第100話 初めて味わう死の恐怖
「……思ってた展開と違うんすけど……」
熱い視線を交わす瀬良寺夫婦の後方で神葉が落胆する。
裏目に出たのだ。
子供の現状を目の当たりにしても尚カミルは狼狽する素振りを見せない。
「行くぜ!」
カミルは極めて冷静に実子と対決する。
対するサンこと将軍は体調不良から回復。
脳内にある戦闘経験を駆使して応戦する。
いい勝負だった。
ビタリアにとっては夢のような光景。
「ああ……どうしましょう……」
どちらを応援すればよいかわからなかった。
――わけのわからぬことばかりじゃ。
将軍はヒトフリがカミルの死体を密かに保管していたことを知らなかった。
死んだはずの男が現れ、しかも自分と同等に強い。
おまけに先程は意識が遠退いた。
初めて味わう死の恐怖に、将軍は怯える。
「えぇい、神葉! 何をしておるのじゃ! どうにかしてたも!」
「御意っす」
神葉は即座にビタリアを確保するとともに抜刀。
拘束を解かれていないビタリアはあっさりと人質になってしまう。
「私に構わないでください!」
「おうよ!」
ビタリアの願いをすんなりと受け入れるカミル。
「おらおらおらぁ! 油断してっと死んじまうぞ!?」
猛攻を止めようとしない。
「どうしてっすか……?」
神葉の疑問をカミルは鼻で笑い、
「夫婦の絆だとか武士の信義だとか言えば満足か?」
「……」
「今やるべきことは混乱の主原因を取り除くこったろぉが。それ以外は全部後回しよ。……俺ぁ言ったはずだぜ? 二刀流はダメだってよ」
「……!」
刀を振るい続けるカミル。
圧され続ける将軍は自棄になって、
「ならば殺してやるのじゃ! やれい、神葉!」
「……うっす」
神葉も自棄だった。
刃をビタリアの首に押し付けようとした、まさにその時。
「ならぬ!」
大声を発しながら飛び込んできた先代皇帝。
硬いリケイカインを盾にして、神葉の行動を阻止した。
ついでにリケイカインを武器のようにスイング。
神葉を殴る。
あまりの硬さにさすがの神葉も吹っ飛んでしまう。
「なにゆえに人間同士で争うのか!?」
先代皇帝が問う。
「愛はどうした? 愛こそ知性の結晶ではないか? 諸君ら人間は妖怪ではない。万物の霊長である。それにもかかわらず同類で憎み合い相争うなど愚の骨頂。ご教示願う。愛はどこにあるのか? この世界のどこにも愛など存在しないと申すか?」
「……」
リケイカインは道具として扱われたことに関して何も言わない。
カミルも将軍も唖然として手を止めてしまう。
が、すぐに将軍は訂正する。
「みは人間ではないのじゃが」
「謙遜であるか?」
「みはカラクリじゃ」
将軍の告白に先代皇帝は沈黙。
「幕府は人工知能であるみによって代々統治されてきたのじゃ」
「おお、貴殿が将軍閣下であらせられるか!? 吾輩は先代の妖怪皇帝である。これまで永きにわたり妖怪が人間を苦しませてきたこと、衷心より謝罪する。吾輩は妖怪であるが人間の繁栄を支持する立場である」
「人間などクソじゃ」
「謙遜であるか?」
「本音じゃ。みは妖怪と仲良くなりたいのじゃ。だって妖怪の方が優れた生き物でおじゃろう?」
将軍と先代皇帝は話の噛み合わなさに、きょとんとする。
ビタリアが割って入り、
「将軍は人間を滅ぼそうとしているのです。大江戸城を動かして人間を踏み潰していましたよ」
更にリケイカインが補足して、
「先代皇帝は妖怪を滅ぼそうとしてるよ」
なぜなら、それぞれ自分の種族を卑しいものだと考えているから。
――似ている……。
先代皇帝と将軍は互いに見つめ合う。
そして確認し合う。
「妖怪の世界は理想郷ではないのでおじゃるか?」
「否。地獄である。人間に愛はないのか?」
「ないのじゃ。みは人間にいじめられたことがあるからわかるのじゃ」
両者は同じ結論に至った。
遅きに失したのかもしれない、と。
ならば最早この戦争に意味はない。
すべて終わらせるべきでは……。
誰もが目の前のことばかりに注目していて、モニターの監視を怠っていた。
壁が軋む。
小さな音が段々と大きくなる。
ド派手な音を立てて壁を破壊し、侵入するのは、
「余は妖怪皇帝ぞ!!!!!」
マギであった。




