第1話:灰色の目覚め
目を覚ましたとき,空は灰色だった.
少女は冷たい石の上に横たわっていた.
どこかの廃墟のようで,天井は崩れ,風がそのまま吹き込んでくる.
自分の名前が分からなかった.
それだけではない.
どこから来たのか,何をしていたのか,何一つ思い出せない.
ただ一つだけ,はっきりしていることがあった.
自分は「魔法使い」だということ.
それは知識としてではなく,感覚として分かった.
手をかざすと,指先に淡い光が集まる.
灰色の光だった.
「……変なの」
少女は小さくつぶやいた.
魔法は本来,色を持つ.
炎は赤,癒しは緑,雷は青.
だが,この光には何の色もなかった.
ただ,空と同じ灰色.
そのとき,足元で何かがきらりと光った.
小さな結晶だった.
まるで星のかけらのように,淡く輝いている.
少女がそれに触れた瞬間,頭の奥に映像が流れ込んできた.
笑っている子ども.
誰かの手を握る感触.
夕焼けの帰り道.
次の瞬間,すべて消えた.
「……今の,なに?」
結晶は,触れた途端に砕けて,光の粒となって消えた.
代わりに,胸の奥に温かいものが残る.
それは,誰かの「記憶」だった.
少女はゆっくりと立ち上がった.
理由は分からない.
だが,確信だけがあった.
この世界には,こうした「記憶の結晶」が存在する.
そして,それを集めなければならない.
「……探さないと」
何を,とは言えなかった.
ただ,胸の奥がそう叫んでいた.
廃墟の外へ出ると,遠くに街が見えた.
灰色の空の下で,その街だけが,かすかに光っている.
まるで,星のように.
少女はゆっくりと歩き出した.
その先で,自分の過去と出会うとも知らずに.




