってことは、時間止めたりしてURYYYYYYとかやっちゃうわけでしょ?それに健全な男子なら、ふしだらな発想で思いも寄らぬ「悦」に浸る事もできるわけでしょ。バカバカしい。あるわけがない。
─ だけどね、聞いて欲しいの。
─ 君は「時間」を使う事で、自分が大事に抱えている「記憶」を失っていくの。だから、「時間」を使うのは、何かを取り戻したい時だけにした方がいいと思うんだ。そして最後は…
「最後は…?」
─ この場所に帰ってくる。
「ここは何処なの?」
─ 記憶のサンクチュアリ。君は最後には、
全ての記憶を失って、ここに戻ってくる。
此処は寂しいよ。だってずっとひとりだもの。
私は此処で、君が呼ぶまでずっとひとりだった。だから、此処の寂しさは誰より知ってる。
「そしてどうなる?」
─ そして、全てを知るの。そして、君が
次の「クロノス」になるの。
─ 使える時間は限られているわ。だから、よく考えて使う事ね。悔いのないように…
「てか、黙って聞いてりゃ、散々言ってくれるけど僕に選択権はないわけ?そもそもその話、信れる程あたま柔らかくないんだけど。つうかぶっ飛びすぎ。どうやって此処に来たかもわかんないと思って馬鹿にしてんの?」
─ 選択権は…ない。
─ ドアを開けた時に既に君は「選択」したんだ。それじゃ、行こう。
腕がそう言うと、目の前にドアが現れた。
記憶を失ってくって?冗談じゃない!
そしてドアと僕は極光に包まれた。




