22,答えは急速に収束する。
「天川せんせー!!今日も鬼怖かったよー!!!」
部室(教室)に海野がそう泣き叫びながら入ってきた。
155くらいの小柄な矮躯。ブレザー。長めの髪だが、奇麗に整われていた。明るくなった表情はまさに童顔のそれで、『そういうの』が好みのお姉さんはたまらないであろう顔つき。
怖いというのは『心』属性担当顧問の上杉先生のことだろう。天川は属性試験で一度しか彼を見ていないものの、その時お姉系だということが露見していた。
彼にとって海野の容姿はドストライクなのだろう。
「今日も慰めてよーせんせー!…ぐえ!!?」
すり寄ってきた海野の首に無言で水平チョップを喰らわす天川。
「なにするの!?前は慰めてくれたのに!!」
「うっせえ。二人きりなのになんで野郎のお前なんか慰めなきゃいけないんだ」
天川本来の気性は荒めだが普段は猫被っていた。海野とは最初の出会いで本性を見せていたので二人きりの場合(正確にはふたりきりではない(ややこしい))猫を被る必要がなかった。
「…やっぱりダークな天川先生のが僕は好みかな。今日は由利先輩いないの?」
海野は泣き顔からいやらしい笑みにかわった。こいつはこいつで天川とは違った二面性がある。
海野は天川の対面の椅子にすわった。
机には由利先輩用の将棋盤が置かれている。
「シンプルにきもいこと言うんじゃねえ。由利先輩は今日は遅れるってよ。それよりもお前は補講授業が早く終わったんか?」
天川は口調の割にやれやれと言った感じの笑みを見せる。本来の口調と思考で話せる海野という存在は気楽だったからだ。
「たまたまね。…やっぱり『時の試験』続けてるんだ。いい感じに進んでる?」
自分と話しながらもストップウォッチで10秒を正確に止める練習を続ける天川を見て、にやつきながらそう問う海野。
「さあな。…なんだよ。凡人が必死になって練習する様が面白いのか?…なんだったら笑ってもらってもかまわないぜ?」
「いいのー?」
「いや、ぶん殴る」
「だよねー」
とここで、天川と海野はお互い笑った。
やはり海野とは気が合う。
「そういやさ。俺も魔法の授業で『属性変化』を習ったんだけど、『心』属性って何をイメージするんだ?火とか水は分かりやすいけど『心』ってのは想像がつかない」
海野は元々レアである属性持ちで、さらにレアである『心』属性持ちだった。例えば火属性なら火の象徴である赤と熱をイメージすればいい。属性選別を鑑みれば心の属性色は虹色なのだろうけど、色の他になにをイメージするのか単純に疑問だった。
「正確にはいろんな色をイメージする、だね。その時の気分で様々な色に形容できるでしょ?心ってさ。例えば気分が落ち込んでいるときは青だったり黒だったり、そういうことだね」
なるほど。その理屈はわかりやすい。心は七色以上に変化する…だから虹色なのか。
「あと色以外では…『体に命令させる』イメージだね」
そう海野が続けると天川は?な顔になった。
体に命令させる?
「ああ、わかりやすく言うと右手の魔力を心属性に変化させたいんだったら、たとえば虹色と『右手よ上がれ』とか同時にイメージするわけ。上手く属性変化できると本当に右手が上がってくるんだ」
海野は淡々と説明しているがそれがなぜ『心』属性なのか疑問に思って海野に改めて問う天川。
「『心』魔法って精神系サイコキネシスだからね。介護とか医療現場で使われることが多いらしいよ。病気やけがで動けなくなった手足を筋肉ではなく、魔力で動かすって理屈。まるで魔力に『心』を与えるが如くね」
「…納得した。魔力に心を与える、ね。故に心属性」
つまるところ心魔法は肉体強制操作をする魔法なのかと天川は解釈した。
肉体操作。
肉体操作…か。
「なあ、海野」
「なに?」
「例えば右手よ上がれと言ったじゃんか。それは指でも何でもいいのか?」
天川の質問の意図が読めない海野は不思議そうしていたが
「どこでもいいはずだよ。上杉先生もそういってたし」
と答えた。
「そっか。ありがとな。悪いけど今日はこれでしまいだ。急用ができた」
天川はストップウォッチをカバンにしまい立ち上がった。
「え?え?せっかくひさしぶりにせんせーと遊べると思ったのに待ってよー!!」
いうが早いか早々に部室(教室)から出ていく天川の背中を追う海野だった。
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職員室前廊下。
「海野はここで待っててくれ。蓮沼先生と二人で話したい」
天川の目的や理由などをまだ聞いていない海野ではあったが、天川の真剣な表情と声色でいろいろなものを察して何も聞かずただ頷いた。
特段隠す内容ではないが、まだ仮定の域を出ていない段階で色々質問されても面倒だと思ったからだ。
しかし。
天川の中での仮説が本当であれば…。
職員室に入りると放課後で時間が結構経っていたせいか、職員の数はまばらだった。
しかし、運よく天川の担任である蓮沼先生は机に向かって事務作業をしていた。
天川はそこに迷わず向かう。
「あら?天川じゃない。何か用?」
紺色のスーツ。タイトなスカート。アルマとは対照的にスレンダーなボディ。ウェーブのかかった胸下まで届く黒色のロングヘアー。キリリとした表情の可愛いというよりかっこいい系美人。
そう言いながら回転椅子を天川に向ける蓮沼先生。
「先生、質問があります。先日習った魔法の『属性変化』の件についてですが、『時』属性の場合、属性色となにをイメージすればいいか教えてくれませんか?」
真剣な面持ちでそう聞く天川を見て、蓮沼先生は少しの間だけ目を見開いた。
「…『時』の属性色は『黒』よ。なぜかといえば『時は全てを受け入れ、そして全てを終わらせる』から。何をイメージするかは簡単よ。あなたが今やっている『ストップウォッチでの計測』をイメージすればいい。魔力が時属性に変化できたら、体内時計の感覚が正確になるわ」
時の行きつく先は無であり、故に黒…か。
蓮沼先生の返答を聞いて、天川の脳内での仮説が『ほぼ』確信に変わった。
やはり六文銭全ての行動言動…そしてこれまでのこと全てに意味があったのだ。
…だが一つ解せない。
こんな発想…結構安直にたどり着ける。
だが…現状はこの説が最有力。
「ありがとうございました。ついでにもう一つ質問してもいいですか?」
天川の真剣な顔をしながらの問いに蓮沼先生は問い返す。
「それは『時の試験』に関係する質問かしら?」
天川が首を縦に振ると蓮沼先生は首を横に振って返答した。
「じゃあ駄目よ。最初の質問に答えたのは『それだけは答えてもいい』と六文銭先生からいわれてたからね。理由も一応聞いておく?『遅かれ早かれ大体はそこに辿り着くから』だそうよ。それ以外は一切答えるなと言われているから…わかっているでしょうけど他の先生に聞いても一緒よ」
蓮沼先生の返答に今度は違和感を覚えた。天川は口に手を当て考え込む。
六文銭は《安易に他人から助言を聞かないほうがいい》と言った。
それは逆を言えば聞いても問題はないということだ。
口止めする意味とは?
「先生、じゃあ質問を変えます。僕と同じような質問と…『心属性に関して』質問してきた生徒は今までいましたか?」
天川の問いに口元を歪める蓮沼先生。
「何人かいたわよ………で。それを聞いた理由は?」
「ありがとうございました。これで失礼します」
蓮沼先生の問いに答えず、例だけを言い踵を返す天川に思わず呼び止める蓮沼先生。
「ちょっと!?待ちなさい!!」
いきなりの大声に他の先生たちからの視線が集まってしまった。
「…あ、あーこほん。天川。ちゃんと他人の質問には答えるのが礼儀よ」
若干顔が赤くなる蓮沼先生。
「すいません。頭がいま一杯になってました」
天川は振り返った。
「僕は先生と話すまで答えに辿り着いた気になっていました。ただ『もうすでにその発想を持っている生徒が多数いる』以上、まだ僕は辿り着けてはいない。なぜなら…『時の試験』はそんなに何人もたどり着けるほど簡単じゃないと考えていますから」
それじゃあ改めて失礼しますと、職員室を出ていく天川。
(…。正解よ)
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天川宅。
天川は自室で魔法の教科書を読み漁っていた。
足りない欠片を見つけるために。
《天川、何を探しているかいい加減教えてくれませんか?》
簡素な椅子にお行儀よく座っているアルマ。今宵はピンク色のジャージとというヤンキーっぽい
服装だった。
一方の天川は、ベッドに腰かけている。
《アルマ。お前も大体わかってるんだろ?六文銭の望む答えってやつを》
質問を質問で返すなと思うアルマだったが、取り合えず答える。
《つまりあれです。ストップウォッチを『ただ』押すのではなく、魔力を『時』属性に変化してからそれをするということでしょう?蓮沼という教諭の言っていたことが本当であれば、体内時計が正確になるわけですし》
それじゃ足りないなと天川は付け加える。
《いくら『それで』体内時計が正確になったとて、毎回ジャストタイムで計測が出来るようになるとは思えない。人間である以上どうしてもラグや誤差が生じるからな》
そういって魔法の教科書を閉じる天川。
天川の欲しい内容が書かれていないようだ。
《しかし、ネットやスマホもあるのに魔法ってのは随分閉鎖的なんだな。検索しても参考書やテキストが全く出てこない》
今度はスマホをポチりながらそうぼやく天川だった。
《それほど危険視されているのでしょうね。まあ、当然と言えるでしょう。一歩間違えれば重火器等の事件よりも凄惨なことが起きかねないですからね》
それはその通り。だからこそ検閲がきびしいのか。
《しかし徹底されてるよなー。母さんに学生時代の魔法の教科書貸してくれって言ったら全部学校に返却してるっていうし、図書館にも本屋にも置いてない。どうすればいいのかねー」
と、愚痴りながらスマホをぽいと放り投げ、調べ物を諦め今度はまたストップウォッチで計測を始めた天川。
今度は。
『時』属性色である『黒』をイメージしながら。
《…天川、私の質問に》
《アルマ、将棋番組、もう始まってるぜ?》
《!?ああ!なんでそれを早く言わないのですか!?早くテレビをつけてください!!!》
慌てるアルマを見ながら、はいはいとリモコンを手に取る天川だった。
ーーーーーーーーー
翌日。放課後。部室(教室)。
「昨日指せなかったからね。今日はとことん付き合ってもらうよ?」
由利先輩がそう不敵な笑みを見せる。
奇麗な黒色のロングヘアー。背は天川と同じく170くらいある。すでに女性として出るところがでており、三好とは違う、可愛いのではなく、奇麗と言える美少女。
天川と由利先輩はいつも通り、差し向かいで座り、将棋盤を囲っている。
「…構いませんけど。由利先輩に質問があります」
「…女性にスリーサイズを聞くのは失礼だよ?」
なんでそうなる。もしかしてそう言う目で見られているのだろうか?
だとしたらショックだが、…まあ、知りたいと言えば知りたい。
「ははは!冗談だよ。いつもぼこぼこにされてるからちょっとふざけてみただけさ」
よくわからない冗談だと思った天川だったがとりあえず飲み込む。
「魔法の属性変化についてですけど、由利先輩も当然習ってますよね?」
パチと駒を指しながらそう問う天川。
「ん?ああ、勿論習ってるよ。それがどうかしたのかい?」
由利先輩も駒を指しながらそう答えた。
「例えばの話。『属性を複数重ねる』ようなことって可能かどうかわかりますか?」
天川の質問に由利先輩の手が止まった。
「それは…可能だね。私は2年生だけど『最近』『授業内容が急に変更されて』『属性融合』の授業を受けたんだ。…なんかこう随分『タイムリー』な質問だね。しかもその特別授業をしたのは六文銭舞雪だ」
もしかして時の試験と関係あるのかい?と続ける由利先輩。
天川は頷く。
天川は初めて属性変化の授業を受けた時、蓮沼先生の初めの言葉を未だに覚えていた。
【「『本当は』座学から始めるのが魔法学なんだけど、まあ『色々』あってね。実践で先ずは魔力を肌で感じてもらうわ」】
これも指向性のあるものだった…と考えるのが自然だ。
「由利先輩」
「なんだい?」
「指しながらでいいので『それ』教えてくれませんか?」
「君さえよければ、いつでも付き合ってあげるよ」




