30. 記憶の欠片
あと一話で『続きは生徒会で!』も終わる。
今後の打合せのために事務所にいるプロデューサーのもとへ向かっていたとき、懐かしの少佐から声を掛けられた。
「サラちゃん!」
「マクネアさん」
笑顔のアレックスさんに思わず私も笑みがこぼれた。
「お久しぶりです。どうされたんですか?」
「久しぶりだね。サラちゃんにお礼を言っておこうと思って」
「お礼?」
私、アレックスさんに何かしちゃっただろうか。
「クリスの件、ありがとう。練習に付き合ってくれて」
「えっ!私、大したことはしていないですよ。クリスさんの実力です」
「そうかな?クリス一人ではここまでの上達はできなかったと思うな。監督にキツいこと言われたとき、サラちゃんがそばにいてくれたから折れずに済んだって、クリスは言っていたよ」
「そ、そうですか」
意外だ。人に弱味を見せるのが苦手なクリスがそんなこと言っていたなんて。……いや、この発言、アイドルとしてマズくないか?スターライト関係者から裏で仕事干されたりとかしないよね?
「アイドルってさ、人気商売だがら、いつまでもこのままってわけにはいかないんだよね」
アレックスさんが静かに切り出した。
「今はいいかもしれないけれど、不安定な部分って大きいからこれから先はどうなるかわからない。でも、アイドルってだけじゃなく、他にもできること、秀でているものがあったら色んな方向で、色んな立場で活躍できるでしょう?」
「そうですね」
これはわかるかもしれない。声優だって、今は声優一本って人は少ない。声優仲間にもダンスや歌ができてライブ活動にも精を出している人もいるし、雑誌でモデルとして活躍している人もいる。私はどっちもプロデューサーからNGがでているから(なんでかは察してほしい)、学校の成績だけは良いようにして、どんな道にも進める準備だけはしている。
「たとえ、スターライトが解散しても、メンバーにはそこで終わりにしてほしくないんだよね。アイドルじゃなくても、別の分野で活躍してほしいと思っている。そのために、番組で無茶ぶりさせてるんだけどね」
「無人島で生活とかもですか」
「そう!いい経験になるでしょ。あと精神力を強くしたくてね。一番メンタル弱い子にあたってよかったなー」
「…………(あれ、意外と行き当たりばったり?)」
前世から学んでいる私は何か言うのをやめた。
「クリスはあの演技が評判でね。別の作品にも出てほしいってオファーもでてるんだよ」
「そうですか、それはよかった」
クリスはステップアップできたようだ。
「きっかけは私だったかもしれません。でも、初めての仕事で監督に厳しいことを言われて、もがいて、苦しんで──、今の評価をいただけたのなら、それはクリスさんの実力です」
いつも飄々と軽口叩いて、だけど本当は誰よりも努力家で負けず嫌いで。魔法なしでの剣の腕は隊では私の次に強かった。私の知らないところで、クリスは文字通り血のにじむような努力をしてきたんだろう。それはきっと、今も変わらない。
「クリスさんの力になれたのなら、私は嬉しいです」
「サラちゃん──」
目を伏せて笑う。心の中ではどうだ、私の元部下はすごいだろう!だ。不意に暖かい手が私の頭の上に乗った。
「────あ、ごめんね!なんか、感極まっちゃって!これ、セクハラになるかな?でも、本当に俺もうれしくてさ、なんて言っていったらわかんないんだけど!」
「アレックスさん」
あぁ、この人は記憶はないんだ。でも、きっと魂が憶えているんだ──。
「あーーーーーーーーーー!!アレックスがロリコンしてる!!!!」
「ロリコンしてる????!」
感動的シーンを見事にぶち壊したのは、まごうことなきエリクさんだった。ロリコンしてるって何?
「サラちゃんにちょっかい出したらダメだよ!ローラントに怒られちゃうよ!!4の字固めされちゃうからね!」
「それはエリクさんだけだと思います……」
「サラちゃん、ローラントが遅いって怒ってたよ!今すぐダッシュしたほうがいいよ!!」
「うわぁぁぁ!すみません、マクネアさん!!私いきます!エリクさん、ありがとうございます!」
この後、ローラントプロデューサーに普通に頭を握られた。
「ルカ=アルバトフ!貴様は会長にふさわしくない!!」
生徒会にも認められ、徐々にメンバーとの仲も深まっていった頃。穏やかな日々は一定数いた反会長派が反乱の狼煙をあげたことで幕を閉じた。
反会長派によって陥れられるルカ。監視され身動きが取れない他の生徒会メンバー。だが、一般生徒など恐るるに足らずと見逃された彼女が会長の為に動き出す──。
「会長は、前のオブジェの件で認めてくれた。この学園で居場所のなかった私に役割をくれた。今度は、私が会長を助ける番だわ」




