22話 報復
「……一体どういうことなのよ?」
フレリアの問いに答える者はいない。
「--っ!」
今、この場にいても埒が明かないと判断したフレリアは教室へと向かうが、当然そこにアルバーナの姿はない。
その足で部室へと向かっても同じこと。
そして、最後の望みをかけて時計台の屋上へ歩を進めても結果は同じだった。
「何が何だかわからないわ」
普段アルバーナが座っているであろう場所にペタンと腰を下ろしたフレリアは呆然と呟く。
「やっぱり先日のあれが原因?」
フレリアの脳裏に思い浮かばれるのはあの体育館での乱入の出来事。
アルバーナは意外にもそれといって目を付けられるような騒動を起こしていない。
皆と同じように授業を受け、質問する際も手を挙げるなど決められたルールを順守していた。
「意味のない騒動を起こしても仕方ないからな」
それがアルバーナの口癖だった。
「その通りですよフレリアさん」
いつの間にフレリアの背後に忍び寄っていたのか。
いつもより固い調子の声音をカナンは出す。
「……カナン」
フレリアが振り返った先にいるのはご存じカナン。
だが、その表情は普段と全く違っている。
いつもは曖昧な笑みを浮かべているのだが、このときは全くの無表情。
それこそ無機物の人形を連想させる冷たい能面のような面持ちだった。
「フレリアさんの想像通り、ユラスさんは先日の件での責任を取らされて退学処分となりました」
カナンは続けて。
「ユラスさんは全て自分がやったことだと、自分がそうするよう命令したと言い張ったため私達の処分はありません」
「……そう」
今のフレリアは多少混乱していたが、それでもアルバーナの心境が良く理解できる。
昔からアルバーナは自分という存在を軽く考えている節があり、己が犠牲になることで他が救われるなら喜んでその選択を選んでいた。
「ユラスは何て言っていたの?」
カナンはアルバーナ限定でいつでもどこでも呼び出せることができるので、おそらく事態を知ったカナンはすぐさまアルバーナを呼び寄せただろう。
するとカナンは僅かに唇を噛み締めた後に口を開き。
「いつも通りでした」
その当時の状況を思い出しながらカナンは続ける。
「退学処分を出された直後であったにも関わらずユラスさんは動じず『後は頼む』と残すだけでした」
「……やはりユラスはユラスね」
その時の状況が手に取るように分かる。
カナンが横で何事か喚いている横でアルバーナはただ口元に笑みを浮かべて大丈夫とばかりに手を振っていただろう。
「カナン、ごめ――」
フレリアは謝罪の言葉を述べようとした瞬間、真横から魔力の歪みを察知したので反射的に体を横に倒す。
「あんた……」
フレリアの金色の髪が数本ハラハラと舞い落ちる。
「空間転移でナイフを出現させるとかやるじゃない」
フレリアの視線の先には刃の一部が彼女の顔があった先に浮いていた。
「避けましたか」
カナンはそう淡々と述べた後その刃を消失させる。
「けど、いつまで避けられるのか分かりませんよね」
「--っ!」
今度は二本。
一本目を避けた場所に二本目が来るよう巧妙な配置だった。
「一体なんの真似よ!」
フレリアは火炎球を作り出しながらカナンに吼えると、彼女はようやく笑みを作って。
「お仕置きですよ。あなたのせいでユラスさんに多大な迷惑が掛かってしまいましたから、その躾をしておかないと」
カナンは何本もの短剣を指の間に挟みながらそんなことを述べる。
「何、殺しはしませんよ。ただ、その美しい顔に消えない傷痕でも作っておこうかと思いまして」
「何のために?」
「その傷を見る度に、指摘される度にフレリアさんは此度の罪を思い出すでしょう。『ああ、自分は何て馬鹿な真似をしてしまったんだ。これからは二度とこんな所業は起こさない』と固く誓わせるためですよ」
「っ!」
カナンの眼を見る限り彼女は本気だ。
本気でフレリアを断罪しようとしている。
フレリアからすれば多少仕方ないと考える節があるが、それ以上に本能がカナンの断罪を受けることを拒否していた。
何とかしてカナンを説得しなければ。
今、フレリアの脳内はそれだけを考えている。
彼我の力量でいえばフレリアの方が数段上をいっているので、この場でカナンをねじ伏せることは簡単だ。
しかしカナンはその神出鬼没の空間魔術を使ってフレリアを追い詰めてくる。
フレリアも超人ではないので四六時中警戒なんて出来るわけがない。
寝ているときに狙われたらどうしようもないのだった。
「カナン、少しだけ話し合いましょう」
ゆえにフレリアはカナンに討論を持ちかける。
カナンの断罪から逃れるためにはその心を折る必要があった。
「あなたは私のせいでユラスが退学になったから裁きを下そうとするのよね」
その言葉にカナンは頷く。
「そうですね、あなたが余計なことをしなければこんな事態にはなりませんでしたから」
余計なこと。
その言葉に一瞬カチンときたフレリアだが、魔法をぶっ放すと全てが台無しとなってしまうため発生した怒りを飲み込む。
「けどね、ここで考えてみて。ユラスは間違っても規則に従う性質じゃないわ。遅かれ早かれ上から目を付けられていたわよ」
「ええ、だからユラスさんは普段から細心の注意を払っていたのですよ。目的のために彼を妬む勢力から揚げ足を取られないよう変な行動は慎んでいましたが、あなたがその苦労をぶち壊しにしてくれました」
「ちょ、ちょっと待ってカナン!」
カナンの眼に暗い色が混じったのでフレリアは慌てて話はまだ終わっていないと告げる。
「ここで大切なのはいくらユラスが気を付けたところでも意味がないということよ」
「どういうことですか?」
「カナン、あなたは頭に血が上ってあまり考えられないようね。失点というのは無ければでっち上げるのが人間というものよ。だから遅かれ早かれユラスは退学処分になっていたわ」
「ふうん、つまり自分は悪くないと仰るわけですか?」
カナンの嘲る様な質問に対してフレリアは首を振って。
「私が言いたいのは敵を間違えるなということ。今、ここで私を断罪したところで何も解決しない。むしろ黒幕は潰し合ってくれたとほくそ笑むでしょうね」
「……」
カナンはフレリアの言葉に一理あるようだ。
腕を組み、考え込むかのように細い顎に指を当てている。
「……」
フレリアはそんなカナンの様子に固唾を呑んで見守る。
ここでカナンが矛を収めてくれるのなら良し。
もし収めないのであればさらに言葉を重ねるだけである。
一秒、二秒と僅かな時間だが、それでも息の詰まるような静寂の後カナンは口を開いて。
「……なら、どうすればよろしいのですか?」
ようやくカナンはフレリアの意見に耳を傾ける気になったようだ。
その事実にフレリアは内心安堵で喜び跳ね回っていたが、それを面に出すような愚行はしない。
「ユラスの退学を取り消すための考えがあるわ」
まだ危機は過ぎ去っていない。
少なくともカナンが納得するような結果を残さなければフレリアは一生カナンに怯える生活を余儀なくされるだろう。
身の安全のためにも、そして今回の出来事の後始末をつけるためにもフレリアはカナンと顔を突き合わせて相談する。
授業の始まりの鐘がなろうともフレリアとカナンはまるで気づかず、ずっと話し合っていた。
おそらく後1、2話で終わります。
そうなってしまったのは天才を主人公に置いたこと、そして三人称視点で物語を進めることに疲れが見えてきてしまったからです。しかし途中で投げ出すような真似はせず、私のプライドにかけて完結までは書き進めます。
冒頭、あそこまで大見得を切ってしまったことに関しては謝罪するしかありません。
早いところ完結させ、皆様から頂いた意見・指摘をもととした『改・教育国家サンシャイン』の執筆に取り掛かります。




