111.怒りと分かり合いたい気持ち
それから暫く泣いて、その間ずっと、皆何も言わず傍にいてくれた。ただそれだけ。それだけだったけれども、温かかった。
こんなに泣いた記憶なんて、なかった。
けれども、泣けば泣くほど、少しずつ冷静になっていく。
メミニのことは、きっとコンコルスさんに頼むことになるのだろう。コンコルスさんの命を犠牲になんて、本当にいいのかなんてわからない。けれども、自分の命を犠牲にしてまでメミニを生き返らせたいと思う気持ちは消えていた。
両親のために、なんて、ずっと思って旅をしてきたけれども、本当にコンコルスさんの命を犠牲にしてまで叶える事なのかすらわからなくなっていた。
そしてもう一つ。ウルティオさんのこと。ウルティオさんのことも、確かに怒る事なのだろう。けれども、怒れない俺がいた。
これは、きっと紛れもない本音。そして泣いても解決しない事。
もう感情をさらけ出したことが悪いとか無駄だとは思わないけれど、さらけ出したからこそ、それでも消えなかった本音だって改めてわかった。
「ごめん、皆、ありがと」
俺は顔を上げて、皆に笑顔を見せる。
「クロノの本音、聞けて嬉しかったわ」
そう言ってくれるリトラに嬉しくなりながらも、それだけで終わらせたくなかった。
「あの、さ。ウルティオさんのことなんだけど……」
俺がウルティオさんの名前を出せば、皆、ソフィアすら険しい顔を見せる。皆、俺のために怒ってくれているのだろう。けれども、だからこそ本音を言わなければいけないのだ。
「俺、ウルティオさんを完全な悪者にしたくない」
「いや、でもよ……」
「ウルティオさん、言ってたんだ。幸せになるべき人が幸せになる世界を作りたいって。そして、エウレさんの望む世界を作るんだって。多分やり方が違うだけで、ウルティオさんも俺達と同じ未来を望んでたわけで……。だから、俺の本音と向き合っても、やっぱり憎めないんだ」
俺がそう言えば、ゼノは大きくため息をつく。
「まあ、おまえならそう言う気がしてたけどよ」
「でも、でも、幸せとか言って、結局自分の事しか考えてないもん!」
ソフィアが少し泣きそうになりながら叫ぶ。
「だってだって、黒い魔法作るための知識を教えてくれたの、ティオおじさんなんだよ!? これが世界のためなんだって教えてくれたのも! 女神様の伝説探すことになったきっかけだってティオおじさんだった! 私のことすっごく褒めてくれて! 娘みたいだって言ってくれて! でも結局、全部自分の願望叶えるためじゃん! こんなの、誰かのためって言えない……!」
そう言って、ソフィアは泣き始めた。
俺も、こんな風に怒れたら良かったのかもしれない。けれども、どうしても同じ未来を見ていたウルティオさんと、分かり合える道を探してしまうのだ。
「……ソフィア、ごめんなさい。私は、クロノの意見に賛成よ」
と、リトラが静かに口を開く。そんなリトラに、泣きながらソフィアは睨みつけた。
「なんで!? ティオおじさんはクロノも酷い目に合わせた人だよ!? リトラは許せるの!?」
「それは……。少し許せない気持ちもあるわ。でも……」
そう言いながら、リトラは少し眉を下げる。
「ウルティオさんね、フォッシリムに帰るたび、ソフィアを最初に確認して、安心した顔をするの。きっとウルティオさんにとって、ソフィアは黒い魔法の法則を研究するだけの人だけではないのでしょうね。それにね、クロノを眠らせたまま行った時は、クロノを見て焦っていたし、クロノがいない時は、隠そうとしたら何度も無事なのか不安そうに確認してたわ。きっと二人の事が大切なのは間違いないのよ。決してウルティオさんは私たちを苦しめたかったわけじゃない。そう思うと、分かり合える未来もあるって、そんな気がするの」
「それは……、でも……」
まだ飲み込めていないようなソフィアの隣で、ゼノもまだ不満そうな顔をしながら口を開く。
「正直、大切な気持ちがあったら何してもいいかって言われると、そんなことぜってえねえ。クロノを追い詰める状況作ったのも間違いねえし、ソフィアの言うことも最もだ。寧ろ、クロノに関してはもっとちゃんと怒れって思う。……でもよ」
ゼノは少しだけ遠くを見ながら言った。
「分かり合いたい気持ちがあるってのも事実なんだよな。だから違う選択するのが、余計腹立つっつうかさ」
ゼノの言葉に、ソフィアは涙を拭う。
「……分かり合いたいというか、反省して心入れ替えて欲しい」
「……それはまあ、違いねえ」
二人のやり取りに、リトラが口を開く。
「とりあえず、コンコルスさんの所に行きましょう。私、コンコルスさんとウルティオさんが何を話していたかまでは知らないの。ウルティオさんがクロノとあんなことがあったなんて思ってもいなかったから、詳しく聞いてもいなかったもの。もしかしたら、説得する方法が見つかるかもしれないわ」
リトラの言葉に、皆頷く。
「まっ、とりあえず文句ばっか言っても解決しねえもんな。俺はウルティオのじいさんのこと、やっぱ苦手だし、一発殴りてえって気持ちの方が強いけどよ」
そう言って、ゼノは困ったように俺を見た。
「おまえを見てたら、もしかしたら分かり合えるかもって、思っちまうんだよな」




