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龍の紋章  作者: 森見幸成
9/15

感じる違和感、嫌な遭遇

いやあ、遅れた。

プロットを詰めて、私生活のゴタゴタを取り除いていました。

まあ特にストックがあるわけではないので、更新の間隔は空くと思いますが、一定にはできるかも?

短いですが、まあつなぎです。どうぞ。

感じる違和感、嫌な遭遇


 『聖域』と呼ばれる森から出た俺は、ジンから教えてもらった人里への道をひたすらに歩いていた。なぜか貰ったわりかし細身の長剣が、サイズの合わない剣帯に提げてあるが、正直足に鞘が当たって鬱陶しい。マントも、夜が来なければ必要無さそうなくらい厚手で、先程から体を汗が滴っているのを感じる。

 道中、することもなかったので、試しに休憩のあいだに剣を抜いてみると、シャラン、という美しい音と共にスラリとした刀身が覗いた。立って道場で習得した、重心を下にして剣を握った右手を左側に持って行き、左手を添えて刀身が斜めになるような構えを取り、目の前の虚空に向かって振り抜いた。ヒュン、という音と共に十分な速さを持った剣閃に、俺は軽く驚いた。


「軽いな、これ」


 そう、抜いた時も思ったが、この剣は軽い。零細道場で見つけた日本刀よりも僅かに長く、剣幅も広いのに、それよりも軽い。これいかに、と思ったが、まあ十分に使えるのならばいいだろう。贅沢を言うならば、使い方のわかる刀のほうが良かったが、文化の程度がわからないのだ、期待しても仕様がないだろう。

 剣を鞘に収め、太陽が傾き始めたのを見て、俺は再び歩き出した。

 向こうに居た頃は殆どを我が愛車、チャリ助に頼っていたため、徒歩での旅の勝手がわからない。そのため、一向に変わらない草原の景色にイライラしながら、ついに夜を迎えた。赤と青の月を背に、俺はなぜかそこらに点在する、中が空洞になっている草の塊のようなものを剣で僅かに穴を開け、森で採れた枯れ葉を火種にして、地球での山登りの際に携帯していた着火マンで火をつける。念のため上方にも穴を開けておく。

 適当に火が育ってきたところで、俺は今朝もらった生肉を棒に挿して火にくべる。そこで一息つくと、とりあえず荷物の確認をすることにした。

 着火マン、液晶の割れた携帯、空のペットボトル、軽い剣、ローブ。あとは身につけていたウエストポーチとティッシュペーパー。

 以上。

 ……アレ、まずくない?

 何がまずいかと言えばきりがないが、食料の入っていた袋を森に置いてきてしまったのが一番まずい。なにせ入っていたのは乾パンだけで、あの時食い尽くしたから、というのが理由なのだが、どうせなら生肉を詰めるのに使えばよかった、と俺は後悔した。今さら言っても先に立つものもないのだが。

 唯一の救いは目の前で血と脂が滴っている肉がとてもおいしそうなことくらいだ。腹の虫が抑えきれない。思わず手を伸ばしかけたが、結局さらに肉を育てることにし、ニコニコしながらその時を待つ。

 ……おもえば何の肉なのだろう。炎狼のジンに出されたものを惰性で食べていたが。

 あまり生物の居ない森。入ったら出られない結界。それらの要素から恐るべき推測がひらめき、俺は笑顔のまま固まった。


「いやいや、それはないだろうな、まさか。そうだったらとっくに食われているだろうし、あの肉はなかなか美味しかったし」


 雑食性の動物の肉はまずいのだ。きっと、そのはずだ。

 まあなんにせよ、目の前の肉はもう出来上がってきたようで、棒を水分が滴って、いい匂いが鼻腔をくすぐり、俺は慌てて涎をぬぐった。


「いただきます」


 言うのと同時に、肉にかぶりついた。思わぬ熱さに一瞬顔がゆがむが、それを差し引いても……美味い!かぶりつくたびあふれ出る汁が、素材そのままでも許せるくらいに味を出している。


 そんな至福の食事を終え、火の番をする。今でこそこの不思議植物のおかげで身を隠しているが、それ以外は身を隠せる場所はないため、ほとんど寝るつもりはなかったが、焚火のぬくもりに身を任せていると、次第にまぶたは重くなり、それを慌てて止めた。

 月を眺めてみても、野営を始めた時と位置がさほど変わらないため、夜はまだまだ長いということを暗に示していた。

 

「とりあえず、周りを見てみるか……することないし」


 そうつぶやいて立ち上がる。足に若干の重さを感じ、さらに立ちくらみまで起こるが、こんなだだっ広い草原の真ん中で眠ることはできない。身を隠す場所がないし、よく考えてみれば、この世界の危険度がわからない。森での経験から、魔獣ですら気温を高くしたり、といったような俺にとっては未知の技術、『魔法』を使えることがわかっている。

 さらに、百歩譲って魔獣を置いておくとして、一番危険なのは、人間と遭遇することだ。ある意味魔獣よりも恐ろしい。命の軽いこの世界で、魔法という点でアドバンテージを譲っている俺は、何をされてもそれに対抗する手段がない。それに、命が軽いのなら体術や剣術などの、生き残る術を持っていてもおかしくない。

 つまり、現状で俺がほかより優れているのは、話術や駆け引きといったものであるということだ。それも比較対象がいないのでいかんとも言い難いが。


 そこまで考えて、閉じていた目を開ける。立ちくらみは治ったようで、体の平衡感覚がもとに戻った。

 あたりを見わたす。ここは草原である、と先ほど述べたが、その草の背は場所によってまちまちである。最たるものは草の塊だが、目立ちすぎる。

 そろりと草をかき分け、外を確認するが、見渡せる限りでは異常はない。念のため音を立ててみるが、やはり気配はない。


「しかし、なんにもいないな……」


 時折吹きすさぶ風が、草の隙間から入ってきて、青臭い空気を俺の鼻腔に広げる。

 ため息をつき、再び座り込む。膝を抱えて、俺は頭をうずめた。見上げれば、青と赤の月。地球とはかけ離れているその光景は、確かに俺の前に存在していて。俺は笑った。

 

 カサカサ、とどこからか音がする。

 それに気づいたとき、俺は初めて、寝てしまったのだ、と認識した。身動ぎするが、特に変わったところはない。

 かさかさ、カサカサ。

 またこの音か。うるさいな。

 まだ寝ぼけ半分の頭でそんなことを考えながら、音に耳を傾けていると、今度はカチカチッという、まるで石どうしを打ち付けているかのような音。


「……ん?」


 なんだか聞き覚えがある。

 俺はゆっくりと目を開ける。まだ視線は膝の間の地面に埋まっており、音は前方から聞こえてくるようだ。

 その時、またカチカチッという音。

 ああ、そうだ。百一体ビスクドールの館に行く途中、レンがよく襲撃されていたアレの、威嚇する音によく似てる。

 冷や汗を垂らしながら、そばの剣をつかむ。たぶんそうなんだろうな、と思いながら、俺は思い切って顔を上げ、


「はは、オワタ」


 予想通りの光景に、泣きそうになった。ギラリと光る、鋭い針。紫と黒の縞模様。二度刺されると死ぬ人もいるという、厄介極まりない生物。


「……カチカチッ」


 そう、スズメバチだ。普通の。

 体色が紫であることと、本家より五十倍ほど大きくなければ。

 こうして俺の異世界エンカウントその二は、昆虫と相成ったのだった。




 昆虫との遭遇。

 ようやく戦闘シーンがかけます。あとほかの人も。

 ヒロインはまだ先の予定なのですが。

 では、お付き合いありがとうございます。

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