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26.案外早かった再会


「え~本日はお日柄も良く……」

「アレス殿、外は曇りのようですぞ?」

「お二方、お日柄に天気は関係ないでやすよ?」

「え?マジ?」


 いつの間にやら王様の前に転移していた俺は落ち着きを取り戻したが早速ミスったみたいだ。農民に礼儀を求める方が間違ってるんだから俺は悪くないぞ!


「して、纏めるとお主らはダンジョンの事故でここまで飛ばされたと?」

「の様ですな、信じがたい事ですが嘘は言っていないかと」

「うむ、困ったのぅ……」

「なぁピエちゃん、俺らのせいじゃなくても他国に勝手に入るのはやっぱマズい感じ?俺ら捕まっちゃう感じ?」

「当たらずとも遠からずと言った具合でやすな」

「と言うと?」

「勇者自体は神託があった時点で人格的に保証されたようなものなので問題無いんでやすが、何の連絡も無しに来られたんじゃ()()()()()()と思われる可能性があるんでやすよ」

「ほぅほぅ……」

「かと言って弁明しようにも距離や手続きの関係で今日明日と言うワケにも行かないんでどうしたものかと……」

「俺らが国に帰って報告するってのは?」

「帰る最中に問題があればこっちの責任になりやすからねぇ……。ま、順当なとことしては神殿に伝達してもらってウチで保護するってところでやすかね?」

「うむ、それしかあるまいな。大臣、神殿に連絡を。ピエーロは勇者殿と行動を共にしてくれ」

「承知いたしました」


 その後、イーリスへ事故で飛ばされた旨を手紙に書いて神殿へと直接持ち込む事となった。ピエちゃんによれば「こういうのはアピールが重要でやす」とのことだ。


「おぉ、その様な事情がございましたか。であれば伝書ワイバーンにて急ぎイーリスまで送り届けましょう」

「伝書ワイバーン……」

「耳馴染みの無い言葉ですな」

「一般の人間は聞いた事も無いでしょうな。早いのは良いんでやすが値段がべらぼうに高いんでやすよ。にしても太っ腹でやすな?」

「大義を課せられた勇者様ですから、我々神殿も協力は惜しみませんよ」

「申し訳ないですがよろしくお願いします」

「いえいえ、勇者様こそ魔王討伐の件、ご武運をお祈りしております」


 手紙を渡した後、特にすることも無いのでピエちゃんに案内されて町を見回る事になった。


「ピエちゃんってジャーバッハ出身だったんだな?」

「いえ、出身は別でやす。ここでは良くしてもらった恩があるので恩返しの最中ってところでやすかね」

「へぇ~、じゃあピエちゃんの生まれってどこなんだ?」

「言っても分からないようなド田舎でやすよ。お、ここで食事にしやせんか?」


 ピエちゃんの足が止まり顔を上げるといかにも下町の食堂と言った具合に雑多な人々で賑わう店が目に入る。スパイシーな香りが漂い、食欲を刺激する。


「なんだ?あのドロドロした茶色いの」

「あれはカレーと言ってこの国ではポピュラーな料理でやすね」

「ウマいのか?」

「それは食べてからのお楽しみでやす♪」


 ピエちゃんが少し悪い顔をしていた様な気がするが食欲に負けて店へと足を踏み入れる。


「お、ピエちゃんじゃねぇか!帰ってたのか?」

「ええ、つい先程帰って来たとこでやす。オヤっさん、いつものヤツ頼みやす」

「あいよぉ!ここらで顔を見ない兄ちゃん方は他所の国から来たのかい?」

「はい、ちょっとした事情がありまして……」

「ふ~ん、まぁピエちゃんの連れなら悪いヤツじゃねぇか。楽しんでってくれや!」


 なんとも元気な店主にそう言われ、奥の席へと案内される。


「で、こっちのお兄さんはどうしたんで?さっきから黙りこくってやすが?」


 そう言われミダスの方を見ると血走った目で何度も手袋を取ったり外したり、擦ったり叩いたりと明らかに不審者のソレだ。


「お、おいミダス?どうした?」

「……!すみませぬアレス殿……。」

「いや、別に良いんだけどさ。何かあったのか?」

「いえ、手袋が壊れないか心配でしてな……。ここまでウマそうな匂いを嗅いで食べれなかったら死にきれませぬ故」

「へいお待ち!ウチ自慢のカレーライスだ!」


 不審者に成り果てたミダスに事情を聞いていると頼んだ料理がテーブルへと並べられる。


「おぉ~!ウマそうじゃん!あれ、ピエちゃんは食べないの?」

「アッシはもう済ませてやすのでお二人でご堪能してくだせぇ」

「そうか?んじゃ、いただきまーす!」


 スプーンを使い一口食べる。


「「……!」」


 口に入れた瞬間様々なスパイスの香りが鼻に広がると同時に舌に尋常ならざる刺激を感じる。


「がはっ辛……!コレヤバい……!」


 明らかに異常な辛さに悶えているとピエちゃんのニンマリとした顔が目に入る。こいつハメやがった……!


「ピエロを信じちゃいけやせんぜ坊っちゃん♪」


 抗議する余裕もなくグラスを手荒に掴み一気に流し込む。


「ふぅっ……。死ぬかと思った……。おい、流石にコレは酷いだろ!見ろよミダスなんて声も出さねぇぞ?」


 そう言ってミダスを指差す。ミダスはかなり多めに掬ったのが災いしたのか俯いたままプルプルと震えている。


「いや~すみやせん。ピエロの可愛い悪戯ってヤツなんで許してくだせぇ。新しいのもすぐに……」

「ウマい!」

「「は?」」

「こんなウマい料理があったとは……!」


 そう言いミダスは物凄い勢いでカレーをパクパクと食べて行く。


「あ~、お前ならそうなるよな……」

「坊っちゃん。こっちのお兄さんは舌がイカれてるんで?」

「いや、実は……」


 そしてミダスのスキルの事と今までの状況について簡単に説明する。


「そんな事があったんでやすねぇ……」

「こいつだったら最悪毒入っててもウマイって言って食うんじゃないかな?」

「よし!そういう事であればこのピエちゃんもひと肌脱ぎやしょう。オヤっさん!ありったけの料理をこのお兄さんに!」

「あいよぉ!」


 そうして店主とミダスとの壮絶な勝負が始まる。店主自慢の料理が途切れることなくテーブルへと運ばれ、置かれた瞬間にミダスの胃へと吸い込まれる。それを2時間程繰り返し、他の客がひと目見ようと席の周りに集まり出した辺りで店主から泣きが入る。


「もうダメだ!今日分の材料が切れちまったよ」

「この勝負ミダスの勝利!!」

「まことに美味であった」


 ガックリとうなだれるもやりきった表情の店主と料理に満足しご満悦なミダス。それとは対照的にピエちゃんは財布を見て青い顔をしていたが自業自得と思っておこう。そんなこんなで飯を食べるだけでちょっとした騒ぎを起こしつつ店を後にして腹ごなしに町を見ながら歩いていると重大な事実に気がつく。


「そういや他のみんなの事探さなきゃ!」

「そういえばそうでしたな」


 呑気に飯を食っている場合じゃない!もしかすると他の皆は危険な目にあっているかもしれないのだから早く探さなくちゃ!


「すまんピエちゃん!やっぱこの国出てくわ!」

「坊っちゃんちょっとお待ちくだせぇ」

「いや、マジで申し訳ないけど急ぐんだわ!」

「仲間を探すと言ってもどこを探すんで?」


 慌てて走り出そうとするもピエちゃんの言葉で足が止まる。


「アッシが思うにこの転移は悪意あるものでは無いと思いやすよ?」

「なんでそう言い切れるんだ?」

「半分くらは感でやすが、坊っちゃんの話から察するに神様からのペナルティを受けたのはお二人だけだと思われやす。ですから他の方は無事なのでは?」

「でも、どうなってるかなんて分からないだろ?」

「けど何処に居るかも分からない人間を見つけるなんて無理でやす」

「それでも探さなきゃ……」

「そこで提案なんでやすが、神殿に頼んで各地に伝言を届けてもらうのはどうでやすか?」

「神殿に?」


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「はい、確かに承りました」

「二度手間ですみません」

「いえいえ、先程も申しましたが神殿は勇者様への協力を惜しみませんので」

「で、これなら他の方が見ればどこに居るかの返事が来るでしょうからその後に合流するって寸法でやす」

「ピエちゃんもありがとうな。じゃあ返事来るまではここに居ないとだな」

「そういえば坊っちゃん方、今日止まる部屋のご案内ってされました?」

「いや?」

「あちゃー、そしたら一旦城に戻りやしょう。アッシが確認して案内しやす」


 今夜泊まる部屋を確認するため、俺たちは一度城へと戻る。


「にしてもこんないい部屋に泊まらせて貰っちゃって良いのか?」

「もちろんですとも。坊っちゃん方はいわば国賓でやすし」

「んじゃあ暗くなってきたしボチボチ寝るか」

「あれ?お風呂には入らないんで?」

「風呂!?」


 突然ミダスが大声を出すので俺とピエちゃんは固まる。


「風呂に入ってもよろしいので!?」

「え、えぇ、勿論でやすよ……?」

「あぁ、すまぬ……。風呂に入れず早数年。風呂好きには気が狂うかと思う程辛くてな……」

「そうか、汚れは落とせても風呂には入れなかったんだもんな……」


 そうしてピエちゃんに案内され浴場へと通される。流石王城だ、ミダスは喜び過ぎだと思うがここまで豪華な風呂であれば俺もワクワクしてきた。


「どうだ?数年ぶりの風呂は?」

「最高ですな!檜風呂でないのは残念ですがこちらも風情があって良き風呂です」

「ヒノキ風呂?」

「故郷にある木の一種でしてな、木の香りが広がりなんとも心地よいものですぞ」

「想像つかねぇな、てかミダスの故郷って?」

「ジャポモトと言って遠くの島国ですぞ」

「聞いたこと無いな、てかそんなとこからどうやって……て、あれ?」


 ミダスに声を掛けようと横を見ると先程まで横に居るミダスが居ない。湯船の方を見るといつの間にか湯に浸かってなんとも気持ち良さそうな表情をしていた。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛……。染みるぅ……」

「じゃあ俺も入るか」


 体を洗い終わった俺もミダスに続き湯船へと浸かる。風呂には良くわからないがいい匂いのする花びらも浮いており、ところどころ金やらダイヤやらの高価な装飾が施された内装も相まってかなり高級な事が伺える。


「坊っちゃん方。城の風呂はどうでやすか?」

「最高に気持ち良いぞ~。ミダスも溶けちゃってるし」

「それは良かったでやす。心ゆくまで堪能してくだせぇ」

「そういやピエちゃんは入らないのか?」

「アッシは先に済ませてるんで大丈夫でやす」

「そっか~……」


 ミダスと一緒に溶けながら湯船を堪能しているとふと思い出す。ピエちゃんのあの楽しそうな声、どっかで聞き覚えが……?


「ピエちゃんもしかして……!」


 危機に備え立ち上がろうとすると湯気の奥から水の音が聞こえる。


「誰かおりますの?」

「…………!」


 これはかなりヤバいのでは?


「返事をなさいな。今日は私一人で入りたいと言ったでしょう?」

「…………!」

「あら、あなたメイドにしては背が高いのね?」


 湯気の奥から小柄な人影がズンズンとこちらへ近寄ってくる。湯気から現れたのは金髪の女性であり、まじまじと俺の顔を見て視線を下に下げる。


「いや、これは……。その……」

「キャァァァァァ!!!」

「はぁ……。まこと良き湯である……」

「ピエちゃんまたかよぉぉーーー!!!」


 叫ぶ女性と俺、湯を堪能するミダス。この日、もうピエちゃんは信用しないと誓った。


「だから、ピエロを信じちゃいけやせんってのに♪」

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