第098話 同じだよ
呆然とする先代皇帝を他所に、ヒトフリはナカノを殴り続ける。
「さすが私の妻です! 拳と体の相性がいいですね!」
「やめて……! 何、これ!? どういうこと……」
意識が回復したばかりのナカノはまだ状況を掴めずにいる。
記憶が混濁している。
ここがどこなのか。
自分に何があったのか。
思い出せないまま、ただただ恐怖に駆られ、
「子供は!? 私の子供たちはどこですか!」
必死の叫びは子供を愛する親心から来るものではない。
「誰か私の子供たちを連れてきて! あなた、私より子供の方が殴りやすいですよ!」
「無駄な足掻きです。マガとマゴは死にました。マギは妖怪になってマゲは行方不明。マグは松山にいます」
「そんな……」
身代わりを失った事実にナカノは愕然として、
「ひどい。なんで。なんで私がこんな目に。お腹を痛めて生んだ子供なのに。あなたは悲しくないんですか」
「よく言いますね」
ヒトフリは爆笑しながら拳を振り上げ、
「散々遊んだバカ女のくせに! 私からすれば、あいつらが本当に自分の子供なのかもわかりませんよ!」
目の前で繰り広げられる暴力。
思いもよらない展開に先代皇帝は身動きが取れないでいる。
「どうしてなのか。人間は慈愛に満ちた崇高な生物であるはずだ」
一縷の望みを託そうと、先代皇帝は神葉に目を向ける。
ヒトフリが狂っているだけだ。
その他大勢の人間はまともなのだ。
そう信じたくて。
「さあ、目を開いてくださいっす」
神葉はカミルを見つめながら垂涎。
「息子さんに会いたいっしょ? 連れてってあげるっすよ。くふふ。現状を見た時のあんたの気持ちを想像したらもう興奮が止まらないっすよ。息子さん、実は娘さんらしいっすよ。しかももう人格は将軍に奪われてるんす。あんたのこと見ても父親だってわからないんじゃないっすかねぇ。ぷっ。ぐふ。ぎひひ。あひゃ。あっはははぁー!」
カミルの目がゆっくりと開く。
「あり得ぬ」
先代皇帝は絶望した。
「不可解なことよ。このようになるはずではなかった。人間は妖怪の如き下賤の生物とは異なるのだ」
「同じだよ」
厳然たる事実を突きつけるのはリケイカイン。
ようやく息子がこの場にいることに気づく先代皇帝。
いつものように死ねとも情けないやつとも言わず、じっと息子の言葉に耳を傾ける。
「同じだよ、人間も妖怪も。みんな自分のことが大好きで、自分が得をするためなら平気で他者を犠牲にする。クズばっかり。ぼくは人間と一緒に列島を旅して、いろんなものを見てきたから知ってる。理想郷なんて、どこにもない」
* *
空が夕焼けに染まる。
土は血に染まる。
「ざまあみろ」
マギは悠然と空を飛びながら、すべてを見下ろしていた。
「この薄汚い世界に相応しい結末ぞ」
動く大江戸城が視界に入った時は驚いたものの嬉しい誤算だと笑った。
人間の城を動かすのは人間のはず。
つまり妖怪を殲滅する邪魔にはならないどころか味方になると判断したのだ。
「大江戸城もカラクリなのであろう。であれば、余の固有能力の影響を与えないようにしなければならないな」
マギの能力は【無効化━アヌリルン━】。
妖怪の固有能力のみならず、あらゆる科学技術を無効化させてしまう。
よって大江戸城から一定の距離をとりつつ、人間と妖怪の戦いが拮抗している場所を狙い、少しずつ作戦を展開することに決めた。
「さあ、見事に命を散らせてみよ」
マギは【無効化━アヌリルン━】を発動。
途端に妖怪たちは能力を失い、人間たちが優勢になる。
戦況の変化は上空からも確認できた。
してやったりのマギ。
にやにや顔で、
「やれ! 滅ぼせ! そうだ、いいぞ!」
異変に気付いたのであろう、大江戸城が接近する。
「頼もしい巨体よ。さあ、妖怪どもを踏み潰せ!」
ところが予想とは真逆の事態が起こる。
大江戸城はむしろ妖怪を援護するかのように人間を踏み潰し始めたのだ。




