第076話 マギ、嫌い!
「やーい、やーい。妖怪やーい」
子供たちが黒い物体に石を投げる。
「うがぁあぁぁぁぁぁあ!!!!」
初めのうちこそ微動だにしなかった黒い物。
しかし頭に石が当たった時、とうとう唸り声をあげて立ち上がった。
体は頑丈だが、首より上は脆弱な妖怪だった。
髪はボサボサ。
片目は視力を失っている。
「こら、何してんだ!」
「お父さーん」
子供を殺されると思った親が子供を掴んで走る。
「……」
黒い妖怪は黙って人間の親子を見つめる。
それから無言で飛び立った。
――こんなはずじゃなかった!
複雑な想いが胸を締め付ける。
――信じてたのに!
自然と体は松山城のある山に向かっていた。
1本の木のそばで丸くなる。
殻にこもるように。
脳裏に浮かぶのは1人の少年。
――マギ、嫌い!!!!
リケイカインはマギを恨んでいた。
王水門で撃墜されて以来、ずっとずっと。
自分を道具として扱う父に復讐したかった。
そのためにマギを味方につけた。
それなのに、
――マギが皇帝に愛されるなんて……。
頭をかきむしるリケイカイン。
「マギ、嫌い!!!!」
冬にもかかわらず梅雨のように雨が降り続いている。
結果、地面が緩くなっていた。
「……えっ」
気づいた時には土砂崩れに巻き込まれていた。
勢いは凄まじく、飛んで逃げられそうにない。
しかし慌てないリケイカイン。
もうどうでもよかった。
いっそ、このまま……。
「よ」
「なっ……なんで……」
埋もれかけたリケイカインを救い出したのは、
「なんで教祖がここに……!?」
「教祖じゃなくって救祖ですぅ。なんでここにはこっちの台詞ですね。なんで皇太子様ともあろうお方がこんなところで死にかけてるんですかぁ???」
「……違うもん……」
救祖は迅速にリケイカインを安全な場所まで運んだ。
「妖怪が2匹いるー!」
子供に指をさされたので、風評からも逃げられる場所まで更に移動。
「ついに私も妖怪呼ばわりされるようになっちゃいましたね。とほほ……」
「……マギみたい……」
「嫌なこと言わないでください」
「じゃ、さよなら……」
「私が似てるのはあなたじゃないですか」
「……え?」
救祖は岩の上に腰かける。
去りかけたリケイカインが動きを止める。
「私の父は有力貴族。母は先代の征夷大将軍なんです」
「……」
「長男はつらいですよねぇ。親に期待されて道具としてこき使われて。私なんて挙げ句の果てに、藩主後継の座を弟に奪われましたからね!」
「ぼく長男じゃない」
「あ……」
「でも、わかる」
リケイカインは救祖の隣に座って、
「ぼくもずっと道具だった。皇帝にしごかれて道具としてこき使われて」
「皇位は継げそうですか?」
「マギに盗られた」
「……はい?」
初耳だった。
自分の弟がよその家督を奪いかけている事実を聞かされて、救祖は絶句。
しかし同時に喜びが込み上げた。
「ここまで同じだなんてねぇ」
笑みがこぼれる救祖。
「私は身分や種族に関係なく手を組みます。特に自分と似た境遇の方と、ね。どうです? 私と一緒にこの不埒な世界で暴れませんか?」
「……皇帝を殺せる?」
「ご覧なさいな」
救祖は下半身の触手を岩に巻き付ける。
たちまち岩は溶けて消滅。
「これが私の能力ですぅ」
リケイカインは頬を赤く染める。
――こいつならぼくの野望を叶えられるかも。
2人は共闘を誓った。
* *
「余は空腹ぞ!」
「ほーら、好きなだけ食べていいのよ」
「いっぱい食べたら眠たくなってきたぞ」
「膝枕してあげるね。お腹とんとんもしてあげる」
「むぅ。ここが理想郷であったか」
マギは懐かしい女性との甘いひとときを過ごしていた。
体は元通り人間の姿。
城にある自室に、そよ風が吹き込む。
あたたかくて、涼しい。
すべてが満ち足りている。
「マギ様ーーー! 起きてください!!!!」
遠くの方から少年の声。
「余はまだ寝てないぞ。静かにしろ」
だが本物のマギはすっかり寝てしまっていた。
マギだけではない。
マゴも。
皇帝さえも。
そして彼らの体は徐々にホコリのような物で覆われていく。
「ヤバイ。これカビじゃん」
将軍陵墓2階。
唯一、意識を保っているクロワが怯える。
「このままじゃみんな腐っちゃう……」




