1387 星暦559年 藤の月 28日 魔力認証結界(15)
「まあ、これで誰かぐるぐる巻きになる状況が起きたら、魔力認証された人間だけでも先に確保して外に連れ出してから、ナイフを突きつけていた人間をしっかり追加の縄で縛り上げた上で捕縛結界を解除すればいいんじゃないか?
当主とナイフを持っていた人間を確保しておいたら、犯人一味が他の人間に交じっていたとしても動かないだろう、多分」
警備兵が集まってきた時点で盗みは諦めるだろうし、そもそもそんな事件が起きたら美術品を見せびらかすのも止めるんじゃないかね?
「そうだな。
取り敢えず、安全対策的にも現実的に出来るところまでやったって事で、もう一度部屋の入り口に取り付けて試してみて、ちゃんと想定通り動いたらもう良いとしよう」
アレクが頷きながら言った。
「そうだね~。
何だったら本格的な試作品を、この前絵を盗まれた僕の知り合いの家に設置してみる?
色々と美術品が多いから、これからも狙われるんじゃないかって心配しているから喜んで協力してくれると思う」
シャルロがのほほんと提案した。
どうやら先日美術品を盗まれたシャルロの知り合いとやらの屋敷には、まだまだ盗まれそうな物が残っているらしい。
まあ、小さくて売りやすい宝石と違って嵩張るし売り捌きにくい美術品は根こそぎ奪うよりも、誰かに依頼されて特定な一品を盗むってことの方が多いからな。
他にもいい美術品があるなら、そっちを狙う人間が出てくる可能性は十分にあるんだろう。
一度盗まれたという事は、そこの防犯の仕組みが大したもんじゃないってことの証明でもあるんだし。
「ちなみに、一部屋に美術品を集めているのか、その知り合い?
あちこちの部屋にあるんだったら……これを家中のあちこちに設置するのは大変だと思うぞ」
それこそ警備室への呼び鈴だって、どの部屋から鳴っているのかの把握が大変だろうし、魔力登録を各部屋でやるとなったら家族が増えたり減ったりするたびに面倒そうだ。
「あ~。
特にお気に入りでどうしてもロビーとか廊下に飾って見せびらかしたいの以外は、楽しむ為の大部屋に一つに纏めるように提案してみるね。
家族の肖像がとかだったら魔力登録までして守るほどの物じゃないだろうし」
シャルロが応じた。
「家族の肖像画ってそれなりに重要なんじゃないのか?」
売れっ子な肖像画家の依頼料って成人男性とその家族が1年間、それ程節約しないでも生きていけるぐらいの値段になると聞いたが。
「肖像画は家族との思い出の品として大切かも知れないけど、こっそり厳重に保護された部屋で楽しむような物じゃないからね~。
流石に数百年前の有名な画家に描かせたご先祖さまだったら話は別かもだけど。意外とそういうのって子孫はそれ程大切にしてないことが多いんだよ」
シャルロが笑いながら言った。
まあ、肖像画だからなぁ。
どこぞの貴族の偉そうな顔なんぞ、親族以外にとってはあまり興味はないか。
「取り敢えず、大部屋に美術品を纏めて、出来れば窓枠に格子でもつけて出入りを難しくして、壁際に登録制じゃない防御結界を設置してガチガチに絵や美術品を守ったうえで部屋に入るのに魔力認証が必要って形にした場合にどの程度魔力を食うのか、使い勝手がどんな感じか、実際に試せるのは良いな。
シャルロ、その知り合いに早いところその大部屋の準備を始めて、風除室を入り口に設置する様に伝えてくれ。
あと、その大部屋から呼び鈴が警備室に繋げるようにも念を押しておいてくれると助かる」
アレクが実験用に工房の扉の傍に付けた捕縛用結界を取り外しながら指示し始めた。
試験用の小屋をまた工房の扉の外に設置して、捕縛結界用の吊り棚を小屋に設置した上で床に散らばっている藁をそこの上に置かないとだな。
「いい感じに藁はバラバラになって落ちたな。
直ぐに切れそうな弱い紐で纏めるっていうので良いか?
それとも浅い箱にでも入れておく方が確実か……」
うっかり使用人がこれの使用後にしっかりとした紐で結んだりしたら困るからな。
「まあ、注意事項として大きく赤字で細くて簡単に切れる紐を使えと書いておけばいいだろう。
うっかり切れない紐を使っても、上手くいけば藁の塊が悪人の頭の上に落ちて来るかもだし、そうじゃなくても魔力での捕縛が暫くは続くんだから」
アレクがあっさり俺の心配を払いのけた。
大丈夫かなぁ。
確かに箱が頭の上に落ちて来るのは微妙ではあるが。
ずっと置いてある箱だったら埃がたっぷり溜まっていそうだし。
まあ、いいとするか。
実際に使ってみて何か問題があるか試せばいいんだし。
きっとシャルロの知り合いとかも、色々なケースを試してくれるだろう。
やっと完成……かな?




