15話 苦渋の決断
ここは部室。
アルバーナが解散と宣言したので、誰もいないはずなのだが。
その一時間後には現在二名が部室内にいた。
その内の一人は険しい顔をして天井を睨んでいる。
「期待はしていなかったがな」
アルバーナは嘆息しながらそう漏らす。
生徒会室にメイプルの言動を謝罪そして説得を試みたアルバーナだったが、結果は芳しくない。
「メイプルの所業は不問とする言質を取ったのは良かったが、やはり新歓の参加禁止を撤回出来なかったな」
「お疲れ様です」
そんなアルバーナにカナンは湯気の立つカップをアルバーナの前に置いたのでアルバーナは礼を言ってカップに口を付ける。
「書類不備については俺達の部よりもっと酷い書類の出来で、かつ提出期限が遅れた他の部や今年創設された愛好会も書類審査に通っていると例に挙げてみたが、まともに取り合ってもらえない」
知的教養の高いカナンが作成し、教師であるエイラが審査した書類など例え国に出したとしてもOKが貰える出来である。
しかし、現実には通らなかった。
「あの……実はもう一つ悪い知らせが」
おずおずとカナンは口を切る。
カナンは理事長のと繋がりがあるので生徒会に下る情報よりも早く正確に耳に入る。
あの時皆が怒り狂っている中でアルバーナが平静でいられたのは前もって知っていたからであった。
「構わん、話してみろ」
カナンの様子から決して良い知らせでないことは分かっているのだが、だからと言って耳を塞ぐのは愚者である。いや、悪い知らせこそ吉報より重大な価値を持っているのだ。
「はい……私達は新歓期間中、空き教室を使って公演を行う予定なのですが、おそらくそれも認められないでしょう」
「……徹底的にやってくるな」
アルバーナは苦虫を噛み潰した声を出す。
アルバーナの予定では体育館の発表で衆目を集めた後、適当な教室を使って討論会を行う予定だったのだが、体育館の発表どころか討論会を行うことすら許さないつもりらしい。
「後悔していますか?」
カナンが茶目っ気を含みながらアルバーナに聞く。
「今から自分の説を曲げ、ユラスさんが論破した学者さん達に頭を下げれば何とかなるかもしれませんよ?」
「ハハハ、それは面白い冗談だな」
アルバーナは肩を震わせて笑う。
「そんな提案を俺が飲むと思うか?」
ニコニコと笑うアルバーナにカナンは首を振って。
「いいえ、絶対に妥協しないでしょう」
「ああ、その通りだ」
アルバーナの答えがもう分かっていたのか、カナンは提案を断られても終始笑顔のままだった。
「はてさて……これからどうするか」
紅茶を少し口に含ませた後にそう漏らす。
「禁止されているのは新歓期間中の活動だけ。それを過ぎた後は通常に戻るからその時から始めるか」
「……今はそれしか手を打てませんね」
カナンの言葉を最後に重たい沈黙が横たわる。
野性味が滲み出るアルバーナと対照的な人形的美しさを持つカナンの二人だけという光景は絵になりそうだが、残念ながら二人とも深刻な表情を作っているので絵画にするまでにはいかないだろう。
「目下の問題はこのことを皆に話す時期だな」
紅茶が冷たくなるほどの長い沈黙の後、アルバーナが口火を切る。
「ええ、フレリアさんとメイプルさん、そして翡翠さんの三人はぶちぎれるでしょう」
公演が出来なくなった時でさえあれほど怒った三人。
追い打ちをかけるかの様な出来事など起こればどんな結果になるのか、それは火を見るより明らかだった。
「あの三人は俺から話す、だからカナンは他の三人をよろしく頼む」
「大丈夫ですか?」
カナンが心配そうに眉を寄せる。
「私も説得に入りましょうか?」
「カナン、その提案は嬉しいが、正直カナンがいると逆効果になりかねない。何せカナンは理事長の孫なのだからな」
フレリアはともかくメイプルと翡翠の二人がカナンに矛先を向ける可能性がある以上、アルバーナとしてはカナンを入れるわけにはいかなかった。
「……そうですか」
アルバーナの懸念が現実化する可能性が高いことを知ったカナンは不承不承ながらも了承する。
「なあに、心配するな。俺はもっと酷い修羅場に立ち会ったこともあるからな」
カナンが意気消沈しているのを見たアルバーナは元気づけようと殊更明るい声を出す。
「魔法をぶつけられたり殴られたりするだろうが、命までは奪おうとしないだろう。だから大丈夫だ」
アルバーナの言い方はまるで命を掛ける場に立ち会ったことのあるようだった。
「今回の出来事は俺が全てを背負う。だからカナンは気に病む必要はない」
アルバーナはそうカナンの肩を叩いた後、部室を出ていく。
そして残されたカナンは一言。
「ユラスさん……私はユラスさんのお役にたてるのなら何でもしますよ?」
カナンの想いを受け止めきれるのは多分ユラスだけです。




