1388 星暦559年 藤の月 30日 魔力認証結界(16)
「へぇぇ、今度の試作品は実際に貴族の屋敷に設置するの?」
休息日に毎度おなじみの宿屋で朝食を食べながらシェイラに最近の開発について話していたら、ちょっと驚いた顔をされた。
「おう。
やっぱ売り出す前に実際に使ってみないとダメだろ?
今回はシャルロの実家よりも、美術品を色々と持っていて、それを見せびらかすのが好きな親戚とやらの家の方が実証実験に良いだろうってことになってね」
今まで大抵の貴族用の魔具はシャルロの実家で試してきたんだが、シャルロの実家は趣味のいい美術品があちらこちらに置いてあるが、屋敷のあちこちに散らばっているから今回みたいな厳重に守る魔具を使うのには向いていないんだよな。
盗まれてもそれほど気にしなそうだし。
多分シャルロが気に入った作品だったら、盗もうとしたら適当にそこら辺を漂っている精霊が邪魔するんじゃないかという気はするが。
究極の防犯装置?
守られる対象が限られる上に、誰かに譲ろうとしても人間の都合を無視しそうだが。
ある意味、シャルロが子供の頃に気に入っていた作品なんかを誰かに売ることになった場合に、ちゃんと売った先に美術品が渡るのか、ちょっと興味があるかも。
屋敷から持ち出すのを邪魔されたりしたら、笑える。
オレファーニ家の七不思議みたいになったり?
蒼流自身は、シャルロが気に入ったものに対して必ずしもシャルロが所有権を有していないし、所有権を求める気も無いってことを理解している。多分。
が、ふわふわそこら辺を漂っている下級精霊なんかはそこら辺の理解が微妙な場合があるからなぁ。
普通の下級精霊は人の生活に関与しないが、お気に入りな人間に関しては偶に助けてくれることがあるってシャルロが以前言っていた。
道に迷った時に助けてくれるとか、何かを落とした時に拾ってくれる程度らしいが、物が持ち出されるのを防ぐっていうのも親切心を出してやる可能性もゼロではないんじゃないかな?
まあ、シャルロか蒼流が大丈夫だって言い聞かせればすぐやめるだろうけど。
それこそ、シャルロの寿命が尽きた後にも同じことをやり続けていたら、オレファーニ侯爵家の不思議な美術品って伝説になるかもだな。
精霊の時間感覚ってかなり適当だから、暫くシャルロの死に気付かないか、死んだ後も美術品を守る必要はないと思い至らないかも。
俺は清早には気に入られたが他の精霊には揶揄われても特に気に入られた覚えはないが、シャルロはかなりの人気者だからな~。
マジでそこら辺はどうなるか……。
「結局、ナイフを持って後ろから押し入ろうとする賊が居たような場合の対処はどうなったの?」
シェイラがパンにジャムを塗りながら聞いてきた。
「魔力認証で登録者以外がいるときは警報音がなるのと、事前許可が無い場合は風除室っぽい間の部屋で全員が拘束されるようになった」
事前許可っていうか、ドアを開けようとする魔力認証をされた人間次第ってやつだけどね。
流石に防犯用の魔具の細かい仕様に関してはシェイラにも話せない。
「全員が拘束って、屋敷の主が居た場合だとその人も??」
シェイラが目を丸くしながら手を止めた。
「ああ。しょうがないだろ?
捕縛する魔具に、魔力認証に登録された人間だけ避けて他の人間を捕縛するなんて言う仕組みは作れないんだ。
全員捕縛して、駆けつけた警備担当が当主を先に助けるしかない。
まあ、それに納得しないんだったら当主は魔力認証した人間以外を美術品がある部屋に連れ込まなければいい」
もしくは、俺らが作った魔具は買わずに、人間の警備兵を常に立たせておいて守るとか。
ただ、人間を雇って警備させる場合って……買収されたり『ずっと大丈夫だったから今日も大丈夫さ』的な油断っていうのがどうしても起きるからなぁ。
その点、魔具だったら実直に常に毎回同じ機動をする。だから、だれて油断して間違いを犯すなんてことは無い。
動力源の魔石が枯渇しているのに気づかなかったとか、捕縛用の藁をちゃんと補給しなかったなんてことが無ければ、だが。
藁はまだしも、魔石の残量が減った場合に枯渇する前に目につくように何か工夫した方が良いかな?
まあ、魔力認証と探知結界と捕縛結界が全部同じ魔石から動いているならドアが開かないから大丈夫か。
いや、これって魔石が切れたら普通に扉を開けて中に入れるじゃん! 防御結界も無くなっているんだから!!
となったら、絶対に魔石が枯渇しないように早い段階で警告が出る形にしないとダメだな。
それこそ防御結界に負荷をかけまくったら早く魔石が尽きるって気付かれたら、こっそり人目が無い時にガンガン負荷をかけて夜の間に魔石を枯渇させて中に入り込むなんてことも可能かも知れない。
それを考えると、魔石が枯渇し始めたら警備室の方に警報が流れるようにした方が良いな。
電池切れ目当てな泥棒w




