13話 予兆
「さあ! 次はお待ちかねの、何故ユラス君に誘われて入ったかだ!」
一通り役割を決めた後、もう解散かという流れの時にヴィジーがそう宣言する。
「普通に考えて、首席でありながら入学式をボイコットするような変人であるユラス君に突然誘われて入るのはありえない!」
「じゃあヴィジーはどうなるんだ」
変人扱いされても眉一つすら動かさずそう指摘するアルバーナは認めているのかそれともどうでも良いのか。
「その理屈でいくとお前も変人という流れにいってしまうが構わないのか?」
「フフフ、安心したまえユラス君。何故ならボクは自他共に認める女好きだから問題ない!」
不敵に笑いながら堂々と宣言する様は褒めて良いのか悪いのか。
「まあ、そんなボクがどうして男であるユラス君に誘われて入ったのか説明しようと思うのだが、悪いが男性陣は御退場願えないかな?」
ぐるりと首をアルバーナに向けて頼み込むヴィジー。
「さすがのボクも本人を目の前にして論評するほど強くないよ。だから引いてくれると嬉しいのだけどな」
頬を微かに赤く染めて尋ねる様子から本気で照れくさいのだろう。
アルバーナとしても他人の評価に興味はないので了承し、シノミヤと共に出ていった。
「……僕は関係ないのに」
アルバーナと共に出ていくシノミヤが名残惜しそうにそう残していったのが印象的である。
「さて! では述べさせてもらおう!」
「パチパチー」
カナンの拍手はどちらかというと馬鹿にしている感じがするのだが、ヴィジーは全然堪えていない様だった。
「まあ、ボクがユラス君のことを知ったのはあの伝説の入学式だな」
「あれで名前を憶えない学生がいれば私は会ってみたいです」
メイプルが思わずそう零してしまうほど入学式ボイコットは新入生の脳裏へ強烈に焼き付いていたらしい。
「そんなわけでユラス君に興味を持ったボクは好奇心を抑えきれず、突撃してみたんだ」
「皆が敬遠している中話しかけるなんて、ヴィジーは凄いですねえ」
エイラがそう褒め称えるのは、カナザール学園に入学した学生の中で最も憧れである首席による新入生代表を挨拶をボイコットしたアルバーナを皆は畏怖と嫉妬の様子で遠巻きに眺めていたからだ。
「で? ヴィジーはユラスと話してどうだったの?」
フレリアは頬杖を突きながら尋ねるとヴィジーは頷きながら。
「うん、それはもう圧倒的だった。高身長で顔もまあまあ、鬼族でないにも関わらず黒目黒髪なのも面白かったし、何より彼の内側から溢れ出る何かに強く惹きつけられたね」
まあ、旅人出身のアルバーナは一般学園生より濃い時間を過ごしているのでそう感じても仕方ないだろう。
「ユラス君を例えるなら人の形をした竜という表現が一番しっくりくる。あれはボクが見てきた中でも超大物だね。少なくとも中途半端な気持ちで近くにいることはできない」
「それは私も分かります。私も会った瞬間心に決めましたから」
カナンはウンウンと頷きながら相槌を打った。
「そんなユラス君にボクは興味を持った。どれぐらい興味を持ったかというと、生まれて初めて男性をストーキングしてしまったほどだったな」
「あんた何やってんの!?」
ヴィジーが得意満面で語るとフレリアがそう突っ込みを入れるとヴィジーは手を振りながら。
「なに、若気の至りだ。しかし、すぐにばれてしまったけどね」
ヴィジー曰く、ストーキングの開始一時間で捕まえられてしまったらしい。
「いやあ、これでも小学生時代から意中の女子を隅々まで観察するために姿を消して一日中観察していたんだよ。だからそれなりに慣れていたはずなんだけどなあ」
ヴィジーはため息を吐きながらヤレヤレと首を振る。
「ヴィジー……とりあえずあんたは牢獄で大人しくしておきなさい」
フレリアが割と本気でヴィジーを連行しようとしたが、ヴィジーは悪びれず。
「良いけど証拠不十分ですぐに釈放だよ? 証拠を残すへまなんてボクがすると思う?」
「くっ……」
ヴィジーの言葉に悔しそうに顔を歪めてフレリアは座り込んだ。
ちなみにフレリア以外の面々も彼女と似たような心境である。
「まあ、とにかく」
さすがのヴィジーも失言に気付いたのかコホンと咳払いをして場を紛らわせようとする。
「ユラス君って一体何者なの? 少なくとも同じ学園生とは思えないんだけど」
そのヴィジーの呟きに答えるのはフレリア。
彼女は苦笑しながら。
「確かにね。幼少時からユラスは破天荒だったわ」
そのままアルバーナの武勇伝を語り始める。
「とにかく言うことやること全てが予想の斜め上を突っ走るのよ」
「ああ、それは拙者も理解できる。以前誕生日に何か欲しいと頼んだら真顔で世界一周旅行に連れて行ってあげるよと返されたからな」
「そう、私もどこかに連れて行ってとお願いしたら本気で旅に同行させられそうになったし。あの時は親もグルだったから真実を知った瞬間魔法をぶっ放してあげたけどね」
フレリアと翡翠はアルバーナの幼少時代を知っているのでお互いの話を頷きながら聞いている。
二人はそれで良いのかもしれないが、他の四人は蚊帳の外である。
「……まあ二人は放っておくとして。ユラス君は行動力のほかに知識もあるんだね。しかも相当深いレベルで」
ヴィジーの言葉にメイプルは苦虫を噛み潰した表情で。
「本当に嫌らしいぐらい高いですよ」
普段から泣かされているメイプルにとっては認めたくない事実なのだろう。
「あれでお爺様を否定しなければ私も素直に尊敬できるのに」
「あらあら」
そしてそんなメイプルの頭を優しく撫でるエイラ。
「まあ、でもユラスさんもメイプルちゃんも基本は似た者同士なんですよね」
「はあ!? ありえませんよ!」
エイラの言葉にガバリと顔を上げて抗議するメイプルだが、エイラの口調は変わらず。
「二人とも一途で真面目、お爺さんのことを大事に考えている」
思いたる節があるのだろう。
メイプルは唇をかんで唸っている。
と、ここでエイラは微笑んで。
「けど、二人の最大の違いは器の大きさかな。メイプルちゃんはまだまだユラスさんに敵わないけど、私の見る限り潜在的能力はほぼ互角だから、もしかするとユラスさんを超える日が来るかもしれない」
アルバーナとメイプルがここまで違ったのは環境によるものが大きいだろう。
片やお爺さんと付きっ切りで師事し、命の危機を何度も経験したアルバーナ。
片やお爺さんを尊敬の対象と崇め、家庭と共に幸せ一杯に過ごしたメイプル。
その違いが如実に表れていた。
メイプルもエイラの言わんとしていることが分かったのだろう。
俯きながら「わかりました」と答える。
「よしよし、良い子良い子」
そしてそんなメイプルはエイラはゆっくりと頭を撫でた。
二人の様子を離れて見ているのはカナンとヴィジー。
カナンは普段通り微笑んでいるが、逆にヴィジーは難しい顔をしている。
「うーん、メイプルちゃんはいつになったらエイラ先生に子ども扱いされることに気付いて怒るのだろう」
確かにメイプルは子ども扱いされると烈火のごとく怒り狂うはずなのだが、何故かエイラの前だと借りてきた猫のように大人しくなっていた。
「あれで良いんですよ。何せ部の貴重な癒し風景なのですから」
カナンがしみじみと漏らしたその呟きにヴィジーは「確かに癒される」と苦笑する。
「しかし、見事ですね。まさかあそこまで空気の悪かった状況を無かったことにしてしまうとは」
「まあ、修羅場は何度も経験しているからね」
ヴィジーの性癖と言動を考えればトラブルを大量に作ってしまうことは容易に想像できる。
しかし、それでも社会から拒絶されずにここまで来たのはやはり頭が良いのだろう。
「やれやれ、本当に困った方ですこと」
カナンのため息にヴィジーはクツクツと喉を鳴らしながら。
「ボクなんてまだマシな方だよ。しかし、よくもまあユラス君はここまで奇人変人を集められたと思うね」
その言葉と同時にヴィジーはぐるりと部室内を見回す。
見る限り学生同士が駄弁るのと変わりない光景のはずだが、ヴィジーの目には違ったように映るようだ。
「類は友を呼ぶということで納得してもらえませんか?」
「微笑しながら肯定されるとボクとしては頷く他ないね」
カナンの言葉にヴィジーは肩を竦めた後、真面目な顔をしてカナンに問う。
「で、聞きたいんだけど。ユラス=アルバーナはボク達を集めて一体何をするつもりかな?」
ヴィジーの質問にカナンは何かを言おうと口を開いたが思い直し、瞑目してこう述べる。
「シノミヤ=ケイスケが掲げた教育理念の提唱することによる既存勢力への挑戦」
「つまり国を敵に回すと?」
その言葉にカナンは頷いて。
「最終的にはそうなるでしょう」
言葉少なく語る。
「詰め込み式による儒教や帝王学など上にとって都合の良い部分のみを奨励しているのが現状。しかし、ユラスさんは何故かシノミヤ=ケイスケが元々住んでいたとされる別世界の学問全てを受け継いでいます」
「なるほど、それは上からすれば目の上のたんこぶだろうね」
ヴィジーが両腕を後頭部において呟く。
「ただでさえユラスさんは大学や研究所の学者を論破しています。なので何かしら妨害してくるのは必然でしょう」
「うわ~、怖い怖い」
カナンの言葉にヴィジーは首を振りながら。
「まあ、ボクとしては何かあればすぐ逃げ出せるように付かず離れずのこの位置でフラフラしておくよ」
その言葉と同時にヴィジーはドアに手をかけて開き、手を振って出て行く。
「……いいえ、あなたもすでにユラスさんに捕えられているのですよ」
ヴィジーが退出したドアをしばらく眺めた後、カナンは意味深な言葉を残した。
次回から起承転結の転に入ります。
ふう、ようやく物語を動かせそうです。




