終話 帰還
何も言わないで下さい。
ただ、それでも私は遊び半分で作り出した作品でありません。
一ヶ月後。
学園を退学になったアルバーナは何をしていたかというと、護衛を兼ねる条件で行商人の馬車に便乗して辺境の地へと向かっていた。
「まあ、遅かれ早かれこうなることは分かっていたけどな」
振動に揺られながら想いを馳せるのはカナザール学園のこと。
一ヶ月にも満たない僅かな期間だったが、それでもアルバーナの胸に郷愁を呼び起こさせるには十分だった。
「思えば一月以上同じ場所に留まったのってそれが初めてだったな」
アルバーナの記憶を遡ってみても、ロックとずっと旅をしていたせいか常に移動している。
「それほど居心地は良かったと言うべきか」
さすがロックが勧めた学園だと思う。
放浪癖のアルバーナがずっと一ヶ所に留まり続けられたのは偏に学校の雰囲気が良かったからだった。
だが、アルバーナはその場所を蹴ってまでも己の信念を貫き通す道を選んだ。
あの時、呼び出されたアルバーナは『素直に己の説を撤回すれば処分を軽くする』と誘惑されたのだが、彼は迷いもせずにそれを拒む。
確かに学園に留まり続けるのはアルバーナに取っても魅力的なのだが、ロックの遺言を捻じ曲げてまで残ろうと思わない。
アルバーナからすれば学園を去ることは痛いと言えば痛いが、それでも致命傷にならない。多くの地域を旅してきたアルバーナは学園などその一部でしか過ぎない。
しかし、ロックの説は否定できない。
そうすることはロック自身の否定となり、ひいてはこれまで付き従っていた自分を否定することに通ずる。
ゆえにアルバーナは退学を選んだ。
これまで歩んできた時間を否定するぐらいなら死を選ぶ。
そんな一念があったからこそアルバーナは退学になったことをそれほど悔やんでいなかった。
「新天地へと向かってみるか」
アルバーナはそんなことを呟く。
本来なら塾でも開こうと思ったのだが、あんなことがあった手前しばらくはサンシャインにおれまい。
少なくとも十年は旅でも続けようかと考えていた。
「心残りと言えばフレリアやあいつらに最後の挨拶が出来なかったことだな」
上が出した条件の中には二度と彼女達に接しなければ迷惑は掛からないということである。
なら、そんなに危険を冒してまで合う必要はないだろうと考えていた。
アルバーナは瞑目してそれらの思考を振り払う。
もう思い起こさない。
アルバーナの旅で身に付いた特技として、忘れようと思ったことがらはすぐに忘れられる技量があった。
アルバーナは記憶から削除しようとしたのだが当然浮遊感に襲われ、気が付いたら懐かしい部室にいる。
「おい、カナン。またお前は呼び寄せただろう」
久し振りの呼び寄せに関わらずアルバーナは全く動じずに聞くと。
「申し訳ありません。ただ、これが最も効率が良かったので」
カナンが礼儀正しく頭を下げるのも慣習だった。
「もういい……さて、全員揃って何の用だ? 俺はすでに退学となった身なのだが」
この場にはカナンの他にフレリアやメイプル、シノミヤとエイラや翡翠そしてヴィジーも集っていた。
「なに、面白いことがあってね」
ヴィジーはそこはかとなく愉快そうな声音で口火を切る。
「さよう、それは真に愉快な出来事でござった」
翡翠は当時のことを思い出しているのかクツクツクツと喉を鳴らす。
「学園側にとっては汚点以外の何物でもないですけど」
エイラは頭を押さえて憂鬱げなため息を漏らす。
「生徒会役員としてもあんなことは二度としたくないな」
シノミヤが乾いた笑いを漏らしていることから大変なことでも仕出かしたのだろう。
「今回だけですよ! 今回だけユラスに動きましたから!」
メイプルがふんぞり返るのは別に構わないが、何に対してそんな偉そうな態度を取っているのかアルバーナに説明しても良いだろう。
アルバーナは片眉を上げながらカナンに問いかける。
「……薄々勘付いているが一応聞いておこう。カナン、一体何をしでかした?」
「それは私から説明するわ」
カナンの代わりにフレリアが胸を張ってフフンと鼻を鳴らす。
「ユラス、あなたの退学は取り消されたわよ」
予想通りだったのでアルバーナとしては苦笑するしかない。
「どうしてそれが可能だったのか聞いても良いかな? あのお堅い連中を説得させるには相当骨が折れただろう」
「その通りね。向こうは凄い反発していたけど結局は呑まざるを得なかったのよ。何せ蜂起など起こされたらそれこそ大変なことになるからね」
フレリアがフフフと黒い表情で微笑み、皆も相槌を行う様子から本気で実行しようとしたのだろう。
「……何故出来た?」
アルバーナがそう尋ねるのは彼の頭の中で学園の生徒が蜂起するという事実が信じられないからである。
カナザール学園の生徒は基本的に良い子が集って来ているので、そんな反社会的行動など容易に実行へと移せないだろうとアルバーナは踏んでいるのだがカナンは首を振って否定する。
「ユラスさん。この学園にも潜在的に反乱意志を抱えた生徒は多いのですよ。何せ周りから神童やら天才やらと持て囃されたのに、この学園では凡人扱いですのでその事実に耐え切れない生徒が賛同してくれました」
「他にもユラスのトークに感動し心酔した生徒も協力してくれましたし」
メイプルは不満げな様子でカナンの説明に補足した。
「お前ら……一体何をやっているんだよ」
アルバーナとしてはもはや呆れるしかないのだが、エイラはハハハと笑いながら。
「全ての元凶であるユラスさんが何を言っているんですか」
「その通り。ユラスが元からいなければこんな事態など絶対に起こらなかったよ」
エイラの言葉をシノミヤが引き継いで嘆息する。
そして止めとばかりに。
「いやあ、本当にユラス君と共にいると飽きないね。巻き込まれて正解だったよ」
ヴィジーがニカッと憎たらしい笑みを浮かべた。
「言っておくが俺は学園に戻る気はないぞ」
その言葉に場が凍りつく
「一ヶ月ほど在学して分かったことだが俺は学園生活というのが向いていない。なので折角の好意は悪いが受け取ることはできないな」
そう言いは無かったアルバーナは部室を出て行こうとするのだが。
「待ちなさいユラス」
この騒動を引き起こした張本人であるフレリアはアルバーナの前に立つ。
「ユラス。これであんたの退学は取り消された。だからあなたは学園に戻ってきて」
「もし断ると?」
アルバーナの意地の悪い質問に対してカナンがいつもと同じ微笑みを浮かべながら。
「私が説得し続けます」
カナンから離れられないアルバーナからすればそれは選択肢が無いと言える状態だろう。
「ハハハ、それは実質強制じゃないか」
まあ、アルバーナにしても心の底ではフレリア達と共に過ごす時が心地よいと感じていたのでフッと笑った後に了承した。
冒頭に述べた通り、もしフレリアが生徒会に入ってアルバーナから離れていたのなら新歓の乱入や生徒達による蜂起など起こらないし、彼のその性格上、いずれ学園を去っていただろう。
しかし、フレリアはアルバーナと共にし、数々の伝説を打ち立てたことによって教育国家サンシャインの命運を伸ばすことに成功している。
何故なら、アルバーナが素直に学園から出て行った別の未来においては彼を総大将と置いた革命軍がバースフィア大陸全土を巻き込んだ革命を起こし、腐敗しきったサンシャインを滅ぼしていたのだから。
多少日を置いて改稿版の執筆に取り掛かりますが、全体の流れとしてはこんなものです。
以下はアンケートです。
暇があればお答えください。
1.全体の流れに違和感はありませんでしたか?
2.描写するべきだと思う設定はありますか?
3.要らないと思われる描写はありますか?
4.その他にも要望があればアイディアを頂けると嬉しいです。
以上です。
ありがとうございました。




