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14話 暗転

さて、ここからが本番です。

「どういうことなのよ!」

 フレリアが目を逆さにしてシノミヤに責め立てる。

「そ、そんなこと言われても」

 対するシノミヤはすでに涙目だ。

 まあ、想いを寄せている人から怒りをぶつけられたら誰だって泣きたくなるだろう。

「フレリア、もう止めておけ」

 これ以上はシノミヤが可哀そうだと判断したアルバーナが重々しい口調で切り出す。

「カルロスはただ通達を伝えに来ただけだ。彼のせいじゃない」

 そう、シノミヤは生徒会役員を兼ねているので今の様に決まったことを伝えに来る場合がある。

「そうは言ってもおかしいじゃない!」

 聡明なフレリアのことだ。おそらく頭では理解しているようだが、感情が納得していないのだろう。怒りやら悲しみやらで憤懣やるせない表情になっている。

「私の力が及ばず、申し訳ありません」

「いいえカナンさん、あなたのせいじゃないわ。これは顧問の私こそ責任があるのよ」

 カナンが俯いて肩を震わせていたのをエイラが大丈夫とばかりにそっと背中をさすった。

「……この煮えぎたる怒りをどうすればよろしいのでござろう」

 無表情で低く呟く翡翠の様子から内心ではフレリアと負けず劣らず怒っていることを想像するに難くない。

「本当にごめん。僕も抗議したんだけど全然聞きいられなかった」

 シノミヤも辛そうな顔をしている。

「じゃあ、もう一度確認するが事実なのだな?」

 この中で唯一冷静なアルバーナの問いかけにシノミヤは頷き、同じことを繰り返した。

「『書類不備のため教育研究部の体育館での発表を許可できない』とのことです」

 向こうは書類不備とか言ってきたが、カナンとエイラが精査した書類に見落としなどあるはずがない。

 今、ここにいないメイプルは義憤を感じて生徒会に物申しに行ったそうだが、おそらく徒労に終わるだろう。

 だから頭に血が上って変なことをしないようにアルバーナはヴィジーに補佐させていた。

「もうそろそろ帰ってくる頃だな」

 アルバーナは時計を確認してそう漏らす。

 メイプル達が出て行ってからそろそろ三十分ゆえに、何事も無ければ二人は戻ってくるだろう。

「……ただいま」

 珍しくヴィジーが疲れた様子で入室してくる。普段からお茶らけているヴィジーも今回ばかりは疲れたようだ。

 表情こそ笑っているも疲労が色濃く出ていた。

「……」

 ヴィジーの後にメイプルが無言で付いてくる。

 目が真っ赤に腫れ上がっている様子から生徒会の学生と口論したと推測できるが、口達者な向こうに丸めこまれて何も言い返すことが出来なかったのだろう。

「……エイラ先生、メイプルをよろしく頼む」

 メイプルの心情を察知したアルバーナの言葉にエイラは頷き、メイプルを伴ってこの場から去っていった。

「御苦労だったなヴィジー」

 アルバーナはまずヴィジーを労う。

「お前がメイプルを抑えてくれたおかげで彼女が停学にならずに済んだ」

「『部が潰されてしまわずに良かった』じゃないの?」

「ヴィジー、その冗談は全く笑えないな」

「ヒィッ!」

 アルバーナの眼光が一際鋭くなったのでヴィジーは驚きに身が竦み上がる。

 アルバーナが最も恐れていたのは直情的なメイプルが頭に血が上って生徒会役員に殴りかかり、メイプルが今後の学生生活に重大な懸念が出てしまうことである。

「部の方は作り直せば良い。だが、人は作り直すことはできない」

 アルバーナの鋭い洞察力はメイプルを鋭く見抜いている。

 生徒会役員を害して停学になった。

 メイプルはフレリアほど弱くはないが、それでもこの事実は後のメイプルの人生において重い障害となってしまう。

 普段メイプルはアルバーナに泣かされていることから誤解されがちだが、メイプルはアルバーナの言葉に害意や敵意を持っていないから泣くのであり、もし悪意などが混じっていたのならメイプルは容赦なく攻撃を加えていた。

 そのくらい気持ち良いほど己の感情に素直なのである。

「本来ならこの後どうするのか話し合わなければならないが今日は皆、気が動転して上手く考えられないだろう」

 アルバーナは重苦しい沈黙の中、口火を切る。

「よって今日は解散。次の部活までに各々の気持ちに整理を付けてくれ」

 アルバーナはそう言い残し、自ら率先してこの場を後にする。

「ちょっ」

 去っていくアルバーナを引き留めようとフレリアが手を伸ばすが、アルバーナが歩いた後に点々とした赤い雫が落ちているのを見て口を噤む。

 フレリアを含めて全員の眼に映るのはアルバーナの右拳から滴り落ちる血。

 それはアルバーナがあまりの悔しさに拳を強く握りしめ、それゆえに爪が皮膚を割いて血が吹き出たのであった。

超展開だけは避けたいです。

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