第099話 瀬良寺家の人々
「なぜか妖怪たちが急に弱くなったでおじゃる」
大江戸城内部の操縦室。
将軍はモニターを見て焦る。
「みがすぐ助けてやるのじゃ!」
マギによる能力発動が原因だとは知らない将軍。
すぐさま現場に急行。
妖怪を援護する。
ところが大江戸城も将軍もカラクリ。
マギの【無効化━アヌリルン━】の影響を受けてしまう。
「……苦しいのじゃ……」
大江戸城も将軍も簡単には無効化されることはなかった。
ただし、幾分その力が削がれることになる。
――私は……。
結果、脳を制御する機能が十分に働かず、瀬良寺サンの意識が覚醒しそうになる。
「出てくるでない。この体は返さぬぞ」
* *
揺れる城内。
廊下を走る人々がいる。
一人は瀬良寺カミル。
神葉から一切の事情を聞いた彼は確かに衝撃を受けた。
だがかつて第一線で活躍していた公儀祓除人の洞察力は失われていなかった。
すぐさま神葉に操縦室までの案内を命じたのだ。
――思惑通りっす!
同じく全力疾走する神葉。
実子の現状に慌てふためくカミルが最終的には自分にすがる姿を夢想していた。
それが勘違いだとも知らずに。
「必ずや見届ける。人間の愛を!」
これに続くのが先代皇帝。
人間の愛を信じるための最後の頼みの綱をカミルに託していた。
まだ体調は完全には回復していない。
よろける父の姿を後ろから追うリケイカインが悲しげに見つめている。
* *
「出てくるなとはどういうことです? ……まさかサンの意識が戻りそうなのですか!?」
原因不明の不調に苦しむ将軍に対し、ビタリアは敢然と呼び掛け始める。
「サン! 聞こえていますか! しっかりしなさい! あなたの体はあなただけのものです!」
「うるさい女め……!」
自我を保つのに必死な将軍。
苛立ちを隠せなくなる。
そばに置いてあった〝捧棒〟鬼殺しを手に取り、ビタリアに迫る。
縛られて身動きの取れないビタリアだが怯まず声を上げ続ける。
「あなたをそんな意志の弱い子に育てた覚えはありませんよ! さあ、目覚めなさい! 自分を取り戻すのです!」
本音としては、とてもつらかった。
サンの生まれた時から今に至るまでの記憶が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
――すべて親である私の責任です。我が子の手にかかって果てようとも、せめて死に際だけは潔くありましょう。これが私にできる最期の教えです。
「私は逃げも隠れもしません! 武士ですから!」
「さすが俺の嫁だぜ」
将軍が棍棒を振り下ろすのと同時に、その男は現れた。
かつてと同じ武器――〝眩剣〟リヒトを手にして。
屈強な腕力と練り上げられた剣技が将軍の棍棒を食い止める。
「……嘘……」
心臓が止まりそうな想いのビタリアであった。
目の前にいるのは亡くなったはずの、
「あなた……?」
「おう!」
瀬良寺カミルその人であった。
「んで、おめぇがサンか。でっかくなったなぁ~!」
カミルは軽く将軍を吹っ飛ばし、不敵に微笑む。
ビタリアはおろおろしつつも、
「サンですけどサンではないと言いますか……ややこしいことになっていまして……」
「らしいな。だが間違いなく俺のガキだ。へへっ。構えが俺にそっくりだぜ」
「あなた……なのですか!? 本当に……」
「女手ひとつで立派に育ててくれたんだな。ありがてぇ」
「……はいっ!」
言葉を重ねて確認する必要などなかった。
頼もしい背中が夫以外の何者でもないと証明していた。




