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蒼の瞳は、すべてを知っている。  作者: 消す者(イレイザー)
第一章【塔へ】

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1/15

プロローグ

本日10/11

夜までにあと3話載せていきますので、ブックマークを押して待っていただけると幸いです。

 その日、世界に二つの命が生まれた。


 ______________


 ランワルズ大陸の片隅にある、マーハラルマ教会。

 その奥の一室では、一人のシスターが額に汗を浮かべながら、産声を待っていた。


「もう少しです....!どうか、どうか、頑張ってください......!」


 部屋には、シスターと神父、そして出産を迎える女性。

 女性の苦しげな声が響く。神父は少し離れた場所で祈りを捧げ、シスターは懸命に彼女を支えていた。


 やがて_____


「.......生まれました!」


 シスターの腕の中に、小さな赤ん坊が抱き上げられる。


 _________その瞬間だった。


 赤ん坊の身体が、眩い光を放ち始めた。


「な、なんという……」


 シスターが息を呑む。


 光は次第に強さを増し、部屋の隅々まで白く染め上げていく。

 そして、赤ん坊はシスターの腕からゆっくりと離れた。


 小さな身体が、宙へと浮かび上がる。


「神父様!」


 呼びかけに応じ、神父が顔を上げた。

 その目に映った光景に、彼は言葉を失う。


 赤ん坊は目を開いた。


 そして____


「おぎゃああああ!」


 大きな産声を上げた。


 その声が響いた瞬間。

 ランワルズ大陸全土を、激しい揺れが襲った。


 大地が軋み、山々が震え、建物の壁に亀裂が走る。

 人々は突然の地震に悲鳴を上げ、家を飛び出した。


 そして、大陸のある一角では、地面そのものが盛り上がり始めていた。

 大地を突き破るように現れたのは、あまりにも巨大な建造物。


 周囲の土地を巻き込み、小国の一部を飲み込みながら、天へと伸びていく。

 その姿は、まるで世界に突き立てられた一本の杭のようだった。


 後に人々から『塔(・)』と呼ばれることになるそれは、この日、突如として世界に姿を現した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 同じ頃。


 大陸の片隅にある、小さな村。


 その村外れには、古びた建物が一軒あった。

 壁はところどころ剥がれ、窓枠も歪んでいる。家具は少なく、部屋の隅には使い古された荷物がまとめられていた。


 そこには、二人の男女が暮らしていた。


 誰にも祝福されず、誰にも知られず。

 ただ二人で生きていくことを選んだ、男女だった。


 その日、二人の間に子供が生まれようとしていた。


「もう少しだ........頑張れ!」


 男は女性の手を握り、懸命に声をかける。

 女性は苦痛に顔を歪めながらも、小さく頷いた。


 外では、大地震が続いていた。

 建物が揺れ、天井から埃が舞い落ちる。

 それでも男は、目の前の女性から目を離さなかった。






「...............生まれた!」


 小さな命がまたひとつ誕生した。


 男は生まれたばかりの子供を受け取った。


 だが、その子は泣かなかった。

 ただ静かに、目を閉じている。


 男が不安そうに顔を覗き込んだ、その時。


 子供の瞼が、ゆっくりと開いた。

 そこにあったのは、深く澄んだ蒼い瞳。


 まるで、長い眠りから目覚めたかのような眼差しだった。


 次の瞬間。


 蒼い光が部屋を満たした。

 それは一瞬の出来事だった。




 大陸を揺らし続けていた地震が、ぴたりと止まった。


「.......な、なんだ?」


 男は呆然と子供を見つめる。


 しかし、その直後だった。


「■■! 気をしっかりもて!」


 女性の容態が急変していた。

 呼吸が短く、深くなる。


 凄い汗だ。


 男は慌てて女性のもとへ駆け寄った。


「しっかりしてくれ! 今すぐ、水を持ってくる!!」


 男は子供をそっと寝かせ、部屋を飛び出した。


 外には、まだ地震の余韻が残っていた。

 男は近くの井戸へ走り、水を汲む。


 そして急いで戻ると、女性の傍らに膝をついた。


「これを……!」


 しかし、女性の呼吸はさらに弱くなっていた。


 その時........。

 それまで静かだった赤ん坊が、突然、大きな声で泣き始めた。


 まるで痛みに耐えるように、全身を真っ赤にして泣き叫ぶ。


 蒼い瞳の左目から、一筋の血が流れ落ちた。

 部屋を満たしていた蒼い光が、ゆっくりと消えていく。


 女性の呼吸が止まった。


「……■■?」


 男は女性の顔を覗き込む。


 返事はない。

 何度呼びかけても、彼女が目を開くことはなかった。


 男は、女性の亡骸の前で崩れ落ちた。

 声を押し殺すように泣きながら。どれぐらいの時間泣いてたろうか。


 やがて赤ん坊を抱き上げる。


 赤ん坊は泣き疲れたのか、静かになっていた。


 男は白い袖で、赤ん坊の左目から流れた血をそっと拭う。

 その小さな身体を胸に抱き寄せた。


「……大丈夫だ」


 男は震える声で呟く。


「必ず守りきる。何があっても……」


 その言葉は、誰に聞かせるでもなく、静かな部屋に消えていった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 一方、教会では。


 宙に浮かんでいた赤ん坊の身体から、少しずつ光が失われていた。

 そして、完全に光が消えた瞬間。


 赤ん坊は、重力に従って落下した。


「危ない!」


 シスターが慌てて駆け寄り、間一髪でその身体を抱きとめる。


「だ、大丈夫ですか……?」


 腕の中の赤ん坊は、ぐったりとしていた。


 首も座らない小さな身体は、まるで力が抜けきっているようだった。


「まさか.......」


 シスターの顔から血の気が引く。


 死んでしまったのではないか_____。


 そんな考えが頭をよぎった、その時。

 赤ん坊が、ゆっくりと頭を持ち上げた。



 赤ん坊の口元が、ゆっくりと吊り上がった。


「ひっ……!」


 シスターが息を呑む。


 だが、赤ん坊はすぐに力を失ったように、再びぐったりとシスターの腕に身を預けた。


 その様子を、神父は静かに見つめていた。

 やがて神父は、シスターから赤ん坊を受け取る。


 小さな身体を両腕で抱きしめ、教会の扉へと向かった。


 外には、地震に驚いた人々が集まり始めていた。


 空を見上げる者。崩れた建物を見つめる者。何が起きたのか分からず、互いに声をかけ合う者。


 神父が扉を開くと、人々の視線が一斉に集まった。


 腕の中には、光を失った小さな赤ん坊。


 神父はその子を高く掲げることなく、胸元に抱いたまま、人々を見渡した。


 そして、厳かに告げる。


「________神の子が生まれた」


 その声は、ざわめく人々の間に静かに広がっていった。


 その日、世界に二つの命が生まれた。


 一つは、神の子として。


 もう一つは、蒼の瞳を持つ子として。


 その二つの誕生が、何を意味するのか。


 この時、知る者は誰もいなかった。

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