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ブラックのちホワイト、時々ルビー 〜ど田舎に転生した私が、次期魔王様に見初められるお話〜  作者: 山百合 渚沙
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プロローグ



「さぁ、モニカ。ベッドに入って。《リビアングラス帝国誕生物語》の始まりよ」



「うんっ! わかった!」



「これは私たちが、いいえ、リビアングラス帝国が誕生する、ずっとずっと前のお話──」




 この世界には、周りを海に囲まれた一つの大きな大陸が存在する。



 ―この広大な土地を利用して帝国という一つの大きな集団を作り、長い年月を経て文明を発展させてきた私たち人族と呼ばれるものたち。



 しかし、この大陸には人族だけでなく、もう一つ別の種族が存在した。




 ──それは、人族と同じような見た目をしながらも頭には鋭く尖ったツノ、そして背中には大きな翼を持った魔族の存在。




 最初こそお互いに干渉せず、友好的な関係性を築けていたが、人族が武力という鎧を持つにつれそれは徐々に崩れていった。



 人族にない強大な魔力を扱う魔族に脅威を感じ、いつか支配されてしまうかもしれない、そんな一方的な被害妄想に苛まれ、人族は突然攻撃を仕掛けたのだった。




 そうして人族が始めた戦争は、当然魔法という非科学的な力に、人力の部隊が勝てるわけもなく、ひたすら財源を消費するだけの愚かな歴史の一つに、なるはずだった。あのリビアングラス様が、現れるまでは。




 今でも語り継がれているリビアングラス様は人でありながら魔力を持った、唯一無二の存在。




 最悪の状況を打破するように戦場に降り立った女神様はジャンヌダルクのように戦地の兵士を導いた、わけではなく、自分の強大な魔力を盾に二つの種族を対話まで導いた。



 血気盛んな人族の皇帝と違って、何と賢いお方だろうか。




 この後の詳しいことはこの絵本では明記されていないが、昨今の人族と魔族が合同で領地を納めるという、平和で素敵な関係性を築いたリビアングラス帝国の完成だ。めでたしめでたし、と行きたいところだけど。




「でも、モニカ。今でも人族をよく思っていない魔族は多いの」



「うん、知ってるよ! 真っ黒で悪魔みたいなんだよね!」



「そうよ。だから、もしどこかで出逢ってもすぐ逃げないとダメよ」



「わかった!」




 あぁ、心底くだらない。自分で言っておきながら、反吐が出そうだった。



 同じ領地を収めるという名ばかりの平和の中で、平民たちは相変わらず魔族を忌み嫌っている。



 真っ黒な悪魔。その特徴的な闇を纏った容姿と、血のように真っ赤な瞳を拒絶し続けている。



 体のいい言い訳を次々と見つけては対話を避け、約五百年もの間、膠着状態を続けている。




(どこの世界も、見た目だけで偏見とか差別とか。変わらないものだな……)




 そう、何を隠そう、私は前世の記憶を保持したまま今の世に生を享けた。所謂、異世界転生、というものらしい。



 前の世界では異世界転生ものの物語が流行りに流行っていたから、読書が趣味の私も例に漏れず夢中になって読んでいた。



 まさか本当に自分が体験することになるとは、思ってもみなかったが。




 だが、赤ん坊の時から前世の記憶を覚えていたわけではなかった。



 ひとえに人族といっても皆、さまざまな髪色と瞳を持っているのだが、私の父と母は咲き誇った向日葵のように輝く黄金色の髪と、澄んだ青空色をした瞳を持っていた。




 しかし、何故か私はこの世界では珍しい漆黒の黒髪と、ダークブラウンの瞳を持った娘だった。



 最初こそ魔族の捨て子だ、と噂するご近所さんの言葉が何を意味をするのか理解できなかったが、私が四歳になった頃、誕生した両親に瓜二つの妹の姿を見て、ようやくこれが異常なことに気づき始めた。



 鏡で自分の姿を覗くたび、消えかけた焚き火の炎が気まぐれに吹く風で蘇るように、僅かに灯る違和感。



 それから逃げるように、幸せな家族の姿を毎日追いかけていた時だった。






 私は六歳になってしばらくした頃、突然高熱を出し生死を彷徨うことになる。



 目を開けることさせ億劫で、暗闇の中、微かに聞こえる深刻そうな会話に耳を傾けることで精一杯だった。




(……あぁ、またこれか。また、私は何もできずに死ぬのか)




 ──また? またって、なんだ。一体、どういうこと。




 自分で発したはずなのに、違和感しか感じられない言葉。



 さぁっと意識が遠のくと同時に、頭が割れるように痛かった。ガツンと強く頭を殴られたような衝撃。



 この頭痛が元々の熱の影響によるものか、この言葉によるものか判断できるまでは頭が働かなかったけれど、これが引き金であったことは違いない。






 目がチカチカするほど真っ白な病室の真ん中で、横たわる小さな体。



 たくさんの機器に囲まれながら、そのすぐ側で厳しい状態です、と告げる医師の硬い声。



 その言葉に絶望したようにすすり泣く母。そしてその母を支え、何かを堪えるように医師と会話する父の姿。



 全てがデジャヴだ。本当に、また、だったのだ。






 今は真っ白な病室でも、先進的な機器にも囲まれていないものの、私は一度前世で同じような状況に陥り、人生の終焉を迎えた。



 そこで物語は終わったはずだったのに、今、異世界転生をしてまた同じ出来事を繰り返そうとしている。




 それにしても、こんなタイミングで思い出させるだなんて、相変わらずこっちの神様も意地悪なものだ。



 せめて今じゃなかったら、何かやりようがあっただろうに。



 前世の知識を使って村を発展させるとか、達観した物言いで天才児だと持て囃され、皇族の婚約者になるルートだとか。



 あぁ、確かこの世界には魔法が使える魔族がいるんだっけ。



 どうせなら、魔族に生まれ変わってモンスター倒しまくるのもいいな。モンスターなんているのか知らないけれど。




 暗闇に包まれた洞窟を手探りで歩くように、思考がふらふらと右へ左へと行き来する。



 情報過多で頭がどうにかなってしまいそうなのに、相変わらず体はまだ辛い。通りで考えがまとまらないわけだ。




 でも一つだけはっきりしたことがある。私の人生において、この運命から逃れることは不可能だと言うことだ。



 たとえ二つの人生を合計したって、成人すら迎えることはできないちっぽけな人生。



 まさしく輪廻転生とはこのことだ。私は毎度、幼くして病気で命を落とす。



 きっともう、これは変えようのない決定事項なのだ。




 ──でも、本当に諦めてしまっていいのか。




 私だって、好きでこんな人生選んだわけじゃない。楽しそうに学校に通う子達を一人、病室の窓から眺めるのは辛かった、苦しかった。



 それでも我儘一つ言わず、聞き分けのいい子を貫き通してきた。




 それなのに、結局この仕打ちか。やりたかったこと、したかったこと、何一つできなかった上に、生きることさえ許してくれないのか。



 こういう運命だと、宿命だと、全て飲み込んでしまえればどれだけ楽だろう。



 今までだってそうしてきたつもりだったのに、全ては消化しきれてなかったらしい。



 最後だとばかりに怒りに似た感情が溢れ出た。




 だったらもう、こんな馬鹿げた運命になんて従ってやるもんですか。


 

 なんでも好きなことして、楽しいことして、わがままいっぱい言って、いろんな世界を自分の目で見てやるんだ。



 だから、こんなところで死んでたまるか。




 私は、まだ、まだ────




「……ぃき……、て、やる……!」




 手を握り締めながら今できる精一杯の叫びを唱えた瞬間、ずっと深い暗闇だった目の前が突然真っ白に染まる。



 何が起きているのか何も分からなかったけれど、これが天国とかいうやつなら納得だ。



 今まで感じたことのない体の軽さと、お日様のような暖かさに包まれる。



 どこまでも広い草原に寝転がっているようで、ひどく心地よかった。



 だけど、やっぱり体は思うようには動いてはくれなくて。



 私は襲ってくる睡魔のようなものに抗うことなく、意識に奥深くにまで潜っていった。




 それでいい。




 夢と現実の狭間で、微かにそう声が聞こえた気がした。














「……カ、……ニカ、モニカ……!」




 その声につられて顔を上げると、バチンッとこちらを覗き込む碧眼と目があった。



 その瞳が酷く不安げに揺れることに気がついて、ようやくこちら側に意識を戻した。




「モニカ、どこか調子が悪いの?」



「ううん! ちょっと眠たくなってきただけ!」



「そう……。わかったわ、なら今日はここまで! ゆっくりお休み」



「うん! おやすみなさい、お母さん」



「はい、おやすみなさい。モニカ」




 アンティーク調の表紙を優しく閉じ、私の頬に軽くチュッとキスをしてから、母は部屋から出て行った。



 お母さんは一緒に寝てくれないの、なんて子どもじみたわがままはもちろん言うわけもなく。



 私は大人しく、布団に潜り込んだ。






 あの高熱事件の結末を簡単に説明するとするならば、私は翌朝、気持ちよく目を覚ました。



 そう、本当に何事もなかったかのように、ケロッとした顔をして目覚めた。



 だけど涙を浮かべた父と大粒の涙を溢す母にきつく抱きしめられ、今回ばかりは子どものように泣いた。



 奇跡だと医者は驚いていたけれど、本当にその通りだと思う。



 正直私も、もうダメだと思っていた。なんならヤケクソになっていた。



 だからこうして、平穏に日々を過ごせていることは本当に奇跡だ。




 相変わらず熱を出しがちでベッドと友達の生活は変わらないけれど、幸い、私が生まれたこの村は皇帝が住んでいる煌びやかな城下町、でもなければ、貿易が盛んな港町でもない。



 広い大陸の端っこの方、広大な領地を持った酪農民たちが過ごす自然豊かな村だ。



 とても時間の流れが穏やかで、そして何より空気がいい。病気療養には打って付けだ。




 有難いことにこんなど田舎なら主人公級の皇子や、ましてや魔族とやらと関わることも無さそうだし、異世界にありそうな派閥争いに巻き込まれることも皆無に近い。



 前世の知識をフル活用して生計を立て、端っこの方で自由気ままに普通の異世界ライフを満喫してみせる。












 ──そう、思っていた。望んでいた、はずなのに。




 何故か目の前には、絵本の中でしか見たことのない豪華絢爛な馬車。



 焦らすようにゆっくりと開かれた扉の中から現れたのは、見惚れるほど美しい銀髪と、ルビーを閉じ込めたような瞳をもった皇子様。




 彼は優雅に、それでいて尚、威厳を携えながら私の目の前に降り立った。




「モニカ・ティレット。俺と、一緒に来い」




 ニヤリと挑発げに微笑んだこの人は、ただの皇子様ではない。皇子は皇子でも立派なツノと翼を持った、魔族の皇子様。



 この人と出会いが、私の運命を変えることになるなんて、この時の私は知る由もなかった。









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