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龍の紋章  作者: 森見幸成
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命のやり取り、出でて嗤うモノ

 少し厨二っぽいタイトルですかね。大丈夫ですかね。

なんだかんだ戦闘できなかった。無念。では、どうぞ。

  命のやりとり、出でて嗤うモノ


 目の前の脅威に、笑みを浮かべたまま固まる俺を訝しげに思ったか、再びカチカチッと口を鳴らす紫色のハチ。

 

「……」


 それを前にして、俺は必死に思考を巡らす。というか、選べる選択肢は実に少ないのだが。

 一つは、逃げること。ちなみに俺はこれを一番推している。

 もう一つは、この剣とわが武士道精神を以て粉骨砕身で戦う。

 突拍子もなくていいのなら目の前のナイスビーとジンの時のように交流を求めてもいいが、ハチが口を鳴らすということは、すでに敵意を持っているということだから、これが一番無謀である。

 自分でも呆れるくらいの速さでこれらのことを考え付き、どうするかな、と剣の鞘を握る。

 それがいけなかった。

 その行動に警戒心をマックスにしたハチが、その尻についている凶器を弓のように引き絞り、放つ。


「―――ッツ!」


 ほとんど、本能でその針を交わす。放たれた一撃は俺の耳に不快な音を届けながら、草の塊に突き刺さった。ジュワッというなんとも嫌な音に、転がるようにして横に転がり、草の塊から抜け出す。途端に朝日が向こうに見える地平線に見え、一瞬目がくらんだ。

 咄嗟に目をかばい、ハチの居る草を見る。先ほど針が刺さったところは、無残にも溶けてしまっている。

 どうしようもなく冷や汗が背中をつたい、俺は倒せる根拠もないのに剣を抜く。せめて牽制に使えればいいが。

 数瞬の間のあと、即座に飛び出してくるハチ。今度はすでに針をこちらに向けたまま突進を見舞った。ほとんど直感で前方に転がりうつぶせになり、ビュン、という音と共にそれをやり過ごす。

 すぐに立ち上がり駆けだした。鞘は捨てて剣だけ右手に持ち、できるだけ速く。

 と思ったら再び襲撃を仕掛けてくる。そのたびにかわし、でたらめに走る。


「らちが……開かない……!」


 すでに絶え絶えになっている息を整えるべく、俺は止まった。ハチの方をせいぜいにらむと、ハチは、どこかあざ笑うようにカチカチッと口を鳴らす。

 俺は剣を正眼に構え、襲撃に備えた。それに、一瞬逡巡したような間ができ、そして、さらに馬鹿にしたように素早く口を鳴らした。 

 その行動に不審を感じ、俺は気合を入れた。

 あの鬼畜道場で培った身体能力で、命を奪う。それも、一撃で。

――殺るしかない。それが、俺に、できるか。

渇く唇をなめて、きっとにらんだ。


 しかし、その考えが甘かったことを、ハチが嗤ったことの意味を、俺はハチの次の行動で思い知った。

 先ほどのようにまっすぐ突進してくるハチの軌道にタイミングを合わせ、剣を振る。充分な速さで振られたそれは、ハチの頭にヒットする。

 十分な手ごたえ。やったか、と一瞬思い、次の瞬間には驚愕に変わった。

 手ごたえとともに、腕全体にしびれるような感覚、そしてその後に骨を叩き割られたような衝撃が走った。


「ぁ、ぁ」


 その衝撃は脳にも達したようで、俺はその場で倒れる。何故、その二文字だけが脳裏にひらめき、ハチを見上げた。

 すると、ハチの頭頂部は白く光っており、俺を見下すように一瞥すると、頭の光を消す。消える瞬間、蛍のように明滅していたことから、ああ、これが魔法なのか、とどこかで納得する。

 

「殺れるかじゃ、ねーだろ……」


そう自嘲すると同時に、ついに前のめりに倒れる俺の体をねめつけるように見て、ハチは口をぐわっと広げた。恐怖を催すような暗闇が見え、唾液のようなものが糸を引いている。

 そして極めつけは、その後だった。

 その暗闇から、何か細長いものが出てきて、ぼやけ始めた視界にやっと焦点を合わせると、それは、ドリルのような形状をした触手。もう笑うしかない。


 触手が迫る。俺はせいぜい衝撃に備えて目をつぶり、そしてなかなかその時がやってこないことに疑問を感じ、ゆっくりと目を上げた。

 触手は確かに俺の体に触れている。だが、それは俺のつけているマントに先端が当たっている、ということであり、そこから先はまるで時が止まったかのように動いていない。


「……ジンに、感謝だな」


 このマントも、特別なものだったようだ。

 しかし、惜しむべくかな、マント以外にはきちんと刺さる。結局脇腹に触手をねじ込まれ、軽々と持ち上げられた。


「がふっ……」


 そんな声が出て、口から血の混じった唾が、どうしようもなく吐き出された。

 ゆっくりと、カチカチッと口を鳴らすハチの目の前に持ってこられる。そして、ハチがそのおぞましく大きな口を、存分に開いた。


「――――!?――――!」

「……なん、だ?」


 どこからか、声が聞こえる。その方向に目を向けてみれば、銀のロングの髪をなびかせた中世的な美しさを持った人が、こちらにかけてきているようだ。

 ああ、少し、遅かったな。そんな勝手なことを思い、俺は自嘲気味に笑った。

 命が軽い、ということの重みを思い知った。そして、自分の弱さも。このハチの強さは分からないが、少なくともこの世界のすべての生物より、自分が劣っていることは確かだ。

 なのに、倒せるかも、と挑んだのは一重に俺が浅はかだったから。なににも勝って、俺の油断と慢心が招いたことだ。素直に受け入れよう。


「特に、未練のある人生でも、なかったしな」


 急に言葉を発した俺に、一瞬口を広げるのをやめるハチ。その眼は、どこか度し難いものを見るような色が浮かんでいた。

 ああ、解るような気がする。俺も、人生の終わりを迎えるという今になって、自分を計りかねているのだ。

 ……左を見れば、必死な表情を浮かべる女性。何故、そんな表情を浮かべているのか、分からない。

 俺は、こんなにも……。

 ハチがとうとう口を閉じようとした瞬間、俺の意識は暗転する。俺の口の端が、いやらしく歪んでいるのを、どうしようもなく感じながら。


――――――――――――――


 目の前で口を閉じる雑魚を、冷たい目で見つめる。口の端を嘲笑するように持ち上げながら、我は、静かに憤っていた。

 

「強者と弱者の区別すらつかぬか、愚か者が」


 途端、硬直したように動きを止める。それを気にせず、思い出したように、我は笑った。


「ああ、そうだった、そうだった。我は、いや、『コレは』先ほどまでは、『弱者』だったのだったな……うっかりしていた。いやはや……侮られたものだ」


 笑みを消し、恐怖の色を浮かべた雑魚をにらむ。

 ああ、腹が立つ。この脆弱な体にも、元の姿で力をふるえないのも。なにより、ヒトの中に存在し、同化しているという事実だけで、国を二つは滅ぼしそうだ。

 

「おっと……これは、使えるようだな。この成長速度だけは、なかなか稀有だ。いつか存分に使ってやろう」


 光栄に思うのだな。

 我ながら傲慢だと思う言葉を、内なる世界の昏い部分、そこに今横たわっているヒトの意識に送った。まあ聞こえるとも思えないが。

 そこまでを実にゆっくりと行い、我は、ようやっと動くことにした。


「そら、受け取れ、人間」


 途端、こやつの左肩が、円の形に熱く脈動するのを感じる。一瞬遅れて溢れ出す力をこの小さな体になじませて、ぎりぎり放すことのなかった剣をしっかりと握り、そして、

 嗤った。


―――――――――――――――――


 とある用事の帰り道のこと。腰に提げたレイピアの柄をいじりながら、鼻歌混じりに、私は「ラウ草原」と呼ばれる地帯を歩いていた。


「今日は『寝草塊』がよく生ってるわね」


そう遠くないところのそれを見ると、青々とした草葉がきれいな球の形を成していて、ちょうど今が使うのにいいころかもしれない。


「今回はスムーズに依頼達成できたし。これは久しぶりにロイ君から臨時収入がもらえるかも。それに、もしかして、もしかすると……」


 そこまで言って、自分の顔がどうしようもなく上気しているのを自覚し、あわててあたりを見回す。まさかこんな『聖域』付近の危険な場所に誰かがいるはずもなく、ほっと胸をなでおろす。

 はあ、とため息をつき、パン、と両手を自分のほおに打ち付ける。


「依頼は、帰るまでが依頼だっ、と」


 そう言って再び歩き出す。実際ここが危険地帯であることには変わりがないのだ。安全な場所に着くまでにまだまだ距離がある。油断はしない。

 すっと目を細め、それとなく意識を周囲に散らし、歩き出す。研ぎ澄まされた感覚が、外敵の存在の有無を知らせる。

 そして、違和感に気付いた。


「あれ?なんか、来た時よりも少ないわね……しかも残ってるのは大物ばかり」


 そう、少なくとも周囲に千歩ほどには、何もいない。この距離なら向こうも襲ってこないだろうし、居ないに越したことはないのだが。

 まあ、いいか、と歩き出そうとした時、ちょうど左の方で、異様な反応を察知する。

 それは、魔獣と、人間のものが、一つずつ。それも人間の方は焦っているのか、ひどく気配が乱れている。


「どうしてここに人がいるのかしら……ハア、折角帰れると思ったのに」


 そう言って、私は走り出す。その足取りはとても軽く、地面を滑るように走る。四元素、『風』を利用した魔法の行使により、まさしく風のように。

 だんだんと反応が濃くなってくるにつれ、私の顔は険しいものとなっていった。

 魔獣の方は、中の最上クラスといったところだろう。かなりの上位種だが、今はどうでもいい。問題は、人間の方の反応が、希薄になっていることだ。

 正直実力を見誤った馬鹿がここに挑んだ、とあたりをつけているが、見捨てるのは、『ウチの』理念に、大きく反するのだ。

 まあ苦笑してしまうようなものなのだが。


 そして、その光景が目に入って、私は焦る。


「ちょ、もう捕食行動に入ってる!?これじゃあ……間に合わない」


 眼前のハチ型魔獣、名は「ワスプ」だ。それも体表が紫であることから魔力保有量はかなりの上位。触手から生体への干渉でのみ魔力を内に貯めることができるため、これまでにかなりの場数を踏んでいるということだ。

 そのワスプに触手をねじ込まれて吊るされている少年には悪いが、行動が終わったすきを狙うしかない。私は腰のレイピアを抜き、気配を押さえて今度は魔法なしで駆ける。

 その時だった。


「……ら、……とれ、人……」


 絶体絶命である少年の口元が、まるで小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、何事かを呟いた。途端、彼の左肩に光が集まる。私はそれが何かを知っている。


「『紋章』の発現……?この年で……?」

 

生まれたての赤ん坊ですらその身に宿す『紋章』。その出現の状況と、眼前で繰り広げられる状況は、全く同じもの。もしや彼は魔の類なのか、と疑うが、私と同じ、ヒトの気配しかしない。

 そんなことを考えているうちに、発光は止む。すると、何かを察知したかのようにワスプは威嚇音と共に少年から触手を抜く。急に自由になった体は、行き場を失いまっすぐ落ちる。もちろん脇腹からは血が流れていて、早急の処置が必要だ。

 参戦しようと走り出そうとした時、目の前で落下して地面に落ちた少年が、ユラリと立ち上がった。

 口元はやはりいやらしく歪み、首を二、三度横に振ると、剣先を持ち上げ、見たことのない独特の構えを取る。


「――く、……のない」


 少年はまた何事かを呟くと、『紋章』を使用した。

 途端、言いようのない怖気が走る。先ほどまではどこか温厚そうな雰囲気に包まれた魔力が、膨れ上がり、伝える印象を冷たく、いやらしいものへと変えていた。

 その魔力に怖気づいたか、ワスプは少年に背を向け逃亡を図る。充分に加速し、羽にまとった魔力から、本気で逃げに徹していると分かる。

 普通の人間なら、追わない。だが、少年は足にためを作り、魔力をまとう。


「ちょ――!?」


 私はその行動を計りかね、声を掛けようとするが、すでに少年は駆けだしている。

 いや、それでは不十分だ。

 消えたのだ。そして、一瞬遅れて「ピイいいいい!」という断末魔。見れば、ワスプは頭から真っ二つに斬られており、その少し先で納刀している少年。

 圧倒的で、ちぐはぐ。それが私が少年に抱いた感想だった。

 話を聞こうと近寄ろうとした時、ふらりとその体が揺らいだ。


「えー……」


 本当に、ちぐはぐだった。

 ともかく、『回収』ね。

 そう嘆息して、私は少年のもとへと駆けた。







 ようやく次話投稿。そして人との遭遇。むしろこっちがメインだったかも。

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