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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第8章 〝不朽戦艦〟天照の鱗
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第077話 カビが生えてきた

「どうしようどうしようどうしよう」


 クロワは焦る。

 ひとつ下の階層に辿り着いたはいいものの、その場に満ち溢れるカビを吸い込んだ途端、全員が深い眠りに就いてしまった。

 カビは体の表面に取りつき増殖していく。


「このままだとみんな腐っちゃう」


 クロワはマギを揺さぶり、


「起きてください!」

「余は寝て育つぞ」

「ダメだ、こいつ!」


 次にマゴの肩を叩き、


「カビだらけになりますよ!」

「お゛っ♡ 刺激しないでぇ♡」

「……」


 おそるおそる皇帝をつつき、


「あの……」

「人間の愛!」

「ひっ!」


 寝言が返ってくるだけで目を覚ましてはくれなかった。


「それにしても、どうして俺だけ起きてられるんだ?」


 相違点は何か。

 まさか身分の違いが原因ではあるまい。

 それ以外ではっきり目に見える違いがひとつだけあった。


「いたた……この傷のおかげなのかな?」


 上の階から下りてくる際、クロワはうっかり斧で自分を傷つけてしまっていた。

 ひどくはないが少しだけ出血している。


「痛みのおかげだとしても皆さんを傷つけるなんて恐れ多い。どうすれば……あれ?」


 先程クロワがマギに触れた箇所。

 そこだけカビが減少していた。

 なぜ?

 もしかするとカビを殺すのは痛みではなく、


「血液……なのか?」


 試しにクロワは血をマギに垂らしてみる。


「やっぱり」


 血液がカビの繁殖を阻害するとわかった。

 やるべきことは決まった。


     *     *


「マギちゃん。私、消えちゃうかも」

「むぅ?」


 マギはまだ夢を見ていた。

 母に膝枕されて気持ちよく寝ている夢を。


「もし私が消えちゃっても、また私のことを思い出してくれる?」

「余は記憶力抜群ゆえ安心するがいい」

「う~ん。心配だなぁ。あのね、これはマギちゃんのためなんだよ? マギちゃんはずっとここにいて眠ってた方が幸せなんだから。外の世界は嫌なことばっかり。いいことなんて何ひとつないから」

「なんだか頭が冴えてきたぞ」

「……だから……どうか……」


 母の言葉を聞き取る前に、マギは目を覚ました。


「……いい夢を見ていた気がするが……内容は忘れたぞ」


 周囲を見て自身の置かれた状況を思い出す。

 将軍陵墓の中に来ていたこと。

 扉を通った瞬間なぜか気を失ったこと。

 皇帝やマゴ、クロワと行動を共にしていたこと。


「クロワ……?」


 血だまりが視界に入った。

 すぐさま駆け寄ろうとした時、自分自身も血まみれになっていることに気づく。


「これは……余の血ではないぞ? どういうことだ……?」


 マゴと皇帝、ついでに粧か无も同じく誰かの血で濡れている。

 クロワも同じだろうか?

 近づいて見ると、彼だけは血を流しているとわかった。


「……マギ様……」

「しっかりしろ!」


 だが、明らかに手遅れのクロワ。


「なにゆえにこのような……」

「友達や父親を手にかけておいて……自分だけ無事なんて嫌だった……。ようやく……俺は……償えたのかな……でも……」

「何ぞ?  余にできることがあるなら申せ!」

「……できることなら……普通に生きたか……った……」


 クロワの息が絶えた。


「おお、息子よ……。いったい何があったのか?」


 皇帝が目を覚ました。

 マギは急いだ。


「ここに扉があるぞ!」


 叫んで、マゴと皇帝を扉に押し込もうとする。


「息子よ、その人間は連れて行かぬのか?」

「クロワは疲れている! もう少し寝かせてやろう!」

「人間の愛!」


 無理矢理マギはその階層を脱出した。


 ――させてはならない!


 マギが恐れたのは皇帝の固有能力でクロワを蘇生されること。


 ――道具にさせては……!

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