プロローグ
本日10/11
夜までにあと3話載せていきますので、ブックマークを押して待っていただけると幸いです。
その日、世界に二つの命が生まれた。
______________
ランワルズ大陸の片隅にある、マーハラルマ教会。
その奥の一室では、一人のシスターが額に汗を浮かべながら、産声を待っていた。
「もう少しです....!どうか、どうか、頑張ってください......!」
部屋には、シスターと神父、そして出産を迎える女性。
女性の苦しげな声が響く。神父は少し離れた場所で祈りを捧げ、シスターは懸命に彼女を支えていた。
やがて_____
「.......生まれました!」
シスターの腕の中に、小さな赤ん坊が抱き上げられる。
_________その瞬間だった。
赤ん坊の身体が、眩い光を放ち始めた。
「な、なんという……」
シスターが息を呑む。
光は次第に強さを増し、部屋の隅々まで白く染め上げていく。
そして、赤ん坊はシスターの腕からゆっくりと離れた。
小さな身体が、宙へと浮かび上がる。
「神父様!」
呼びかけに応じ、神父が顔を上げた。
その目に映った光景に、彼は言葉を失う。
赤ん坊は目を開いた。
そして____
「おぎゃああああ!」
大きな産声を上げた。
その声が響いた瞬間。
ランワルズ大陸全土を、激しい揺れが襲った。
大地が軋み、山々が震え、建物の壁に亀裂が走る。
人々は突然の地震に悲鳴を上げ、家を飛び出した。
そして、大陸のある一角では、地面そのものが盛り上がり始めていた。
大地を突き破るように現れたのは、あまりにも巨大な建造物。
周囲の土地を巻き込み、小国の一部を飲み込みながら、天へと伸びていく。
その姿は、まるで世界に突き立てられた一本の杭のようだった。
後に人々から『塔』と呼ばれることになるそれは、この日、突如として世界に姿を現した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同じ頃。
大陸の片隅にある、小さな村。
その村外れには、古びた建物が一軒あった。
壁はところどころ剥がれ、窓枠も歪んでいる。家具は少なく、部屋の隅には使い古された荷物がまとめられていた。
そこには、二人の男女が暮らしていた。
誰にも祝福されず、誰にも知られず。
ただ二人で生きていくことを選んだ、男女だった。
その日、二人の間に子供が生まれようとしていた。
「もう少しだ........頑張れ!」
男は女性の手を握り、懸命に声をかける。
女性は苦痛に顔を歪めながらも、小さく頷いた。
外では、大地震が続いていた。
建物が揺れ、天井から埃が舞い落ちる。
それでも男は、目の前の女性から目を離さなかった。
「...............生まれた!」
小さな命がまたひとつ誕生した。
男は生まれたばかりの子供を受け取った。
だが、その子は泣かなかった。
ただ静かに、目を閉じている。
男が不安そうに顔を覗き込んだ、その時。
子供の瞼が、ゆっくりと開いた。
そこにあったのは、深く澄んだ蒼い瞳。
まるで、長い眠りから目覚めたかのような眼差しだった。
次の瞬間。
蒼い光が部屋を満たした。
それは一瞬の出来事だった。
大陸を揺らし続けていた地震が、ぴたりと止まった。
「.......な、なんだ?」
男は呆然と子供を見つめる。
しかし、その直後だった。
「■■! 気をしっかりもて!」
女性の容態が急変していた。
呼吸が短く、深くなる。
凄い汗だ。
男は慌てて女性のもとへ駆け寄った。
「しっかりしてくれ! 今すぐ、水を持ってくる!!」
男は子供をそっと寝かせ、部屋を飛び出した。
外には、まだ地震の余韻が残っていた。
男は近くの井戸へ走り、水を汲む。
そして急いで戻ると、女性の傍らに膝をついた。
「これを……!」
しかし、女性の呼吸はさらに弱くなっていた。
その時........。
それまで静かだった赤ん坊が、突然、大きな声で泣き始めた。
まるで痛みに耐えるように、全身を真っ赤にして泣き叫ぶ。
蒼い瞳の左目から、一筋の血が流れ落ちた。
部屋を満たしていた蒼い光が、ゆっくりと消えていく。
女性の呼吸が止まった。
「……■■?」
男は女性の顔を覗き込む。
返事はない。
何度呼びかけても、彼女が目を開くことはなかった。
男は、女性の亡骸の前で崩れ落ちた。
声を押し殺すように泣きながら。どれぐらいの時間泣いてたろうか。
やがて赤ん坊を抱き上げる。
赤ん坊は泣き疲れたのか、静かになっていた。
男は白い袖で、赤ん坊の左目から流れた血をそっと拭う。
その小さな身体を胸に抱き寄せた。
「……大丈夫だ」
男は震える声で呟く。
「必ず守りきる。何があっても……」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく、静かな部屋に消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、教会では。
宙に浮かんでいた赤ん坊の身体から、少しずつ光が失われていた。
そして、完全に光が消えた瞬間。
赤ん坊は、重力に従って落下した。
「危ない!」
シスターが慌てて駆け寄り、間一髪でその身体を抱きとめる。
「だ、大丈夫ですか……?」
腕の中の赤ん坊は、ぐったりとしていた。
首も座らない小さな身体は、まるで力が抜けきっているようだった。
「まさか.......」
シスターの顔から血の気が引く。
死んでしまったのではないか_____。
そんな考えが頭をよぎった、その時。
赤ん坊が、ゆっくりと頭を持ち上げた。
赤ん坊の口元が、ゆっくりと吊り上がった。
「ひっ……!」
シスターが息を呑む。
だが、赤ん坊はすぐに力を失ったように、再びぐったりとシスターの腕に身を預けた。
その様子を、神父は静かに見つめていた。
やがて神父は、シスターから赤ん坊を受け取る。
小さな身体を両腕で抱きしめ、教会の扉へと向かった。
外には、地震に驚いた人々が集まり始めていた。
空を見上げる者。崩れた建物を見つめる者。何が起きたのか分からず、互いに声をかけ合う者。
神父が扉を開くと、人々の視線が一斉に集まった。
腕の中には、光を失った小さな赤ん坊。
神父はその子を高く掲げることなく、胸元に抱いたまま、人々を見渡した。
そして、厳かに告げる。
「________神の子が生まれた」
その声は、ざわめく人々の間に静かに広がっていった。
その日、世界に二つの命が生まれた。
一つは、神の子として。
もう一つは、蒼の瞳を持つ子として。
その二つの誕生が、何を意味するのか。
この時、知る者は誰もいなかった。
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