24、獣ケダモノ女の子
四鏡島本土につくと。
天川たちを乗せていたクルーザー停泊地に夏用のスーツを着た女性と警官が何人か立っていた。
「おお、五十嵐君か。出迎えかい?ご苦労様」
そう手を上げる六文銭に女性はため息をついた。
「そうやって好き勝手できる立場は気楽でいいですね。…それでその女の子がそうなんですか?」
六文銭の隣に並ぶ天川と水無月を見ながらそう問う女性。
「うむ。だが君は氷室君のお迎えだろう。今は余計な詮索は無しで頼む」
そう促す六文銭に女性は目を細めるがすぐにそれは収まる。
「はいはい。わかってますよ。私としても誰だろうができるだけ穏便に事件を解決してくりゃ何でもいいんです。警察の威信なんか知ったこっちゃないし」
そうやれやれと手を広げる女性に六文銭は、心配するなと肩にポンと手を置いた。
「勢いあまって氷室を殺すほど四鏡さんは馬鹿じゃないさ。それに念のため私の部下を二人つけている。彼を無事に返さないと魔法公安課も落としどころを探れなくなるだろうからな」
「こっちとしてはいけ好かない氷室なんかこれを機に始末してほしいくらいなんですがね。…ま、一応感謝してますよ。これでようやく長期出張から解放されそうだわ」
そういって女性は隣に停泊していた警察用のクルーザーに飛び乗った。後ろの警官も続く。
「あー、そういえば」
女性はクルーザーのハンドルを握りながら天川の方を向いた。
「君が天川…翔くん、だっけ?」
女性がそう聞くと天川は黙って頷いた。
「六文銭からきいてるわ。その子のためにあの氷室と対峙したんでしょ?とっても素敵だわ」
「…いや別に」
実際はすぐに逃げ出したけど、と天川は心の中で答えた。
だが女性は言葉とは裏腹に天川を褒める気はなかったようで、でもねとつづけた。
「私から言わせれば蛮勇よ。今回はたまたま運が良くてうまくいっただけ…って思っといたほうがいいわね」
女性はそう言ってエンジンをかけた。
クルーザーから轟音が響く。
天川は余計なお世話だと思ったが。
女性の次の言葉が心に響いた。
「長生きしたければ、適当に頑張るのがおすすめ。無理したところで大抵は碌な結末にしかならないわ」
別に理解しなくてもいいと言わんばかりに。
女性は天川の返答を待たず、クルーザーを発進させた。
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四鏡邸。
レンタカーでここまでたどり着いた天川ら3人。
「霧雨、ちょっと先生と二人きりで話したいからどっかで時間つぶししててくれないか?」
言葉通り水無月がいる前では話しずらい話をするため、天川はそう言った。
水無月はお兄ちゃん悪だくみ?と悪戯に微笑んだものの、素直にわかったよと引いてくれた。
そして。
「霧、じゃあお部屋でお昼寝してくるね」
と適当な客室に入り、そのままベッドで寝てしまった。
「さて。それじゃあ、私たちは遊戯室ででも話そうか」
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四鏡邸、遊戯室。
六文銭はなんとなくという感じで玉突きを始めた。
ブレイクショットの心地よい打音が部屋に響く。
六文銭が天川にも仰ぐが天川は首を横に振り、近くにあった椅子に座った。
「付き合い悪いな。…ああ、単純に疲れているからか」
と、六文銭は一人でナインボールを始めた。
天川は水無月に多量の魔力を喰われていた。それにあのやり取りで体力を消耗していたのだ。本来であれば今すぐにベッドで休みたい状況。
だがそれでも。
「霧雨を僕の家に住まわせるってのは流石にスルー出来ませんからね。あれまさか…ていうか本気…何でしょうが」
本気なんですか?といいかけて多分本気なんだろうな…と思い至った天川はここでため息をついた。水無月がいる状況では追及しずらかった話。
だが本気だとしてこれの本位は聞きたい。
どんなに疲れていようとも。
「そんなに嫌なら君が水無月を説得すればいいさ。『あれ』の気さえ変われば別に私が世話をすることに異論はない」
水無月を『あれ』呼ばわりすることに自然と表情が強張る天川。
そんな天川を見ても六文銭はにやりと笑うだけで、玉突きを続けるだけだった。
「別に嫌とかそういう問題じゃありませんよ。霧雨を安全に匿うことが出来るのは普通に考えて先生のほうが適任…ていうかあなた以外じゃ周りに危険が及びかねない」
天川は時属性変化にて自身の魔力内の時間の流れを変化させることが出来る。
極端に時間を遅くして相手の行動を制限することも可能だ。
しかしそれは限定的でいつでもどこでも即発動とまでは行かない。
天川の意思外で奇襲を受ければ抗う術はない。
時属性変化は天川の現在唯一にして最強の武器。
だが無敵ではない。
「…くくく。君は実に面白いな。全く慢心していないどころか、さらに慎重になっている。普通、拳銃を持てば誰しも気持ちが大きくなったり、それを撃ちたいという衝動に駆られるものだが…武器が人を殺すわけじゃない、人が人を殺すという言葉を思いだすね。…どこで聞いたかな?」
スカーン!!と気持ちいい打音と共にビリヤードの球がポケットに落ちる。
「どこで聞いたかは知りませんが間違ってますよ。武器『も』人を殺すが正解です。各国における銃犯罪率の差を考えればそんなのは明白ですよ。そもそも銃が規制されていれば起きなかった事件が数えきれないほどある…だからこそ自分が持つ力は慎重に使う必要がある」
アルマと出会った当初。
天川は自身で言った。
他転生者はチート能力を授かった故に散っていったのだと。
強大すぎる力は身を亡ぼす危険性がある。
天川はアルマからチート能力をまだ授かっていないものの、すでにその片足を突っ込んでいたのだ。
「だからこそ。君になら水無月を任せられると私は思うがね。…そもそもの話、君は私に水無月を預けることに不安はないのかい?何故だかは知らないがあんなに嫌っている私に」
ここで最後のナインボールがポケットに落ちた。
「ぶっちゃけますと僕も正直先生はそんなに好きじゃないですよ。でも信じています。これは理屈じゃありませんね。もっと正確にいうと『この人信じて裏切られるなら仕方ないな』と思えるから…ですかね」
六文銭は天川の事を評価している。
そしてその天川は水無月を助けたい…助けた。
その水無月を六文銭は無下に扱うことはない。
そう信じたい。信じた。
「ふむ。水無月といい、君といい、私は子供に嫌われる性質でもあるのかな?しかしま、信用されてそうで何よりだ。…しかし残念だがさっきも言ったようにそうしたいなら君が説得しろ」
六文銭はキューをおいて緩んだ表情から冷たい表情に変わった。
「実際会ってあの目を見て分かったよ」
「君が拾った『あれ』は…犬でも猫でもない『獣』だ」
「…」
「こうして今『人間のふり』をしていられるのが不思議なくらいにな」
「…」
「そしてそれが『本当』になるかどうかはお前次第だ」
天川は何も返答できなかったが、六文銭は構わず出口に向かった。
「…まあ、今はとにかく休め。そしてよく考えて、結論を出すといい」
天川はそれを聞いて目を閉じ、頭を抱えた。
その様子を見た六文銭は微笑しながら部屋を出た。
(…さて。『問題』は。水無月だけじゃないぞ?天川翔)
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四鏡邸。
天川にあてがわれた客室のベッドに倒れこむようにうつ伏せになった天川。
(…そういや。アルマがいないな)
そういやと思ったものの、アルマがいないことは既に気づいていた天川だった。
正直展開が目まぐるしすぎて、アルマまで意識を割けられなかった。
だがまあ、転生の女神?である以上、この世界の理から外れた存在。
いずれ戻ってくるだろうとそのことについてはとりあえず置いておく。
思考する。
(説得ね。霧雨のあの様子じゃ俺の話も聞かなそうだけどな…)
そもそも。
説得するも何も六文銭はどうやって天川の家に水無月を住めるようにするのだろうか?
天川自身、この世界での父にまだあったことがない。聞けば魔法省に勤めていて六文銭とも面識があるそうだが、だからと言って水無月をおいそれと二つ返事で預かるようなことはできないと思う。
天川の現在の母である、天川夏奈にしても多少ずれているところはあるが普通に良い母だ。他人の子供…しかもどこの誰ぞかもわからない少女を無責任に引き取るわけがない。
(まあ、そこらへんはそれ。六文銭が無理矢理な方法でねじ込むのだけはそうぞうできる…けど)
思えば学校であれだけ自分の無茶を無理矢理押し通せるのだ。
ならば他人の子を他人の家に押し付けることなど訳もない…かもしれない。
六文銭が札束で天川の両親の頬を叩いて言う事を聞かせるというのが頭に浮かんだ。
だがまあ、自身の母である天川夏奈はそう言うのでは心を動かされるような人ではないと思うが…そこはそれ。金の魔力はとんでもない物であるのも事実で。
(…一応やるだけやってみるかね)
水無月はなぜ初見の六文銭をここまできらっているのか?説得するにはそれを知るのが先決。
移動中は流石に聞けなかった。本人のいる前でどこが嫌いなの?とは聞けないだろう。
取り合えず一眠りしてから、水無月の部屋に行って聞いてみるとするか。
…。
六文銭の言う通り。水無月の希望通り。
自分が水無月の側にいれればそれが一番だ。
だが。
人ならざる者。
水無月霧雨。
あの暴走した霧雨を一応は止めることが出来た自分。
それでも。
次暴走した霧雨を止められる保証はどこにもない。
天川は海の向こうにいる、三好達を思い出した。
この世界で初めてできた友人たち。
もし天川が水無月を預かれば。
下手をすれば大切なあいつらを失いかねない…かもしれない。
(…どこの世界に行っても。一難去ってまた一難なのは変わらんもんだ)
天川はめんどくせえと呟き、眠りに落ちた。
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目が覚める。
天川はむくりと起き上がる。
「…アルマ………はいないか」
天川が目覚めるとアルマが声をかけてくれることが多かった。
しかしそれがない。
流石に少し不安になる天川だったが。
「アルマってだーれ?」
「…ああ、アルマってのは……って!!?いいいい!???」
天川は仰天して飛び上がった。
アルマが座っていた椅子に水無月が座っていて足をパタパタさせている。
「そんな驚かなくてもいいじゃん。せっかくお兄ちゃんの魔力食べるの我慢して起きるの待ってたのに」
そう口を尖らせる水無月。
「あ、ああ…悪かったよ。…って、6時間近くたってるじゃねえか!?随分寝ちまったな…」
部屋に設置されていたアンティークな時計で時刻を確認する天川。
とっくに日が暮れていた。
「で?アルマって誰なのさ?」
そう可愛い笑顔で天川を覗き込む水無月。
「ん?…まあ、そのなんだ。俺の好きなアニメキャラだ。押しってやつ?」
天川がそう答えると水無月は目を細めた。
「なにそれ?お兄ちゃん、きっしょーい。きしょきしょのきしょだよ」
きしょきしょのきしょってなんだと天川は心の中で突っ込んだが取りあえず飲み込む。
「好きなんだから別にいいだろ。そういうお前だって好きなアニメキャラの一人や二人いるだろが」
天川の返しに水無月は嫌らしい笑みに変わった。
「へへ~」
「…なんだよ」
「魔力ちょーだい♪」
そう言って、水無月は両手を前に出した。抱きしめてくれと言わんばかりに。
「いいけど、一つ質問に答えてくれ」
「なーに?」
水無月は可愛らしく首を傾げた。
「どうして先生…六文銭のことが嫌いなんだ?」
天川の質問に、水無月は一瞬だけ止まり、年齢にそぐわない妖艶な笑みに変わり、そして瞳が紅くなった。
「…お兄ちゃんって本当野暮だよね」
暴走したときの紅目。
「ただの我儘…だよ?」
「霧はお兄ちゃんと暮らしたいの」
「…駄目?」
そういって。その赤い瞳はより一層紅に深まる。
吸い込まれそうだ。
(…なんだ?急に頭がぼーとなっていく?)
水無月に瞳を覗きこまれると同時に。
天川の思考がぐちゃぐちゃになっていく。
なにも考えられなくなる。
「…」
「…そっか。野暮なこと聞いたな。お詫びだ、存分に食ってくれ」
天川は目が虚ろになり、無意識に水無月を抱き寄せてしまう。
「えへへー♪なーんでこんなロリコン変態お兄ちゃんが、霧の王子様なのかなー?」
「………」
水無月と天川の唇が重なった。




