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謎研究倶楽部

更新遅れてすんません。

  突然だが俺は今、誘拐されている。

 俺を含め3人、こじんまりした部屋。

 時刻は午後5時過ぎ、ただ散歩していただけだった。

 春の夕方によくある薄いオレンジが、部屋に差し込む。

 背筋がヒヤっとするのと同時に、この状況から逃れたくなる。

 小鳥遊先輩とは数時間前に顔を知り合った仲だが、

 横にいる長身の男は誰だろう。

 彼は少し疲れたような顔を見せつつ、ため息を吐いた。

 どういう状況か、説明してくれないだろうか。

 言葉を待っていると、長身の男が言った。

 「すまないね、乱暴なことをして」

 「あ、いえ。全然」

 「君には、今の状況についての説明をしなければいけないんだけど、

 誰かに聞かれるのもあれだし、部屋に入ってもらったんだ。」

 「その、状況も気になるんですが、飛び出していった彼女はいいんですか?」

 「彼女とは、まあちょっと意見が食い違っちゃっただけだよ。

 よくあることだし、また後で会えるから、心配しないで。」

 「そう…ですか」

 色々引っかかるけど、今はいいか。

 「申し遅れた。僕は比嘉蒼汰ひがそうた。2年生で、このサークル

 の代表的な立場をやらせてもらっているよ。」

 「僕は、1年の隈ノ下純です、よろしくお願いします。」

 「そうか、隈ノ下!よろしく!」

 冷静な人かと思ったけど、快活さも持ち合わせている、そんな印象を受けた。

 「隈ノ下君は、うちの寮の新入生なんだよ。さっき寮で会ったもんね?」

 「あ、はい、会いました。」

 急に見つめられてドキっとしてしまった。

 「ふふ、これは新入部員ゲットなんじゃない?」

 茶色がかったツインテール。

 肩までかかったそれをひらりとさせ、口端を少し上げた。

 ふふんと言わんばかりの顔。

 声はお姉さんっぽいけど、傍から見ればお嬢さんだった。



 「そういえばここサークルなんですか」

 見たところ椅子とテーブル、ホワイトボードに書かれているのは、

 ”夏は合宿”か。どういう意味だろう。

 「あぁ…ごめん、まずはこの場所の説明からだね。

 ここは謎研究倶楽部!"謎"といっても多種多様で、

 オーパーツや、ロストテクノロジー、未解決事件、

 さらには日常に蔓延る謎を解明するサークルだよ。」

 「ま、活動らしい活動したことないけどね」

 小鳥遊先輩に突っ込まれ、比嘉先輩は苦笑した。

 「比嘉先輩、そうなんですか」

 踏み込み過ぎかとも思いつつ、好奇心には勝てなかった。

 「小鳥遊が言った通り、僕らは名ばかりでね、恥ずかしいことに、

 創設から半年、ただのミステリ好き集団をやってるのさ。

 ほら、この大学ってサークルとかならポンポン作れちゃうだろ?

 最初僕と小鳥遊で作ったときも、ちょっとしたお試し感覚だったんだ。

 そんな折に彼女が参加してネタ探しも真面目にやり始めたんだけど、

 これが中々上手くいかなくてね。」 

 「それも踏まえて、隈ノ下に一つお願いがあるんだ。」

 「お願い、ですか。」

 「君さえよければ、この謎研究倶楽部に所属してくれないかな。」

 その言葉を聞いたとき、昔のことを思い出した。高校生時代、

 誰にでもあるような、ちっぽけな悩みだった。

 「僕、ですか?」

 「あぁ。」

 なんで。

 「なんで、俺なんですか」

 「それは、運命だよ」 

 「運命?」

 「あぁ。世界にはこんなにも多くの人がいるのに、僕たちはこうして出会い、

 同一空間上に存在している。それはきっと奇跡だ。」

 「あとはやっぱり、君が良いやつそうだからかな」

 ――――数合わせなんだろ?

 冷笑するな。

 ――――出会いなんてしょうもない

 黙れ。そんなことない。

 「君は、きっと謎研究俱楽部を好きになるからさ。」

 …そうか。これが”期待”か。

 きっと今この瞬間に期待しているんだ。

 ここに入れば、色の付いた人生になれるだろうか。

 白じゃない、何色かに。

 だが、同時に恐怖も感じる。

 深い人間関係は、常にリスクを持っている。

 世間から見て、俺はきっと冷たい人間だ。

 警戒心を持っている自分に嫌気が刺しつつも、返事を返せずにいた。

 「…待って、もらえませんか」

 「あぁ、今すぐ返事を迫ろうってんじゃないから、大丈夫だよ。

 答えが決まったら、また教えてくれ」

 「はい」

 自分と相談できる時間が欲しかった。



 「実は、他にも2人程メンバーがいたんだけど、もう帰ってしまったんだ。

 ちょうど隈ノ下が来た少し前くらいかな。君と同じ1年生だよ。」

 「比嘉君の提案があんなだからだよ」

 不服そうに小鳥遊先輩が言う。

 「あんなって?」

 「ま、まぁその話はまた後で!今日はもう撤収しよう!」

 スマホを見れば、もう午後6時になろうとしていた。

 戸締りを済ませ、大学を出た。

 

 外に出てみれば、紺と円が俺たちを見つめる。

 前の2人は楽しそうに喋っている。

 どうしようか、本当に。

 サークルや部活に入る予定は元々無かったし、

 週末はバイトをしようと思っていた。

 あの言葉を思い出す。

 ”運命”…か。

 昔の人には、未来の出来事が全部決まってるだとか

 いう人がいたらしいが、それって現実逃避の一環なんじゃないのか?

 …なんて、ネガティブすぎやしないか。

 「隈ノ下?聞いてるか?」

 「あ、えと、なんでしたっけ」

 「今日の晩御飯、何が食いたい?」

 確かに今日は特に考えてなかったし、適当に済まそうと

 思っていたけれども。

 「ふふふ」

 怪訝な顔を浮かべていると、小鳥遊先輩は言った。

 「私達の寮、謎研究倶楽部の人しか住んでないんだ」

 もうメンバーみたいに扱われてしまっていることを失念するくらい、

 衝撃だった。



 その後スーパーへ行き、具材を購入して寮へと帰還した。

 そういえば、まだ部屋の整理がやり途中だったな。

 他の寮生に比べて、俺の入居は大分遅かったから、

 仕方ないと思うしかない。

 まぁでも今は、先輩達を手伝うか。

 荷物を置いて1階に降りると、キッチンには比嘉先輩と、

 あの飛び出していった人が並んで支度していた。

 「悪かったよ、桃華」

 「ふーんだ。今日はもう口利いてやんないから」

 何か話しているようだけど、挨拶しておこう。

 「あの、先輩」

 「ん?」

 「今日からお世話になる、隈ノ下純です、よろしくお願いします。」

 「新入生の子?私は2年の中江桃華。よろしくね!」

 あれ。思ったより物腰柔らかな人だな。

 「どうだ、桃華。良いやつだろ?」

 俺と肩を組み、ニコニコする比嘉先輩。

 「あんたは黙ってネギ切る!危ないでしょ」

 「す、すまん」

 比嘉先輩は尻に敷かれるタイプか…。

 「比嘉君、隈ノ下君に絡んじゃダメ。

 あと、桃華ちゃんこっち手伝ってもらっていい?」

 キッチンと繋がったリビングから顔を出した小鳥遊先輩はそう言って、

 中江先輩を連れて行った。

 「あの、何か手伝えることはありませんか?」

 「いやいや、今日は君たち3人を歓迎する会なんだから、僕らに任せてくれ」

 本当にいい人達だな、そう思うと心温まった。

 「それでも申し訳ないんで、何か手伝いますよ」

 「そうか?じゃあ、白菜を切ってくれ」

 俺はいい場所に来た。直感的にそう思った。

 


 「そういえば、僕以外の1年生って、何してるんです?」

 作業しながら、ふと先輩の横顔を見た。

 「あいつらは、まだ外にいるようだったから、連絡して、

 パックのごはんを買ってきてもらってる」

 「今日このパーティーをやること、伝えてなかったんですか?」

 「いや、実はな、新しい入居者が来るたびに毎回やってるんだ、パーティー」

 「じゃあこれが3回目なんですか」

 「いや、2回目だ。あの二人は3月下旬の同日に引っ越したんだよ。

 相当早い所を見るに、元々この寮にするって決めてたんじゃないか?」

 確かに、俺は寮を決めるのに少し手間取った。

 「ねぇ準備できたー?」

 「もうすぐできる!」

 「僕らは中江先輩に怒られないよう、早く準備しないとですね」

 「そ、そうだな。待たせちゃ悪いしな。」

 野菜を全て切り終えたが、先輩はまだ少しすることがあるというので、

 他の1年生達に会っておくことにした。



 リビングのテレビによれば、今は午後7時半過ぎ。

 丸型のテーブルに腰掛けた二人に、俺は話かけた。

 「あの」

 言いながら、2人の顔見た。

 「今日入寮した隈ノ下純です、よろしくお願いします」

 自己紹介ももう慣れたものだ。

 「俺は木村友、よろしくな、隈ノ下!」

 「あぁ。よろしく」

 木村はそういうと、隣の女子に目をやった。

 「私は瀬尾夏美!隈ノ下君、これからよろしくね!」

 「よろしく」

 彼ら特有の"オーラ"にやられていると、比嘉先輩達が鍋を持って来た。

 そう、今日は鍋である。

 


 「隈ノ下君、白菜入れてくれる?」

 「わかりました」

 菜箸で白菜を入れていく。

 自分で用意した物というのは、愛着が湧くものだ。

 「おぉ、ひたひたでうまそう」

 木村は言いながらそれを口へ運ぶ。

 …我が子が食されてしまった。

 「そういやみんな、明日は予定あったりするか?

 親睦を深めるのも兼ねて、皆で祭りを回りたいんだ。」

 比嘉先輩は皆を見た。

 「私は特にないわよ。というか最初からそのつもりだったし。

 千幸はないの?」

 「私もとくにないよ。みんなで行けるならそれが一番だよね。」

 「俺も特にないっす」

 「私もないです」

 「僕も特には」

 「ほんじゃ、明日は9時頃には1階に集合でそれと、隈ノ下」

 「はい」

 「これ、グループのQRコード。後で個人の分も交換しといてな」

 「ありがとうございます」

 スマホ上に謎研究俱楽部のチャットが追加される。

 サークル自体に入ったわけではないのだが、好意は受け取って

 おくべきだな。

 「比嘉君、そろそろ"あれ"やろうよ」

 小鳥遊先輩は目を輝かせ、米のパックを持って来た。

 「やっぱりシメはこうじゃないとな!」

 「みんなも食べる?」

 「私パスで、2人ともほんとよく食べるよね」

 俺ももう、流石に腹が苦しかった。



 夕食を取り終えた俺は、ようやく荷物作業へと乗り出した。

 先輩達から飯の片付けより優先してと言ってもらったが、

 ちょっと申し訳ないな。

 段ボールをちょっとづつ減らしていく。

 夜中にやってもあれだし、もう明日にしようか。

 そうこうしていると、ドアがノックされた。

 「隈ノ下、ちょっといいか」

 ノックの主は木村だった。 

 「どうしたんだ?」

 「いや、お前今荷物整理してんだろ?

 差し入れ持ってきたぜ」

 そういうと木村はジュースを机に置いた。

 寮を出て割と直ぐにある自販機で買ったのか。

 「あの…」

 「あ、もしかして炭酸駄目だったか?悪いことしたな」

 「いや、そうじゃないんだ。ありがとう、頂くよ。」

 「おう。じゃ、頑張れよ」

 そう言って、彼は出て行った。

 あいつ、良いやつだな。

 

 

 

 


 


 

 


 

 

 

 


 











 

合間を縫って更新します。

もうそろちゃんとミステリーに舵を切っていく予定です。

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