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処刑された公爵夫人の死に戻り体験  作者: 観夕湊


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3.殺した本音にやすらぎを(3)

「では、ラウラ様のお力はマリアンナ様から受け継がれたのですね」

「そのようね。未来のあの子は表立ってこの力を使っていたようだけど、視えないものが視えたり、聴こえないことが聴こえるというのは必ずしも良いことばかりではないの。わたくしはあの子とは逆に聖女と言う立場を利用してこの力を隠してきたわ。問題を抱えているあなたを今回ステラーレに指名したようにね。とは言っても、わたくしもあなたのように未来から戻って来た方は初めてよ。……長い間、辛かったでしょう」


 全てを見透かしたようなマリアンナの言葉に、エヴェリーナは途端に落ち着かない気分になった。もしや自分は憐れまれているのだろうか。頬が燃えるように熱い。


(首を斬り落とされる最期の最後まで隠してきた本心を、こうも容易く見抜かれるなんて!)


 怒りと羞恥で喚き散らしたい気分だった。呼吸が浅くなり、無意識に顎に力が入る。


「でもこうして神々の采配により、あなた方にはやり直す機会を与えられたわ。あなたには辛いことかもしれないけれど、でも本当に良かった」


 まるで神経を逆なでされているかのようだ。感情の抑えが利かなくなる。マリアンナは大聖女などではない。単なる偽善者だ。でなければラウラを殺そうとした相手に平然とこのような言葉をかけられるはずがない。


「良かった? 一体何が良かったと仰るんです」


 気づけば淑女の仮面をかなぐり捨て、目の前の聖女に反論していた。


「あなたの後継者をもう一度殺す機会を私が与えられたこと? それともコルヴォ男爵と共謀して教会を再び陥れる機会が与えられたことでしょうか? とても正気とは思えません。私が未来で何をしでかしたかご存じであれば、その愚かさを責めることこそすれ「やり直せて良かった」などと口が裂けても言えないはずです」


 ラウラの毒殺をエヴェリーナに唆したのはコルヴォという下位貴族であった。もともとは商売人の家系だったが、先々代の当主が王室に大きな経済的貢献をしたことから騎士爵を賜り、更に先代当主も同じ功績を挙げたことから男爵位を賜った。

 しかし現当主は十五年後の未来、教会が自身の商売の邪魔になると判断し、少しでもその権威を失墜させようとラウラの毒殺を目論んだのだった。


 聖女に対しあるまじき物言いのエヴェリーナに、しかしマリアンナは穏やかに微笑む。


「アルディーティ夫人、あなたは少し誤解をしていらっしゃるようね。罪や裁きという概念は人間が作り出したもの。神々の世界に正しいも間違いもない。成功も失敗もない。彼らはただ、わたくしたちの選択を見守り、必要に応じて必要なことを与えてくださるだけ。そして不要な時に不要なことを阻んでくださるだけ。人としてどんなに間違った方向へ進んでいるように見えても、それはその人が選び、そして同時に必要なことだからこそ進むことを許される。わたくしたちは誰もが神々から愛されているの。「自分は誰からも愛されない」という勘違いから不幸な選択をしてしまう愚かさを許されるほどにね。そしてわたくしの仕事は、この事実を知る必要のある方に、適切な時期を選んでお伝えすること」


 大聖女の瞳が極光色に輝いた。その輝きにか、それとも静かながらに強い言葉にか、エヴェリーナは何も反論の言葉を見つけることができなかった。


「あなたはラウラを殺そうとしたことなど一度もない。コルヴォ男爵から受け取った毒薬は、事前に致死量や後遺症を調べて、あの子がギリギリ五体満足で生き延びられる程度に調整していたはずよ。男爵の計画を暴く証拠もわざと残していたわね。あなたは罪を犯したのではない。ご自分を犠牲にしてあの子を守ろうとしてくださった。「自分が死んでも誰も悲しむ人はいない」……なんて傷だらけな信念なのかしら。残されたご子息のお気持ちを、考えたことはなかった?」

「あの子は私を嫌っています。……憎まれて当然です。それほど厳しく躾ましたから」


 息子を立派に育て上げれば、いつか夫が自分の方へ振り向いてくれるはず。自分が女であることを惜しむばかりの父が、女である自分を認めてくれる日が来るはず。

 そんなありもしない期待に縋って懸命に、自分にも息子にも鞭打ってきた日々があった。しかし十五年の未来でそんな希望はただの幻想だったと気づいた。

 自分が息子の人生を踏みにじっていたのだと気づいた時には既に手遅れで、親子仲は修復不可能なまでに拗れていた。息子の気持ちなど推し量るべくもない。


 エヴェリーナは怖かった。愚かな自分が、息子と再び関わることで同じ過ちを繰り返すことを恐れていた。だから回帰してからは徹底的にガブリエーレを避けていた。

「面白い」「続きが気になる」と思ってくださった方は、★評価・ブクマ等頂けますと幸いです。

執筆の励みになります。

次回更新は本日の夕方ごろの予定です。

よろしくお願いいたします。

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