1408 星暦559年 赤の月 17日 消火用魔具(10)
「こんばんは。
ちょっと参考に聞きたいんですけど、裏のギルドでは火をつけるような手法って推奨されてないですよね?」
何か所か酒場を回り、長が居る場所を見つけた俺はそっと忍び込んで長にお土産のワインの瓶を差し出しながら尋ねた。
「久しぶりだな。
火をつけるのは色々と想定外な被害が出かねないから、基本的に無能が選ぶ手段だ。
極まれに別の人間の死体を身代わりに使って死んだ事にして姿を消す手伝いを依頼された連中が顔を焼くこともあるが、そういう時も家全部を焼くのではなく、部屋だけを燃やすようにそれなりに注意していると聞く」
俺が不意に現れても特に驚いた様子もなく、ワインの瓶を受け取りながら長が応じた。
「ですよね~。
今度ちょっと火事の警報器になる魔具を作ろうと思ってて。
ちなみにそういう部屋だけを燃やす場合って、どうやって家全部に燃えないようにしているのか、分かります?
一応追加費用を払ったら防火機能も付けようと思っているんで」
身代わりの死体を提供して姿を消すのを手伝う依頼なんて受けている連中がいるんだ??
多分、暗殺ギルドなんだろうけど。
死体をどこから入手しているのか、あまり聞きたくないな。
まあ、喧嘩や知っちゃいけないことに首を突っ込んで野垂れ死ぬ人間は下町でしょっちゅういるから、時間を掛ければそれなりに注文に合った特徴の死体が入手できるだろうが、そういうのが都合のいいタイミングで出てくるとは限らないからなぁ。
適当なのを集めて保管しているのか、無かったら作っているのか、ちょっと気になるところだ。
まあ、これも知らない方が良い知識なんだろうが。
「カーテンに燃え移らないように部屋の中の可燃物の配置を気を付けておいて、後は適当に多めに煙が出るようにして屋敷の中の使用人なり近所の人間なりが気付くようにしているらしいな。
使用人の能力が微妙過ぎる場合は、中に適当に人を紛れ込ませて火事だと騒がせるらしいが」
ワインの瓶を開けながら長が言った。
なるほど。
カーテンに燃え移るのが一番だめなのか。
火って下から上に燃え移りやすいもんな。
床の絨毯や床板はそこまで致命的に着火しやすくはないのか?
だとしたら、美術品の部屋はカーテンは無しにして、夜は鎧戸を閉める形にしたらいいのかも。
少なくともチェルナ子爵の所は北向きだったから、日中はカーテンが無くても良いだろう。
美術品を飾るのに直射日光がさすような部屋を作る人間はどうしようもないが。
まあ、とは言え美術品以外の部屋ではカーテンは必須な場合が多いから、そう考えるとカーテン無しで火事が広まるのを防ごうというのは無理だな。
火事探知と冷却用の魔具を窓際に設置するのが良いのかも知れない。
「火事の探知を出来る安い道具が作れたら、職人街や下町で売りに出したら爆発的に売れるかも知れないぞ?
何といっても、炎は我々が盗みに入るよりもはるかに徹底的に財産を奪い去るからな。
それを防げるとなったら、それなりに皆で喜んで買うだろう。
もしくは町内会でまとめ買いして全部の家に設置を義務付けるとか」
長が指摘した。
確かに、大きな庭と消火用の人員や手段が色々とある貴族や豪商の住んでいる地域と違い、普通の下町や職人街では火事になったら周囲の家にも燃え広がりかねず、被害は大きい。
町内会相手に売り込むというのもありなんだろうなぁ。
思いっきり安いタイプを作るのに成功したらだが。
煙は諦めて、錫合金を使う単純な仕組みの物を薄利多売的に作るのはありかも。
アレクに相談してみよう。
もしかしたらシェフィート商会が人気取り的な感じに割引して町内会に売るなんて言うのもありかもだし。
下町は……それこそ裏ギルドに買わないか、話を付ける方が現実的かな?
少なくとも娼婦ギルドは花街周辺の建物に設置したがるだろう。
「参考になりました。
どうも~」
火災警報器は密集住宅地域では必須ですよね




